家族の食事でも気が抜けないわ
夕食の時間になると、食堂に兄弟と妹が、それぞれ従者を連れて集まって来た。
「今日はヘルグラウ様たちと、お出かけと聞いていたので、お姉様とは夕食はご一緒できないかと思っていました。良かったです」
妹のディアがニコニコしながら、私に話しかけてきたら、今度は弟のシャルが
「僕とディアは、今日はお庭でお茶会の練習をしていました。お姉様は今日のお出かけ、どちらに行かれたのですか?」
シャルは何にでも興味を持つお年頃だから、お茶会の練習の話より、私の話が気になってしまうみたいだ。
私は、そんな2人が可愛くて、食事が始まるけど、少しだけ話をしようと思っていたら……
「そうだよティト、どこにいたんだい?」
シュト兄様が、少し遅れて入室してきた。
ディアの言葉は聞いていなかったようだ。
そのおかげか、和かに嬉しそうに、私たちの話に参加してきた。
——知られてなくて良かった
シュト兄様は、ヘルグ兄様の存在だけでもうるさい。アズ兄様も一緒だと言えば……
……余計なことは考えちゃダメ。疲れるわ。
とりあえず知られたら、食事前にかなり面倒くさくなていただろうな。
「ディア、シャル勇者資料館に行ってきたわ」
私が、弟妹に外出先を伝えたら
「勇者? いいなぁ……ティト姉様、楽しかった? 僕もいつか行きたいです」
最近、剣術を習い始めたシャルは、勇者に興味津々だ。
「展示もあるけど、ディアとシャルには、今は見ても、よく分からないかもしれないわね」
そう伝えると、2人はちょっとガッカリした。
「シャルは、剣ばっかり振らないで、ご本をしっかり読んで、勉強をたくさんしなきゃ、きっと理解できないわよ」
ディアとシャルは双子のせいか、遠慮なく言いたいことを言い合う。
「えー、僕、本は嫌だなぁ。でも、きっと大きくなったら理解できるよ」
ディアに忠告されたシャルは、平気そうな顔で笑っている。この2人は性差はあれど、なんだかんだと仲良しだ。
「ディア、シャル。大きくなっても、異世界の物ばかりだから、2人には展示品が何か、よく分からないかもしれないわよ?」
あのアズ兄様ですら、説明文だけでは理解していない時があったもの。
「……ティトは、異世界の物を見て、理解できたのかい?」
シュト兄様は、わざとではないけど、痛いところを突いてきた。
「……説明文を読み、実物を見て、同行者たちと考察しただけですわ」
——危なかった。
実際、うまく説明できなくて、アズ兄様とヘルグ兄様が、いろいろ想像して、こちらに確認したのが正解だけど……
「勇者資料館で考察したのか? ティト、一体誰と行ったんだい?」
(またヘルグラウか。でも、ティトは『同行者たち』と言ったよな……他は……まさか?)
シュト兄様の心の貫通にはだいぶ慣れたけど、困ったことに、いつも私のことになると、やたら察しがいい。
——本当にやめてほしいわ
貴族令嬢は、自ら好んで勇者資料館には行かないだろうから、今回は分かりやすかっただろうけど……
——余計なことを言って、墓穴を掘ったわ。
「お兄様……目つきが怖いです」
だからこっち見ないでください。と、目を逸らしていたら
「シュヴェルト話をやめなさい。ティト、お食事の手が止まっていますよ。この後、お父様に呼ばれてますから、お食事に集中なさい」
タイミングよく、お母様からお小言を使った助け船が出された。
(お母様、ありがとうございます)
私は即座にお母様に念話を繋いだ。
(気にしなくていいのよ。シュヴェルトは余計な暴走をするから、ティトは立ち回りには気をつけなさい)
お母様は、上品に黙々と食事を続けた。
(お母様。暴走って……実の息子ですよね?)
私も、黙ったまま、本日のメインのお魚のポワレに取り掛かった。
(シュヴェルトは、普段は優秀なのに、妹のことになるとおかしくなるの。なぜかしら?)
お母様の食事が終わると、給仕がお茶を準備し始めた。
(それは……シュト兄様が『シスコン』だからでは?)
私は、上品さが損なわれない程度に、急いで皿の料理を口に運んでいく。
(ティト、あなたいつの間にシュヴェルトの能力を知っていたの?)
お母様の眉間が一瞬ピクッと寄った。
(知ったのは、私が能力を授かってすぐですわ。シュト兄様の心の声、ダダ漏れで……)
私は、食事に集中したせいで、うっかり崩れた言葉を使ってしまった。
(ダダ漏れ……伝えたいことは分かりますが、こちらにはない表現ね。ティト、前世の言葉なら気をつけなさい)
お母様には、やっぱり注意されてしまった。
(はい、申し訳ありませんでした)
私も、ちょうど食事を食べ終わった。
(ティト、もしかして『シスコン』って、前世の言葉なのかしら?)
お母様に尋ねられ、きれいな所作で食事を進めているシュト兄様を、ちらっと見てみた。
(お母様、その通りですわ。後からお伝えしましょうか? 本来は素敵なお兄様なのに『シスコン』のせいで台無しなのです)
私の声を聞いて、お母様はお茶を飲みながら目を閉じてしまった。
(ティト、今後、シュヴェルトに婚約関連のこと、話しても大丈夫だと思う?)
お母様は、お茶を飲み終わるとフッと息をついている。
(シュト兄様が余計なことをする未来しか見えません……やっぱり、お兄様には正式に決まるまでは言いたくありませんわ)
私の食事が終わり、シュト兄様の食事が終わる前に、お父様が声を掛けてきた。
「ティト、もう食べ終わったのなら、話があるから、そろそろ執務室に来てくれ」
お父様に言われ、私はお母様との念話を止めて、部屋を移動するために席を立った。
「お父様かしこまりました。すぐに参ります」
おかげで、食後のシュト兄様に捕まることなく、両親と共に執務室に向かった。
——シュト兄様から逃れて良かったわ
シュト兄様は、何をやっても有能な人だ。
だからきっと、ヘルグ兄様の存在だけでなく、アズ兄様のことにも気付いているはず。
——絶対、アズ兄様の邪魔してくるわよね
シュト兄様のことだから、きっとアズ兄様を認めたくなさすぎて、あえて口にしないのだ。
頭の中から存在を消しているんだろうな。




