リリの急変
朝の馬車内は、昨夜話をした、ハーレム勇者の話で持ちきりだった。
「……勇者はきっと、ゴリゴリのマッチョで我儘な俺様ナルシストだろうな」
——やめて、それは笑う。
「ちょっとヘルグ兄様、変なまとめ方をしないでください」
笑い過ぎてお腹痛くなるから、これ以上想像したくないです。
「絶対、そんなハーレム野郎より、特殊部隊の方々のが強いよ」
アズ兄様がそう結論づけて学園についた。
「今朝は王子がいないから平和ですね 」
今日みたいな日が、続いてくれたらいいわ
「まあ、朝から一緒になることはまずないから安心していいよ」
アズ兄様は王子の扱いがかなり雑だけど、朝から平和ならそれでいい。
***
「ティト、待たせたな!サロンに行くぞ」
お昼になると、元気いっぱいな王子がアズ兄様達を引き連れて迎えに来た。
——これは想定内よ。
でも、想定外がひとつだけある。
「今日は、朝からずっとリリお姉様に会っておりませんわ?皆様はお見かけになって?」
そう、朝からリリお姉様がいない。
「そう言えばそうだな?でも、今までも二日に一度見かけるぐらいだったから、本来ならこんな感じだよ?」
アズ兄様はそう言っているけど……
昨日のリリお姉様のこともあるから……
——少し心配だわ。
リリお姉様、ちょっと両極端になりやすいタイプなのよね。
「それなら良いのですが……」
とりあえずサロンに向かうと、渡り廊下の中庭を挟んだ向こうに、リリお姉様がいた。
「あ、リリお姉様」
私が声に出すと、王子の姿勢が途端にピシッと伸びた。
アズ兄様とヘルグ兄様にも、一気に緊張感が生まれた。
——リリお姉様、どれだけの存在なの?
リリはこちらに気付き、足早に中庭を横切りこちらにきた。
3人を一瞥した後、わたしに向き合うと
「ティト、おはようを言うには遅くなってしまったわね。今からサロンに行くの?」
と、声を掛けてくれた。
「はい、リリお姉様も一緒に行きますか?」
私はリリお姉様に尋ねる。
「ごめんなさい。今日は約束があるから、また後日にご一緒しましょうね?今日の帰りもアズールと一緒?仲良くできて何よりですわ」
——リリお姉様?
「私、急ぎますので失礼いたします。では皆様、ごきげんよう」
リリお姉様は王子を一切見ることなく、綺麗に礼をして去っていった。
「……ティト、今のは誰だ?」
王子が、不思議そうに私に尋ねてきた。
「何言ってるのですか?……リリお姉様じゃありませんか」
何を当たり前のこと聞いてくるのかしら?
「いや、アレはリリではない。僕の存在を認識して説教しないなんて、リリなわけない」
王子は混乱して、ぶつぶつ言い出した。
とりあえずサロンの中に入り、昼食を取る。
「ありえない……いや、今日は文句の付け所がなかったのか?」
王子は食事の間、1人悩んでいたけど、他2人が放置しているから、私も放置しておいた。
昼食を食べ終え、お茶を飲み始めたとき
「ティト、昨日何かあったのか?」
アズールが、私にこそっと聞いてきた。
「特に何も無かったですよ」
(後で話します)
念を飛ばし繋ぐ。
「そうか、わかった」
(話は長くなるか?)
私はお茶を飲みながら
(ま、時間がある方が伝えやすいですね)
と伝えた。
(では2日後なら、帰りにティトの家に寄れるからその時に詳しく聞くよ。帰りに大まかに教えてくれ)
(分かりましたわ)
「ユング王子、早く食べないと昼休憩が終わってしまいますよ」
ヘルグ兄様に急かされ、とりあえず食事を終わらせた王子は、まだ腑に落ちない様子だ。
「ユング、リリは昨日のこともあるから、ティトの前だし丁寧になったんじゃないのか?今までの対応がおかしかったんだよ」
アズ兄様が言っていることも一理あるわ。
実際は私を気にしたのではないだろうけど。
「あのリリだぞ?単なる気まぐれか……本にでも影響されたか?前に影響された時は半日も持たなかったな……」
「……はっ!むしろこれが戦略か?クソ!まんまと引っかかった」
王子はやられた!と悔しがっていたが、とりあえず一旦は、落ち着いたみたいだ。
その日は、その後も取り立てて何もなく、帰りの馬車で、アズ兄様達に昨日のリリお姉様の様子を軽く話した。
「リリは周囲に気持ちがバレるのを嫌がって落ち着いたんだな?ティトの懸念は当たってる。リリへのアドバイスも助かった。ありがとう」
アズ兄様に褒められちゃったわ。
「ユング王子が、余計なこと考えなければいいけどなぁ……」
ヘルグ兄様が言うと、現実になるから止めてください。
「お互いの思いが、食い違ってすれ違わないことを願いますわ」
馬車が到着したので、挨拶をして帰宅した。
2日後に、リリお姉様に遭遇したその時
「リリ、お前やっとしおらしくなったな?いままで、王子に対して失礼すぎたからな!」
王子はリリを煽って、いつもの様に怒らせようとしたらしい。
——王子、それは悪手だわ。
「……今までの非礼を、お詫び申し上げます」
リリお姉様は、悲しげな表情で王子を見ると、足早に去っていった。
——あー、王子やっちゃったわね
帰宅後に、アズ兄様とヘルグ兄様が、
「王子はあの後、相当パニックになってた」
「ユング、かなりショックだったみたいだよ」
と、教えてくれた。
「とりあえず王子はさておき、今はリリお姉様のことは様子見しましょう」
彼女なりに何か考えがあるのかも。
「うん、すぐに動かない方がいいだろうね」
ヘルグ兄様的にも、今はすぐに動く時じゃないらしい。
「なら、ユングは黙らせとくよ」
アズ兄様が、王子を宥めることを承ってくれたので、いったんは放置することで一致した。
「あの日以降、ぱったりリリお姉様と会わなくなってしまいましたわ……」
王子は、ついにリリお姉様に呆れられてしまったのかも。と不安に駆られている。
「ユングが日に日に萎んでいくんだ……」
アズ兄様もさすがに見かねて、困り始めているみたいだわ。
——このままではすれ違ってしまうわ。
もう一度リリお姉様の話を聞かなくちゃ。




