特秘遺産
空中に描かれた魔導回路から握り拳よりも少し大きい光が右手に集まり手の形をなしてゆく。
「魔術師の手か……低級魔法だな。」
「ああ、これから使う魔法は片手で行使するのは時間がかかり過ぎるのでね。」
僕の言葉にカルミラは嘲る様に口を歪めた。
「面白いことを言う。魔力な無いお前がどうやって魔法を使うのだ?もし仮に使えたとしてもお前程度のものが作る魔法は致命傷にはならんよ。」
「……その魔力の無い僕に傷を負わされ魔法の行使ができない状態になっているのは誰なのかな?」
僕が間違いを指摘するとカルミラは顔を歪め唾を飛ばして喚き散らした。
「何を言うかっ!魔力の無い者が苦し紛れに策を弄したに過ぎない。事実はどうだ、お前が使う魔法とやらは腕に刻んだ紋章魔法しか無い。大方それがオーランド公爵家の秘匿遺産とやらなんだろう。」
秘匿遺産?
秘匿つまり公爵家……いや、貴族が秘密にしなければいけない遺産。それが出ることによって大きな変化が予想される物。場合によっては既得権益が著しく損なわれる可能性が高い物。
そして、オーランド公爵家が代々受け継いで秘密にしてきた遺産。
……やはりあの図書館のことか?
あの図書館にあった物は魔道士の叡智を集めた魔術書や魔道具の設計図の数々。それに伴う実験施設……それは転送のクリスタルを作れるほどの物。
これらが公表されれば魔力の無い者、平民でも魔法が使えることが判明し貴族の既得権益が脅かされる可能性が高い。
それに転送のクリスタルを始めとする様々な魔道具があれば世界の姿を変えてしまうだろう。
確かに貴族にとってはこれらの事は秘匿するべき物だろう。
しかし、刻印魔法は図書館の資料を基に僕が考え出したものだ。それをオーランドの遺産だと考えるカルミラは肝心なことを理解していないのではないのか?
「オーランド公爵家の秘匿遺産?それは少し違う。右手に魔術刻印を行う方法はオーランド公爵家が持つ遺産の応用、つまり一部に過ぎない。」
「一部……だと?」
「それにカルミラ、お前もたった今見たはずだ。私のこの腕、魔術師の手を!」
「だからどうしたと言うのだ?低級魔法が使えるのが脅威になるものか!」
やはりカルミラは肝心なことが判っていなかった。
魔術回路、外に描くので紋章回路か……これは精神力が続くかぎり回路を描くことが可能だ。
対して魔術回路は自分の魔力、内なる空間にしか回路を描くことはできない。その回路は比較的簡単な物であり魔力が高くても二三重の回路しか描くことは出来なかった。
その為、何十もの魔術回路(紋章回路)を描いたとされる古の魔導士はお伽話とされてきたのだ。
「内に魔術回路が描けないのであれば……外に描けば良い!そして、その場合更に複雑な組み方が可能となる。」
僕は両手を使い紋章回路を描く。描いた紋章回路にさらに別の紋章回路を組み合わせることで複雑で何十にも重なった紋章回路を描く。
「カルミラ、これがオーランド家の秘匿遺産、紋章魔法だ。」
「紋章魔法だと!魔術回路が幾重にも構成されてゆく……これではお伽噺の魔導士の様ではないか!」
「魔導士の様ではなく、魔導士が使ったとされる魔法だ。だがお前はこれ以上、この魔法について……紋章魔法について知ることは無い。」
カルミラは構成される紋章魔法に恐怖を感じその場で呆然と立ち尽くした。その近くに黒い塊がドサリと落とされた。
ケルベロスだ。ケルベロスはたった今スティーブンによって殴り飛ばされたのだ。
「ちょうどいいタイミングだ。流石は筆頭執事だけはあるな。」
「恐れ入ります。」
そう言うとスティーブンは恭しくお辞儀をした。
「では、カルミラ。サヨナラの時間だ。これが魔導士が使ったとされる魔法の一つ。雷光剣舞だ!」
僕は描き上げた紋章回路に精神力を通す。幾重にも重なった紋章回路は精神力が通ったことで光輝き大きな唸り声をあげる。
光の輝きは何十本もの電工を帯びた剣になりカルミラとケルベロスに襲い掛かった。
辺りに轟音と電光が発する光がまき散らされる。
そしてすべてが静まった後の床には電光の剣によって焼け焦げた跡が残っているだけだった。




