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私の能力は『以心伝心』全部丸聞こえですわ。【第1章100話完結済】  作者: 黒砂 無糖
初めての学園生活

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リリの急変

 朝の馬車内は、昨夜話をした、ハーレム勇者の話で持ちきりだった。


「……勇者はきっと、ゴリゴリのマッチョで我儘な俺様ナルシストだろうな」


 ——やめて、それは笑う。


「ちょっとヘルグ兄様、変なまとめ方をしないでください」


 笑い過ぎてお腹痛くなるから、これ以上想像したくないです。


「絶対、そんなハーレム野郎より、特殊部隊の方々のが強いよ」


 アズ兄様がそう結論づけて学園についた。


 「今朝は王子がいないから平和ですね 」


 今日みたいな日が、続いてくれたらいいわ


「まあ、朝から一緒になることはまずないから安心していいよ」


 アズ兄様は王子の扱いがかなり雑だけど、朝から平和ならそれでいい。



 ***


「ティト、待たせたな!サロンに行くぞ」


 お昼になると、元気いっぱいな王子がアズ兄様達を引き連れて迎えに来た。


 ——これは想定内よ。


 でも、想定外がひとつだけある。


「今日は、朝からずっとリリお姉様に会っておりませんわ?皆様はお見かけになって?」


 そう、朝からリリお姉様がいない。


「そう言えばそうだな?でも、今までも二日に一度見かけるぐらいだったから、本来ならこんな感じだよ?」


 アズ兄様はそう言っているけど……


 昨日のリリお姉様のこともあるから……


 ——少し心配だわ。


 リリお姉様、ちょっと両極端になりやすいタイプなのよね。


「それなら良いのですが……」


 とりあえずサロンに向かうと、渡り廊下の中庭を挟んだ向こうに、リリお姉様がいた。


「あ、リリお姉様」


 私が声に出すと、王子の姿勢が途端にピシッと伸びた。


 アズ兄様とヘルグ兄様にも、一気に緊張感が生まれた。


 ——リリお姉様、どれだけの存在なの?


 リリはこちらに気付き、足早に中庭を横切りこちらにきた。


 3人を一瞥した後、わたしに向き合うと


「ティト、おはようを言うには遅くなってしまったわね。今からサロンに行くの?」


 と、声を掛けてくれた。


「はい、リリお姉様も一緒に行きますか?」


 私はリリお姉様に尋ねる。


「ごめんなさい。今日は約束があるから、また後日にご一緒しましょうね?今日の帰りもアズールと一緒?仲良くできて何よりですわ」


 ——リリお姉様?


「私、急ぎますので失礼いたします。では皆様、ごきげんよう」


 リリお姉様は王子を一切見ることなく、綺麗に礼をして去っていった。



「……ティト、今のは誰だ?」


 王子が、不思議そうに私に尋ねてきた。


「何言ってるのですか?……リリお姉様じゃありませんか」


 何を当たり前のこと聞いてくるのかしら?


「いや、アレはリリではない。僕の存在を認識して説教しないなんて、リリなわけない」


 王子は混乱して、ぶつぶつ言い出した。


 とりあえずサロンの中に入り、昼食を取る。


「ありえない……いや、今日は文句の付け所がなかったのか?」


 王子は食事の間、1人悩んでいたけど、他2人が放置しているから、私も放置しておいた。


 昼食を食べ終え、お茶を飲み始めたとき


「ティト、昨日何かあったのか?」


 アズールが、私にこそっと聞いてきた。


「特に何も無かったですよ」

(後で話します)


 念を飛ばし繋ぐ。


「そうか、わかった」

(話は長くなるか?)


 私はお茶を飲みながら


(ま、時間がある方が伝えやすいですね)


 と伝えた。


(では2日後なら、帰りにティトの家に寄れるからその時に詳しく聞くよ。帰りに大まかに教えてくれ)


(分かりましたわ)


「ユング王子、早く食べないと昼休憩が終わってしまいますよ」


 ヘルグ兄様に急かされ、とりあえず食事を終わらせた王子は、まだ腑に落ちない様子だ。


「ユング、リリは昨日のこともあるから、ティトの前だし丁寧になったんじゃないのか?今までの対応がおかしかったんだよ」


 アズ兄様が言っていることも一理あるわ。


 実際は私を気にしたのではないだろうけど。


「あのリリだぞ?単なる気まぐれか……本にでも影響されたか?前に影響された時は半日も持たなかったな……」


「……はっ!むしろこれが戦略か?クソ!まんまと引っかかった」


 王子はやられた!と悔しがっていたが、とりあえず一旦は、落ち着いたみたいだ。


 その日は、その後も取り立てて何もなく、帰りの馬車で、アズ兄様達に昨日のリリお姉様の様子を軽く話した。


「リリは周囲に気持ちがバレるのを嫌がって落ち着いたんだな?ティトの懸念は当たってる。リリへのアドバイスも助かった。ありがとう」


 アズ兄様に褒められちゃったわ。


「ユング王子が、余計なこと考えなければいいけどなぁ……」


 ヘルグ兄様が言うと、現実になるから止めてください。


「お互いの思いが、食い違ってすれ違わないことを願いますわ」


 馬車が到着したので、挨拶をして帰宅した。




 2日後に、リリお姉様に遭遇したその時



「リリ、お前やっとしおらしくなったな?いままで、王子に対して失礼すぎたからな!」


 王子はリリを煽って、いつもの様に怒らせようとしたらしい。


 ——王子、それは悪手だわ。



「……今までの非礼を、お詫び申し上げます」


 リリお姉様は、悲しげな表情で王子を見ると、足早に去っていった。


 ——あー、王子やっちゃったわね


 帰宅後に、アズ兄様とヘルグ兄様が、


「王子はあの後、相当パニックになってた」

「ユング、かなりショックだったみたいだよ」


 と、教えてくれた。


「とりあえず王子はさておき、今はリリお姉様のことは様子見しましょう」


 彼女なりに何か考えがあるのかも。


「うん、すぐに動かない方がいいだろうね」


 ヘルグ兄様的にも、今はすぐに動く時じゃないらしい。


「なら、ユングは黙らせとくよ」


 アズ兄様が、王子を宥めることを承ってくれたので、いったんは放置することで一致した。




「あの日以降、ぱったりリリお姉様と会わなくなってしまいましたわ……」


 王子は、ついにリリお姉様に呆れられてしまったのかも。と不安に駆られている。


「ユングが日に日に萎んでいくんだ……」


 アズ兄様もさすがに見かねて、困り始めているみたいだわ。



 ——このままではすれ違ってしまうわ。



 もう一度リリお姉様の話を聞かなくちゃ。

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