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【豪華挿絵】月と金星とステラマジカ ~ヒミツの愛情魔法~  作者: 餅餅餅
第6章 月と金星と豪快店主
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冒険録42 ついに念願の住民札を手に入れたぞ!

「さ、オレの話はこんくらいにして、さっさと札作って()みにいこうぜ」

「んだね。僕もう腹減りすぎて(たお)れそうだっての」


 ホリンの話が衝撃的(しょうげきてき)過ぎて忘れていたが、札を発行しに来たのだった。それに、比喩(ひゆ)でもなく一日中働いているホリンにとって酒場は唯一(ゆいいつ)心安らぐ場所なのかもしれないし、早く雑務から開放してあげないとだな。


「ほら、これが住民札だ」


 ホリンが机に置いたそれは、横幅(よこはば)五㎝厚み一㎝ほどの五角形状の金属板であり、中央には二㎝強の黒い玉――魔晶石(ましょうせき)らしき物が半分ほど埋め込まれていた。


「なるほどぉ、これなら金貨二枚も(うなず)けます。それどころか国が何割か補助しているのでは?」


 夕の試算方法を思い返せば…………うん、魔晶石部分だけで金貨二枚近くになる。基盤(きばん)部分も細かく文字が()られた立派なものであり、確かに金貨二枚では赤字になりそうなものだ。


「……ほぉ~、札の存在すら知らんかったくせに一瞬で見抜(みぬ)くかぁ。こりゃ田舎者と()めてかかったクリウスが、(あわ)食ってたんじゃないか? だろぉ?」

「うふふ」


 ニコニコと笑顔を返す夕に、ホリンはヒュゥと口笛(くちぶえ)()く。


「で、これに血を垂らせば所有者に成れる。ちなみに本人が承諾(しょうだく)しないと絶対に所有権を移せないから、(ぬす)まれる心配もないぞ」


 きっと魔晶石も専用に調整されていて、所有者以外には何の価値もないのだろう。実に上手くできている。

 続いてホリンは腰から刃渡(はわた)り二十㎝ほどのナイフ抜くと、


「使うか? ちゃんと手入れはしてるぜ」


 そう言って机の上に置く。これで血を取れということだろう。


「ありがとう、使わせてもらう」


 手に持って(なが)めてみると、その真っ直ぐな刀身は青白く発光しており、異様なまでに軽くて冷たい……何か魔法でもかかっているのだろうか。また、(つか)には宝石が一列に並んで埋め込まれており、とても高価な品だと一目で分かる。流石(さすが)は騎士団長、装備も一級品という訳か。

 早速と刃先を親指に軽く()せば、チクリとした痛みと共に血が数滴(すうてき)こぼれた。それを住民札の魔晶石部分に垂らすと……青く発光し、すぐに消えた。


「よし、次はユウヅだ」


 言われてナイフを手渡すと、夕はおっかなびっくり受け取り、刃先を見つめてゴクリと(つば)を飲み込む。


「うぅ……自分で指を切るって、怖いわね……」

「ハハハ、ユウヅにも怖いもんがあるんだなぁ?」

「ちょっとぉ、ホリンさん? それはどういう意味ですかぁ? あたしのこと何だと思ってるんですぅ?」


 夕はホリンのからかいに、可愛らしく(くちびる)(とが)らせている。気さくに接してくるホリンと話すうちに、騎士団長に対する緊張(きんちょう)も少しほぐれてきたのかもしれない。


「あ、いや、あのクリウスをやり込めたこともそうだが……オレがダイチに(やり)を向けてた時、後ろからすんげぇ目で(にら)みつけてきただろ? オレと対峙(たいじ)したら並のヤツはビビって戦意(せんい)喪失(そうしつ)するんで、随分(ずいぶん)(きも)の座った女の子だなぁと内心(おどろ)いてたんだわ――ダイチ、お前もだがな?」

「それわぁ……パパを護ろうと必死でぇ……ごにょごにょ」

「ん?」

「な、なんでもありませんよ!」


 ちなみに俺がホリンの気迫(きはく)に飲まれなかったのは、親父や道場の福田師範(しはん)といった、ヤバイ殺気を放ってくる師匠(ししょう)と向き合ってきたからかもしれない。


