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エントランスホール

 僕は転送クリスタルを操作し“次”と浮かび上がった文字に触れると新たな転送先が示される。ここ“森の迷宮”から少し離れた場所にあるダンジョン“石の迷宮”の様だ。


 “石の迷宮”は鉱物を落とす魔物が主体であり、武具を新調する時に行った以外はあまり攻略していない迷宮だ。三階のボスを倒していない為、四階にある転送クリスタルは使えない。


(“石の迷宮 入口”とあるな。それ以外の表示は“死の迷宮”にも移動できる様だがやはり三階のボスを倒していない為、入口としか表示されない。“試練の迷宮”の表示もある。だが表示は灰色。“次”の文字が無い所を考えるとこれで最後か。)


 転送クリスタルに浮かび上がった文字を一通り確かめたがエントランスホールがどこであるかの手がかりはない。


(はたして“エントランスホール”へ移動してみるべきか否か……。)


 その時、僕の気配感知の端にかかるものを感じた。その気配はニ、三人で道を封鎖しているようだった。


(”森の迷宮”への道を封鎖された?だとしたら不味い。逃げることができないように封鎖しているのなら、おそらく転送先でも待ち伏せがある。)


(……ならば。)


 僕は転送クリスタルの文字に触れた。


―――――――――――――――――――――


「どうだ?ターゲットは現れたか?」


 “森の迷宮”から少し離れた場所に立つ少し小さな小屋に数人の黒く塗られた装備に身を固めた者が集まっていた。その者達は得意とする武器を持ちいつでも動き出せるように待機しているように思えた。

 彼らから少し離れた場所に机があり、机の上には水晶球が乗り一人の男が水晶球を覗き込んでいる。水晶球にはぼんやりと“森の迷宮”の転送クリスタルが映し出されていた。水晶球は魔道具らしく、外は一寸先も見えない闇夜なのに転送クリスタルの映像は明るく見える。

 その男の横に上司らしい男が立ち、一緒に水晶球をのぞき込んでいた。


「まだ現れませんね……どこかで様子を窺っているのでしょうか?」


「もう少し広い範囲を見られないのか?ルヴァンの門はすべて封鎖している。冒険者連中はどこの“迷宮”にも来られないはずだ。」


「判りました。やってみます。」


 男が水晶球に両脇に手をかざすと呪文を詠唱すると、転送クリスタルを中心にした少し広い範囲が映し出された。


「この範囲に人影は……見当たらないな。透明化インヴィジブルか?」


「残念ながら隠蔽ハイディングでしょう。この”遠見の水晶”は真眼トゥルーサイトの魔法と同じ効果がありますから透明化インヴィジブルだと赤く光ります。アルタイル様からの情報によると目標の中には斥候スカウトがいるとの事です。おそらくその斥候スカウト隠蔽ハイディングで潜んでいるのでしょう、良い腕です。”遠見の水晶”では見つけ出す事が出来ません。」


斥候スカウト?そう言えばアルタイル様が部下にする予定と言っていた奴か……なるほど。しかし、幾ら腕がよくても流石に転送クリスタルの周りに立てば判るだろう。」


「現れますかね?」


「アルタイル様が追い込んでいる。あと半時(1時間)もかからずに現れるだろう。」


 上司らしい男の言葉通り、半時も待たずに転送クリスタルの前に人影が二つ現れた。一つは少し小さい所を見ると子供の様だ。


「ようやく現れたか。よし、“森の迷宮”への道を封鎖しろ!万が一、中の連中が取り逃がした場合の

予防策だ。」


 待機していた男たちが命令を受け、迷宮への道を封鎖するために小屋を出てゆく。


 男二人が見ていると転送のクリスタルが淡く光り”遠見の水晶”に映る二人の姿の足元に紋章が浮かび上がり、二人を包む。その光が消えると同時に二人の姿も消えていた。

 転送のクリスタルが作動したのだろう。二人の姿が消えたことで男達は一安心して笑っていた。


「さて、転送クリスタルの前で待機させるか。」


「隊長、ターゲットは捕縛にどのくらい時間がかかりますかね?」


「そうだな……転送クリスタルを使った場合、次に使えるのは小半刻(30分)後のはずだ。これはパーティメンバーに一人でも該当者がいればパーティ自体に適用される。捕縛まで時間はかからないと思うが、それを合わせて考えると早くて半刻だろう。」


「半刻ですか。でも、予定通り転送クリスタルの前に現れて一安心ですね。別の町に移動されたら、明日からの休暇が無くなる所でしたよ。」


「全くだ。」


だが、彼らの休暇が無くなることはこの時点で知る由もなかった。


―――――――――――――――――――――


 僕が”エントランスホール”と表示された文字に触れると、足元に複雑で光り輝く大きな紋章が浮かび上がる。足元の紋章の光が強くなり眩いばかりの光を放つ。

 光は徐々に薄れてゆき、その光が消え去った後、僕とリリアちゃんは玄関ホールのような場所に立っていた。


「ここがエントランスホールか?」


 エントランスホールは丸い形になっていて周囲に窓がいくつも開いており外からの明るい光が入り込んでいる。足元には幾何学的な模様の描かれた赤くフカフカな絨毯が敷かれている。

 僕たちが立つ正面には同じように赤い絨毯が敷かれた廊下が伸びていた。廊下の両側にもいくつも窓が並び、窓から外の明るい光が入っている。

 廊下の反対側、僕たちの後ろには意趣を凝らした大きな扉がありどうやら外に出ることができるらしい。

 よく見ると部屋の明り取りの窓も意匠が凝らされた物で窓にはすべてレースのカーテンが取り付けられていた。


「何か見覚えのある……この廊下は一体……?」


 エントランスホールもそうだが、先にある廊下は僕が昔住んでいた屋敷にある廊下にそっくりな廊下だった。


(まさか屋敷に転送された?距離的に可能だとは思うが、屋敷に転送クリスタルはなかったはずだ。)


「イザークさんここはどこですか?ダンジョンに見えませんけど?それに敷物はすごくフカフカしています!ここは貴族様の屋敷に違いありません!」


 リリアちゃんは興奮したようにあちらこちらを見ている。


(後ろの扉から外に出ることができるようだが……、扉を開けることにより元の転送クリスタルに移送した場合、捕まる可能性が高い。今はまだ確かめることはできないな。廊下を進むか……)


 ゆっくりと慎重に廊下を進んで行くと窓から外の様子が見える。両側の窓の外は花壇になっていて、よく手入れされているのか色とりどりの花を咲かせていた。


「お花畑です!それにポカポカして暖かいです。」


 リリアちゃんは窓から見える花畑を感心したように見ている。花壇の先には薔薇の垣根が長く続いているようだ。残念な事に垣根の向こうは見ることはできなかった。

 誰かが定期的に手入れをしているのだろう。廊下や窓枠には塵一つ落ちていない。


 廊下を進んだ先にはT字路になっていて正面に扉、左右に同じように赤い絨毯が敷かれた廊下が伸びている。ただ今までの廊下と異なるのは窓が片側にしかないことだろうか。


(屋敷の廊下にT字路はなかった。やはりここは屋敷ではないのか?ともかく扉を開けてみるか。)


 僕は扉の罠や鍵を念のために調べる。侵入者防止用の罠があった場合、悲惨な状況になりかねないからだ。


(どうやら扉の罠はない。それにこの扉、油を差すまでもなく音もなく滑らかに動きそうだ。)


 僕はゆっくりと扉を開ける。


 扉を開けた先には見覚えのある光景、いや、よく知っている光景が飛び込んできた。

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