報告と心の叫び
「それじゃあ、また明日」
ヘルグ兄様は、にこやかに
「ご両親にも、よろしくと伝えて」
アズ兄様は、何か含みを持たせたように、それぞれ挨拶をして馬車は去って行った。
「ごきげんよう」
私は疲れを感じたまま、馬車が角を曲がるまで見送った。
「お嬢様、お帰りなさいませ」
ソフィアが出迎えてくれたので、荷物を預けて一緒に自宅に入ると、
「おかえりティト」
「ティト、遅かったわね?おかえりなさい」
玄関口に、なぜか両親が待ち受けていた。
「お父様、お母様? そんなに遅くはないはずですが……わざわざ出迎えて下さったの?」
なぜかしら?
「今日はグランディエラ様と、どちらまでお出かけになっていたのかしら?」
お母様から、お出かけの話を尋ねられた。
「3人で、勇者資料館まで行って、帰りに噴水広場のカフェへ行ってきましたわ。その……何か不都合でもありましたか?」
ヘルグ兄様の事は聞かないのかな?と思ったけど、チャコ姉に出会ったことを内緒にしたいから、余計な事は言わない。
万が一、チャコ姉が勇者だと話が流れたら、私が先生に恨まれそうだしね。
チャコ姉のことは……今は黙っておこう。
「勇者資料館?また、子供が行くには随分と珍しい場所へ行ったな」
勇者資料館は、なかなかにマイナーな施設のようだった。
「先日、授業で聞いた後、ヘルグ兄様から勇者は『転移者』が多いと聞いたから、興味を持ったのです」
お父様とお母様なら、私が魂の転生者だから、気になったと伝わっただろう。
2人とも、シンクロしながら頷いている。
「カフェに寄ったなら、夕食は一緒には食べないのかしら?連絡はしたの?」
お母様は、一緒に食事することが出来ないのかと、少し悲しそうだ。
「いえ、少しだけしか口にしていないので、夕食は一緒に食べさせてください」
ついでに、カフェで起こったことを、二人に伝えておこうかな?と、考えていたら、
「ティト、玄関口で話すものではないよ。夕食には少し早いし、リビングに向かおうか」
お父様に注意されて、私たちは玄関からリビングに向かった。
ソファーに座ると、ソフィアは迅速にお茶を淹れてくれる。
——彼女は仕事が早いわね。
「お父様、お母様、先程カフェで起こったことなのですが……」
私はカフェでの出来事を、2人にかいつまんで話をした。
「呼ばれもしないのに、VIP席に?!」
お父様は、驚きのあまり声が上擦っていた。
「しかも、ノックの返事も待たずに……」
お母様は、マナーの悪さに顔を歪め、そのまま絶句してしまった。
「フルオリート家は、娘可愛さのあまりに、貴族教育以前に『人としての教育』すら出来ていないみたいだな」
お父様の表情、お仕事の時の厳しい顔になっているわ。
「ノックの返事を待つことすらできないなんて、獣と同じですわ。今後、店の利用は控えるように、今度のお茶会で皆にお伝えしますわ」
——これだから、貴族社会は怖いわ。
内容にはよるけれど、子供の失態すら、その家の評判を下げることになるのよね。
——最近緩んでるし、気を引き締めなきゃ
私が彼女を庇って、言わずにいても、アズ兄様とヘルグ兄様は必ず報告するだろう。
私だけが沈黙すると、今度は、事を知らなかった両親が、周りから非難されることになるのだから、黙っておく選択はない。
「アズ兄様、その令嬢に付き纏われて、困っていたみたいなので、丁度よかったみたいです」
私の言葉に、2人は顔を合わせて、頷き合い納得していた。
「アズール君も、大変だったのだな……」
お父様は、何やらとても共感している。
——同じような経験があったのかしら?
「しつこく言い寄るなど、淑女として恥ずべき行為ですわ。今回のことも、グランディエラ家の事だから、しっかり対応されるでしょうね」
お母様は、余程、嫌悪感が酷いのか、目を瞑り頭を振っている。
2人ともアズ兄様のことを、気にかけているみたいだわ。
——何かあったのかしら?
「そういえば……お父様とお母様、朝、アズ兄様達と何を話していたの?」
ふと、朝のことが頭をよぎったので、尋ねてみたら、
「うん、まあ、なんだ。ティトの気持ち次第ではあるが……今はまだ、気にしなくていい」
お父様は、何だか煮え切らない返事だ。
「旦那様、悠長に構えていてはなりませんよ。今回のこともありますし、早急にお返事をお願いしますね」
お母様は、お父様を急かしている……
私とアズ兄様が関係すること……
——あ!これはもしかして。
「もしかして、私、アズ兄様と婚約することになるのですか?」
私の質問に、両親はびっくりしている。
——そんなに驚くことかしら?
「アズール君と話をしたのかい?」
(もしかして、心の声を聞いたのか?)
お父様、焦って心の声が貫通しています。
「ティト、能力を使ったわね?」
(グランディエラ様との事は望みだったの?)
お母様も貫通してますし、どちらも違います。
「いえ違いますよ。何となく話の流れ的に、そうなのかなと思っただけです」
貴族令嬢の年齢的にもあり得る話だし、このくらいなら、心を読むほどのことではない。
「そうか、今は話す時間がない。ラヴェル、ティトと共に、食後に執務室に来なさい」
(はあ、そうだった、娘は見たままの精神年齢ではなかったな)
お父様は、苦渋に満ちた顔をしている。
アズ兄様との婚約に何か、懸念しなければいけないことでもあるのかしら?
お父様の苦悶の表情に、私は少し不安になってしまった。
「旦那様、その顔おやめくださいな。ティト、お父様は怖い顔なさっているけど、悪い話ではないから、気にしなくていいのよ」
お父様は、お母様に注意をされると、手で顔を塞いで天井を仰いでいる。
——どう見ても、難題にしか見えないわ。
(嫌だ!まだ、娘は嫁にやりたくない!)
お父様の、貫通した声のおかげで、お母様の言う通り、気にしなくていいと理解した。




