敵か味方か
彼女の発言に、何も言うことが出来ない。
彼女は、先程までの可愛らしい姿とは違い、敵を見定めるような瞳を俺達に向けている。
——まさか、こんなに敵視されるとはな
彼女の口にした内容、その心情を理解はしても、こちらとしては飲み込めない。
——彼女の力は伝説級だ。
彼女の言うように、使い方によってはかなり危険だ。
だから国が保護するのが、当然だとは思う。
決して、見て見ぬふりをして、見過ごして良い力ではないが……
「俺達は知ってしまったけど、ティトは、どうしたい?」
ヘルグラウが彼女に尋ねている。
彼は、彼女を妹のように考えているが、能力を知った今、彼はどうするつもりなのだろう?
「どうしたいも何も、私に選択権はないですよね?貴方達が上に話したら、これから先の人生、私の自由がなくなるだけです」
彼女の言っていることは間違っていない。
「話すか話さないかは、私じゃなくて、貴方達が決めることですよね?」
俺も、国に伝えることは当然なことだと思っているが……
——でも、ものすごい心苦しい。
「俺は、第一王子の護衛騎士だ。ティトがユング王子にとって害意がないならば、ティトの能力はあってもなくても、俺には関係ないな」
ヘルグラウ?何を言っているんだ
「能力の事は、ティトの考えが合ってるよ。誰にも言うべき話ではない。知っている人が増えるほど、王子にとっては不利になるだろう」
そうだ、だから守らなければ……
「だから俺は、親にも言うつもりはないよ」
ヘルグラウが、まっすぐ彼女を見てそう言い切っていた。
——ヘルグラウ、お前……
「ヘルグ兄様……」
彼女は、涙目になりながら、ヘルグラウを見ている。
ヘルグラウの立場は、ユングの護衛だから、政治的な事は何も関係ない。ユングの存在を守ることができれば、それで良いのだ。
——ヘルグラウは能力を必要としない。
一方、俺はどうだ?彼女の能力があれば、俺の仕事はとても有利になる。
ユングの反対勢力の炙り出しや、王族に仇をなす人物の洗い出しも容易になるだろう。
——能力を考えると、欲しいと思ってしまう
でも、せっかく仲良くなれたのに……
その関係がなくなるのは辛い。
彼女の味方だと迷わず言える。
——ヘルグラウが羨ましい。
「ヘルグ兄様ありがとう。兄様はそういうふうに言ってくれるかも?と、ちょっとだけ期待していました」
……ヘルグラウのこと、信用していたんだな
「でも立場があるから……こんなにはっきりと言ってくれるとは思いませんでした」
そう言った彼女は、流した涙を拭っていた。
——ティトを泣かせたくない。
その姿を見たとき、先ほどまでの輝くような彼女の笑顔を思い出した。
——さっきまでの笑顔を守りたいな。
でも立場的に、私欲の為には動けない。俺はどうしたらいいのだろうか?
……どうすればいいか、考えろ。
「アズール様、あなたはどうですか?私を利用しますか。私を利用する人たちに、私の利用価値を言いつけますか?」
涙を拭いたティトは、冷たさを孕んだ瞳で俺を見据えた。
「私の力の存在を、権力のある人に伝えるだけで、あなたの価値が上がりますよ?」
彼女の瞳から、先ほどあったはずの親しさは完全に消えている。
「ずいぶん、嫌らしい言い方をするね?」
彼女は、俺を侮蔑するような目で見ている。
——悲しくなるな。
「当然ではありませんか?私は今、人生の岐路に立たされています。貴方が言うか言わないか、それだけで、私の人生が一変してしまいます」
そうだな……なら、普通はもっと俺を懐柔するために下手に出るものじゃないか?
「……ありがたいことに、私の両親は、私の能力をシュピネル家の繁栄のために利用しようとはしませんでした」
そうか、ティトは家族も守っているんだな。
歴史的にシュピネル家は王家に対して忠義に厚い家柄だったな……
「両親は、私を私のままで良いと、守ることを選んでくれています。貴方から権力者に伝わると、私の大切な家族たちも危険に晒すわ」
まあ、そんな事はない……とは言えない。
——俺が黙るだけで、誰も傷つかない
「君は俺のことを脅しているのか?それに今、君は俺の心を読んでるよね?」
俺の迷いに、気づいてるんだろう?
