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獣化の呪い

 安心して眠る子供?を空いているベッドへ寝かせる。

 僕は子供?が受けた呪文の進行度を知る為に解析アナライズの呪文を使った。

 解析アナライズ識別アイデンティファイと違い対象となった者を細部まで調べることが出来る。その為、呪文を受けた時の呪いの進行度も判別できるのである。

 特に今回は紋章を強化した解析アナライズを使った。これなら見落とすことは無いだろう。


「師匠どうしたのですか?この子にどこか悪い所があるのですか?」


 解析アナライズの結果を見て黙り眉をひそめた僕を見てリリアは心配になったのだろう。

 僕は首を振りながらゆっくりと答えた。


「いや、この子に悪い所、病気やけがはないよ。……魔法……いや、呪文さえ受けてはいない。」


「え?それはどういう?だってこの子の手足や頭は……。」


 解析アナライズの結果は問題ない健康体だった。そう、呪いさえない。

 だが実際はこの子供?は呪文を受けている。人とは異なる姿になっているのがその証だ。


「呪いが完了している……。」


 そう、この子供?は呪いにより人とは異なる獣が混じった姿に固定されているのだ。


「呪文の効果が終了して今の姿に完全に固定されている。同じように呪文を使っても元の姿が判らないから元に戻すことは出来ない。」


 本来、獣化の呪いは一時的に獣の力を手に入れる事で肉体的な基礎能力を上昇させ知能を下げる。そして呪文の効果が切れると自動的に元の姿に戻る。

 帝国が戦争をする場合によく使われた呪文だと貴族院の記録にあった。

 だが、この子供に使われたのはその呪文とは異なる不可逆の呪文。

 元に戻すことは出来ないのだ。


「そんな……じゃあ、この子はずっとこのままの姿なのですか?」


「残念ながら。もはや人とは違う種族になったとしか言いようがない。幸いと言うべきか……自分の姿に疑問を持っていないのが救いか……。」


 この子供?の言動や食事の時の手の使い方から考えると自分の今の姿に疑問を持っている様子はない。

 その辺りの意識も呪文によって変質されているのだろうか?


「いったい何処で呪文を受けたのでしょうか?それにこの子……そう言えばこの子供?の名前を聞いていませんでした。」


 ―――――――――――――――――――――


「……ピーター、おいらの名前はピーターて言うんだ。」


「そうか……ところで、ピーター。君は何故傷を受けてここに現れたのだ?」


「!」


 僕が子供?ことピーター少年に尋ねるとピーターは突然ビクッとして黙ってしまった。


「師匠、ダメですよ。そんな怖い顔で尋問するような聞き方をして。ピーター君はまだ子供なんだからもっと優しく聞いてみなきゃ。」


 どうやら顔が怖かったらしい。不可逆の呪文を使う相手に少し苛立っていた様だ。

 リリアの方は僕にそう注意するとピーターにニッコリと笑いかけていた。


「それで、ピーター君はどうしてあそこにいたのかな?おねえさんに教えてくれると嬉しいのだけどな?」


 リリアは小さいころから宿屋の手伝いをしていただけあり、子供相手もお手の物の様だ。


「うん。おいらが朝起きた時に町から貴族がやって来たのだ。アイザックと言う金髪でちょっと太った人だった。その貴族は乱暴そうな人やフードを被った変な手下を引き連れていたのだ。」


「……手下?」


 僕はリリアの方へ目配せする。


「そうか。貴族がやって来たのか。それでピーター君。手下は何人ぐらいだったのかな?」


「えーっと、乱暴そうな人は二人、フードを被った人が三人、それで……。」


「それで?」


「それで僕や村の人達が何人か集められて森へ行く様に言われたのだ。でもよく判らないし、森へ行ってはいけないって言われているから動けなかったらフードを被った人に引っ搔かれたんだ……。」


「引っ搔かれた?」


「うん。フードの人の手は毛むくじゃらで長い爪が生えていて、それで引っ搔かれたんだ。」


「顔は見たの?」


 リリアの質問にピーターは首を振った。どうやら見ていない様だ。

 ピーターは引っ搔かれた時の事を思い出しただろうか?悲しそうな顔でじっと自分の手を見ている。


「どうしたの?ピーター君?」


「……おいら何だか悲しくなってきて……。ただ自分の手を見ているだけなのに、何だか悲しくて……。」


 その言葉を聞いたリリアはハッとしたような顔をしてピーターを抱きしめた。


「大丈夫。たとえ今は悲しくてもきっと良いことがある。大丈夫だよ。」


 そう慰めるリリアにピーターは涙を流しながら頷いていた。


(しかし、金髪の少し太った貴族……僕の名前アイザックを名乗っている所から考えるとセルダンだな。奴はいったい何をしているんだ……。)


 ―――――――――――――――――――――


「一匹逃しただと!?」


 執務室で部下の報告を聞いていたセルダンは言葉を荒げた。


「何ですかセルダン。外まで声が響いていますよ。」


 セルダンの声を聞きつけたのかカルミラがセルダンをたしなめる様に部屋に入って来た。


「これは母上。お早いお帰りで……。で、評議会の方は?」


 カルミラはフーっとため息をついた。


「評議会の決定は当家の主の証としての指輪を持つことは絶対条件なのだそうだ。これもお前がアイザックを取り逃がしたからだ。」


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