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嵐の前

 一体あれは何だったのだろうか?


 僕を見ている人の気配はない。だが念には念を入れて影に潜み周囲の様子を窺う。僕は周囲を警戒しながら先ほどの男について考える。


 間違いなくあの男は極めて高い斥候の技能を持っている。僕はまだ・・鏡越しに窺う者の気配を辿ることは出来ない。あの男はそれを難なくやってのける。

 カルミアとはどのような関係なのか情報を仕入れる必要がある。その為にも頃合いを見て冒険者ギルドを訪れるべきだろう。


 その日、僕は遠回りして宵町亭に戻った。色々考えながら動いていた為か戻った時には日が傾きかけており、少し暗くなっていた。


「ただいま」


「お、良い所に帰ってきた。少し頼まれてくれないか?」


 返った僕を見るなりガストンさんが二階に上がろうとした僕を引き留める。


「いやなに、神殿へ行って癒し手を連れてきてほしいんだよ。ここのお嬢ちゃんが熱を出してな。他の連中は忙しくって手が離せないんだ。」


 周りをよく見ると、いつもなら給仕をしているリリアちゃんがいない。代わりにセーナが給仕をしている。

 それにどう言う訳かテーブルの上には数多くの飲食物が用意されていた。

 今日は何かの祝い事がある日だろうか?ダンジョン探索の打ち上げは昨日したはずだが?


「これか?」


 ガストンさんが指さしたテーブルの上には様々な食べ物や飲み物が置かれていた。


「これはサムだよ。何でもすごい発見をしたんで、その祝いを含めた発表会だ。」


 どうやらサムはあの魔法の使い方をお披露目する様だ。ただ昨日の今日で急なお披露目の為、みな準備に追われている。

 そんな中、やっと帰ってきた僕に白羽の矢が立ったと言う事なのだ。


「リリアちゃんだけお祝いで出る美味しいものが食べられないのはかわいそうだしね。」


 僕はセーナの言葉で理解した。平民は普段、病気になれば神殿を頼ることはない。神殿の方が癒し手の数が多く確実に治ると言える。しかし費用が金貨1枚は必要だ。その為、平民の多くは救護院を頼る。

 だが今回はサムと言うスポンサー(彼も一応貴族である)がいることで神殿を頼ることが出来るのだ。


「そうか、それなら僕がリリアちゃんを神殿へ連れて行った方が良いと思う。」


「確かにそうした方が早いだろうが、帰って来たばかりで疲れていないのか?」


「大丈夫です。市場を見て回っただけで、訓練をしていたわけではないからそれほど疲れていないよ。」


「そうか、それなら頼む。」


 ガストンは僕に頭を下げると金貨の入った袋を渡してきた。中身を確認すると金貨が十数枚入っている。


「金貨か、これなら神殿には効果的だ。神殿での治療でも金貨二枚あれば十分だったはずだけど枚数が多くないか?」


「駄賃と言いたいところだが神殿の拝金僧侶に金貨がいくらあっても足りることはない。アイツら色々理由をつけて金をせびるからな。」


 なるほど、神殿の僧侶は運が悪いと通常の倍の額を請求する者がいると聞いた事がある。ガストンが余分に金貨を持たせたのは拝金僧侶対策らしい。


「わかった。早速行ってくるよ。」


「すまないな。遅くなってもお前の分は別に残しておくからよろしく頼む。」



 僕は熱でうなされるリリアちゃんを抱えて神殿までやって来た。神殿は町の中央にあり白く高い三本の塔が目印だ。

 僕が神殿の前についた時には扉の前には治療を待っている人だろうか?数人が列を作っていた。いつもなら神殿を訪れる人はまばらなのだが、この時間でも珍しく行列が出来ている。

 神殿の前ではシスターが人々に何か説明している様だ。


「すみません。今日は神官の何人かが出かけているので治療を待ってもらっています。」


 神官が出かけて神殿にいないとは珍しいことがあるものだ。


-------------------


「首尾は?」


 細見の男、アルタイルと名乗るその男の前には黒ずくめの集団が立っていた。


「実行部隊を八人ほど、そのうち二人は荒事に慣れた者を雇いました。」


 アルタイルがその方角を見ると下卑た笑いをする二人の男が立っていた。


「どうも初めまして。グレッグといいやす。こいつはアッシの相棒のノーマン。」


「ぐへへへへ」


 アルタイルはその二人を一瞥すると話を続けるように促した。

 その時、窓から梟のような鳥が飛び込み紙きれを落とす。アルタイルはそれ拾い中身を確認した。


「目標の魔法使いは仲間に”魔法”を披露した。これより目標を宿全てにいる者とする。各自目標を確認せよ。」


アルタイルは集まった者たちに目標の人相を描いた紙を渡した。


「げへへへ。女がいるぜアニキ。」


「なぁ、アンタ。どうせバラすんだから少しぐらい楽しんでも構わないだろう?」


 下卑た笑いを受けべながら二人の男は三枚の紙きれを見比べていた。

 アルタイルは男の肩に手を掛けると低く冷たい声で耳打ちする。


「私の部隊に下品な者はいらない。」


トスッ


 アルタイルの手にはいつの間にか錐の様になった短剣が握られており、それが男の首に突き刺さっていた。


「あ、アニキ!ウガッ!」


 傍にいたもう一人の男の頭頂部にも錐の様な短剣が突き刺さっている。男たちは紙を握りしめたまま絶命した。アルタイルは男から紙を回収するとそれを見る。


「ふむ。確かに実行部隊が少ないのは問題があるな。戦士と僧侶か……。」

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