「先ほど言いませんでしたか?私は『私と自分の大切な人』を守るためにこの力を使います」
彼女は、ふんと横を向いた。
「君が大切に思う人のために力を使うと言うのは聞いたけど、そこに『君自身』が入っているのは聞いてなかったな」
そんなの当たり前のことだけど、心を読まれているのが悔しいから、ただの言いがかりだ。
——思わず眉間に皺が寄る。
「自分を守るために、自分の力を使うのは当然ではありませんか? それで?あなたはどうされるのです?」
彼女は不安と期待が入り混じった瞳で、じっと見透かす様にこちらを伺っている。
「君が、俺の味方になってくれることを望む。だから今は黙っておく。いつか君の方から『俺と僕の大切な人』を助けてくれると信じるよ」
——負けたよティト。
「決して君の自由や行動を縛ることはしない。君が、自身や周りの欲望の為に、能力を利用しない人だと……俺も君を信じたい」
君が僕の信じるに値する人だ、ということに賭けてみようと思う。
「もしも、私があなたと敵対するようなことがあったらどうしますか?」
彼女は俺を試すような事を言う……
「俺は第一王子ユングの側近で幼馴染だ。ヘルグラウも同じだ。害があるなら、迷わず君を排除するだろう。でも君はそうしないだろう?」
そんな悲しいことに、絶対なりたくない。
「味方であるとは、はっきりとはおっしゃらないのですね?」
彼女は真剣な眼差しで、見抜くように俺のことを測っている。
「嘘は言いたくない。どうせ心も読まれているんだ。絶対の味方でいたいけど、君は女性で婚姻により敵対することもあり得る」
恋愛感情と言うものも、いつだって政治的な判断までも鈍らせるんだ。
——政治の裏切りなんて日常茶飯事だ。
「俺達は貴族だ。関係性などその時々の情勢で変わる。だから先は読めない。俺はできない約束はしたくない」
俺は、俺としての希望しか、口にすることが出来ないんだ……
「ありがとうございます。アズール様。あなたがしっかり現実を見てくださっているので、むしろ信用ができました」
ティトの緊張感が、フッと途切れた。
「私も貴方が味方であることを望み、全力で守って頂ける存在でいることを望みます」
そう言った。彼女は綺麗な笑みを見せた。
——許された……のか?
「アズールは賢いし、理不尽が大嫌いだから、味方にしたほうがいい。間違えないで?俺とアズールは、君と一緒に笑っていたいんだ」
ヘルグラウは、ティトの前に膝をつき手を取って笑った。
「……短い時間しか、まだ一緒に過ごしていないけれど、それだけは間違いないと言える」
俺もヘルグラウの隣に並び、反対側のティトの手を取った。
「『俺の勘』だよ。これから先、何か困ったことがあったり、不安に思うことがあったら、俺たちは味方だと思っていい」
ティトの目には涙が溢れてきそうだ。
「俺たちは、ティトの能力を口にはしない。それに、ある意味一番信用のできる男が、これからティトの監視をしてくれるわけだろ?」
ヘルグラウが俺をみて、パチンとウインクをしてきた。
——カッコいいじゃないか。
「『絶対記憶』なアズールがいたら、物凄く安心じゃないか?」
——ヘルグラウの後押しが有難い。
「ヘルグラウの言う通りだ。君が僕達に背を向けない限り安心してくれていい。俺は理不尽が嫌いだ。今はユングにも話さないよ」
——俺も一緒に秘密を守らせてくれないか?
「……でも、今後ティトが助けたいと思ってくれたらその時は僕達に手を貸してくれるか?」
でも、君の能力に頼らなくても良いように、俺達は頑張るよ。
「では、私の能力は両親とソフィアと、ここにいる3人だけの秘密にしてくれますか?」
俺もヘルグラウも、ティトを見つめてしっかりと頷いた。
「あと、実は他にも出来ることがあります。どうせなら知っておいて下さい」
肩の荷が降りてスッキリしたのか、満遍の笑みを浮かべた顔ティトは……
いたずらを仕掛けるような企み笑いをした。