「夕、そんな怖がらなくても、本当に一瞬チクッとするだけだから大丈夫。ほら、注射みたいなもんだと思って?」


 依然(いぜん)とナイフを見つめて固まる夕にそう言ってあげると、


「そっ、そうね…………えぃっ!」


 夕は緊張で少し震えつつも指に刃先を軽く刺し、目をバッテンにした。だが想像より痛くはなかったのか、すぐに目を開いて()み出した血を魔晶石部分に落とす。すると石が金色に一瞬(かがや)き、すぐに消えた。


「よし。最後にこれをこうしてっと……」


 横で羊皮紙に羽ペンを走らせていたホリンは、住民札を羊皮紙に重ねて押さえ、(いん)らしきものを焼き付けた。俺と夕の情報を、帳簿(ちょうぼ)住民(じゅうみん)台帳(だいちょう)あたりにでも記録したのだろう。完全に個人情報の無断取得だが、ここは役所みたいなものだろうし、そもそもこの世界に個人情報保護なんてものはないんだろうな。


「んで次はチャージだな。王都では一日で銅貨五枚分吸収(きゅうしゅう)され、チャージした魔素(まそ)は他の街でも使える。何日分必要だ?」


 つまり住民札は、発行料が馬鹿(ばか)高い全国共通プリペイド魔素カードと言ったところか。


「とりあえず十日分入れてもらおっか?」

「そうだな。ええと、お()りはいけるか?」


 二人分で銀貨十枚となるが、銀貨がないので金貨を一枚渡す。


「おいおい、金貨しかないってのか? ったく一体いくらの取引してきたんだか…………百枚(ぶくろ)から十一枚引いてと……ほい、お釣り。両替(りょうがえ)手数料で一枚(もら)ったぞ?」

「ん……そりゃそうか」


 コンビニでの一万円札の両替ですら断られるのだ、ましてや金貨=十万円札を千円札に(くず)すとなればタダの訳がない。


「んで十日分だな……ほい、ほいっと」


 ホリンは机の引き出しから小粒(こつぶ)の魔晶石を二個右手に取り、続いて十㎝ほどの巻物を左手で机にサッと広げる。それはクリウスさんが持っていた「ブラッディスクロール」と形状は似ているが、血のような赤ではなく薄黄色(うすきいろ)――一般的な羊皮紙のようだ。その十㎝×二十㎝ほどの紙面には、左右に魔法陣(まほうじん)が一つずつ(えが)かれており、俺から見て右から左へと矢印が()びている。


「この『トランススクロール』で魔晶石から魔素を移せる。さ、貸してみろ」


 住民札を手渡すと、ホリンはそれを左の魔法陣に、小粒の魔晶石を右の魔法陣に置いた。すると黒い(もや)――魔素が矢印を伝って住民札へと瞬時に移動し……魔晶石部分が青く発光し始めた。

 ホリンは続けて夕の札を取り、同様にチャージし終えると、使い終わって灰色になった魔晶石を別の引き出しに仕舞(しま)う。……なるほど、この出し(がら)をヤスのような冒険者達が持ち歩き、各地で魔素を集めてくる訳か。つまり魔法が便利な電化製品の代わりをしていて、それを動かす魔素は電気のようなもの、そしてその輸送に必須(ひっす)となるのが魔晶石……そりゃ高値で売れるはずだ。


「ほい、完了(かんりょう)だ。お(つか)れさん」

「ありがとう」「ありがとうございました」


 世間知らずの俺達に色々と手間をかけてもらったもので、ホリンには本当に感謝感謝だ。


「ちなみに、チャージされた魔素が無くなると光が消える。その後は徐々(じょじょ)に魔晶石本体を(けず)って魔素が吸収されて、いずれ(こわ)れるから気を付けな」

「ああ、本体部分がうっかりチャージ忘れへの保険も(にな)ってるって訳か。上手くできてんなぁ」

「ほんとよねぇ」


 科学技術はなくとも、魔法を上手く使う技術が代わりに発達しており、住みよい暮らしを作っているのだろう。本当に面白い世界だな。


「――終わったな? もう用はないな? よぉしっ、さっさと帰って飯だー!」


 長い手続きにしびれを切らしたヤスが、そう言って階段を()け下りて行った。


「ハハッ、アイツらしい」

「だなぁ」「ですねぇ」


 そうして俺達三人は顔を見合わせると、笑いながら階段を降りて行くのであった。




【189/189 (+4)】


これでようやく街に入れてもらえますね!

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