アルマハ村
その日、セルダンは不機嫌そうな顔でアルマハ村へ向かっていた。
昨夜にカルミラから告げられたのは楽しい遊びの終了と当てのない探索(アイザックの行方)だった。
当初の計画では、領内の町や村で乱暴狼藉を働きアイザックの評価を貶める。その後、町長や村長の嘆願書で“領主の資格なし”とし、領主候補の変更を申し出る予定だった。
これはカルミラの父親が受けた処分をアイザックに適用したものだ。
元々、カルミラの父親は伯爵であったが領内で乱行が目立ったため、帝国から“領主の資格なし”とされ領主をすげ替えられてしまったのだ。
確かに、伯爵や子爵、男爵、騎士爵では極たまにある事だ。
だが、オーランド家は公爵である。
その血筋は侯爵と並び皇帝に連なる家であり皇帝になりえる家柄である。
その様な身分の者が平民からの不満程度で候補を下ろすことはあってはならない。
なによりも血筋、皇帝の血統が大事なのだ。その証拠に現在もアイザックはオーランド家の次期当主として帝国に登録されたままなのである。
“魔力なし”の欠陥も次の世代で解消されれば問題にしない。
という事になっていた。
「何が指輪だ!何の魔法もかかっていない普通の指輪だぞ!どうせ俺の血筋が悪いのでおかしな理屈をつけているのだろう。くそっ!忌々しい!!」
セルダンはカルミラからアイザックが着けていた指輪の捜索の他、今までの遊びの後始末を命じられた。
獣化の呪いの呪文でウサギや狐の様な姿に変えた村人を同じ様に狼の姿に変えたもので追う。
セルダンが考えた新しい遊びである。通常の狩では味わえない興奮がそこにはあった。
それを全て無かった事、つまりアルマハ村の人々や狼の姿をした者を抹消しなければならないのだ。
セルダンは労力やその後の探索を考えると無性に苛立ちを覚え苦虫をかみつぶしたような顔になるのだった。
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生い茂った緑の木々が素早く後方に移動する。
時々、シカやウサギなどの森の動物に出くわすこともあるが、彼らが驚いて立ち去る前にその姿が後ろに流れて行く。
「うひゃ!すごく速い!これなんて乗り物ですか?」
「魔法の戦車。魔導士の中位魔法だ。」
魔法の戦車半透明な魔法で出来た戦車だ。
通常、戦車は繋いでいる馬を操作する為に躁手が必要だが、これには必要が無い。
馬自体も魔法で作られた物である為、自動的に目的地へ向かって走ってくれる。多少の障害物も自動的に回避する優れものだ。
問題はその姿である。半透明な馬は現実ものでは無いとすぐに判るし魔法感知の魔法ですぐに場所が知られてしまう。その為、秘密裏に行動をしようとしていた僕達には向かないはずである。
だが、今は急を要する時だ。その制限は考慮する必要はない。
僕が急いでいるには理由がある。
ピーターを逃している事は知られているはずだ。セルダンならピーターの両親を使ってピーターをおびき出そうとするだろう。
ならその前に、ピーターの家族を匿えば良い。どうせならアルマハ村の住人全員でも可能だろう。幸い避難場所には心当たりがある。
問題はピーターの両親が僕の説得に応じてくれるか。避難場所へ行くために時間が掛かるのだ。
(避難できればまず追跡されないが……アルマハ村全員となった場合、少し時間が足りないな。後、大規模隠蔽の魔法が必要だな。後は……)
僕はアルマハ村から転送クリスタルが置いているダンジョンまでの道程を検討する。どう考えても五日はかかるだろう。
(転送のクリスタルを設置できればよかったのだが、村人を移動するのならそのまま置くことは出来ない。まてよ?転送後、撤去すれば……それなら上手く隠蔽できそうだ。)
村人全員の移動のめどを思いついたところで、ピーターが喜びの声を上げ指さした。
「村だ!村が見えてきたヨ!おいらの村だよ!」
ピーターが指さす方向を見ると小さく微かに家らしいものが見える。あれがアルマハ村だろうか?村の方へ目を凝らしていると、どんどん村らしい物の大きさが大きくなって来る。
アルマハ村は辺境の村だけあって規模も小さい。少し大きめの家を中心に小さな家がぽつぽつとあるだけである。村を囲う壁は無く背の低い柵があるだけだ。
おそらく人の数はそう多くないだろう
村の入り口を見ると頭に動物の耳を生やした男が槍……ではなく鍬を構えて立っている。村を守るのに槍さえ用意できない様だ。それとも槍を持つことを禁じられたのか?だ。
僕はおそらく後者だと睨んでいる。
僕は手綱を引き魔法の戦車を停止させる。
停止させた戦車からピーターが勢いよく飛び出し大きく手を振る。
「おーい。ベンジャミンさん。おいらだよ!ピーターだよ!」
「ピーター!?」
ピーターやベンジャミンの声で村の家々から人々が集まって来る。どの家の住人も兎や狐や鹿が混じった姿をしている。
その中の男女二人はピーターの姿を見ると大急ぎで駆けよって来た。
「ピーター?本当にピーターなのか?よく無事で……お前さんが連れていかれた時はもうだめかと思っていたよ。」
「よかった、よかったよ。本当に無事でよかった。」
「ただいま。とーちゃん、かーちゃん……。」
どうやらピーターの両親らしい。どちらもピーターと同じ様に頭に兎の耳を生やしている。
ピーターの両親はかわるがわるピーターを抱きしめ無事を喜んでいる様だ。
「いったいお前はどうやって?それに後ろのあの人や馬車はいったい?」
その言葉にピーターの無事を喜んでいた住人が一斉に透明な戦車とその傍らに立つローブを着た二人、僕とリリアの方を見た。
僕はローブのフードを外し、村人たちに挨拶をする。
「初めまして。僕の名はアイザック。偶然ピーターを助けた旅の者です。こちらは弟子のリリア。」
「「「「……アイ、ザック?」」」」
「あの野郎と同じ……。」
「まて、奴は金髪の豚だったが、こいつは黒髪だ。それに痩せている。」
「だが後ろの馬車を見ろ!あんな向こうが透ける様な馬車は魔法の物品だろう。ならあいつは貴族に違いない。」
「ああ、そうだな。貴族ならあの豚と同じだ……。」
「だがあいつ……どこかで見たことが無いか?」
村人の何人かは僕に対して敵対的な目を向けてきた。
セルダンのやったことで貴族に対し、とてつもなく大きな恨みを抱いている。ピーターを助けた程度では彼らから信用されない様だ。
彼らは鍬や鋤などの農機具を手にじりじりと僕たちに近づいて来る。
「皆の衆!待つのじゃ!」
その時、村人の後ろの方から老婆の声が響いた。
数多き集まった村人の間から少し腰の曲がった老婆がゆっくりと僕たちの方へ近づいて来る。
「婆様、こいつは貴族だ。」
「お前は黙っておれ!」
農機具を手に持ち僕に近づいてきた男たちの中でもリーダー格らしい男が老婆に一喝される。
この老婆、村でもかなりの地位にある様だ。
老婆は僕の前に進み出ると深々とお辞儀をした。
「村の者が失礼しました。アイザック様。アルマハ村へようこそ。」
「???」
「ふむ。アイザックさまのお顔は亡くなられたご領主、ディラン様にそっくりですじゃ。それにその目。青いその目はカトレア様の青い目と同じ輝きをしていなさる。」
「「「「「「「「!!!!!」」」」」」」」」
「あ!どこかで見た事のある顔だと思ったら、少し前まで村長の家に飾ってあったご領主の絵にそっくりなのか!」




