来訪者
ふわぁー
二階にある部屋の窓から差す朝に光に当てられ、僕は大あくびしながら目を覚ます。昨日の夜遅くまで異音が鳴っていた為あまり眠れていない。
今もまだ少し眠い。
とは言え、起きないわけにはいかない。朝食は決まった時間以外出ないのだ。僕は手早く着替えると食堂がある一階に降りてゆく。
食堂にはもう既に何人か席について食事を始めている。サムは昨日遅くまで練習をしていたためか、食堂には来ていない。まだ眠っている様だ。
固い黒パンと肉切れと野菜の切れ端が入った薄いスープ、焼いたウサギの肉、サラダが朝食の様だ。この宿の食事は救護院での食事と違い、肉が多い。これも冒険者がダンジョンで取れる肉類を市場に卸ろしているためだ。
この宵待亭でも、泊まっている冒険者(と言っても僕たちしかいないのだが)が優先的に肉類を卸しているので、朝食にも肉類が出ることが多い。ガストンによると他の宿では豆スープだそうだ。
ダンジョンの探索は毎日行うものでは無い。多い時でも三日に一度、通常は五日から七日(一週間)に一度である。
あまり探索を多くしても、武器や防具の補修が間に合わないし何より体がもたないのだ。
僕は手早く朝食を済ませるとマントを羽織り市場に出かける。市場で見るのはダンジョン産の物の価格だ。
僕達が攻略対象にしている階層で取れる物品の現在の販売価格、店頭に存在するそれらの量、これらから需要を予想するのである。
需要の予測をやっている他のパーティは少ない。一般的な冒険者からすれば、面倒な統計や計算をするよりダンジョンで魔物をたくさん倒せば済むと考えている為だ。
「予想より、一角ウサギの販売価格は大銀貨1枚か、先週より倍高くなっているな。店に並んでいる量も少ない。2、3階層へ出向く冒険者が少ないのか……。魔石の買い取り価格は変化なしと。」
魔石は魔道具の燃料として使われる。ただ、魔道具自体の所持や使用は平民に認められていない。その為、魔石を買い取るのは貴族か貴族に仕える者だけである。一般的と言える魔道具、例えば魔導ランプや魔道焜炉が広がれば魔石の需要はもっと多くなるだろう。
次に僕が向かうのは冒険者ギルドだ。ギルドの掲示板に張り出されている依頼を確認する為だ。
冒険者ギルドは大通りに面した場所にあり、門からの距離も近い。
朝早くからギルド内は多くの冒険者たちでごった返していて、これはいつもの朝の光景だ。どの冒険者も割のいい依頼を得ようと必死なのだ。
僕達はダンジョン探索から帰って来たばかりなので依頼を受ける事はまずない。ただ、中には手持ちの品物で依頼を達成できる場合があるので確認する必要はある。
若い冒険者の一団が依頼を引きはがし仲間に尋ねている。
「おい!これどうだ?一角ウサギ一匹で大銅貨五枚だぞ。最低三匹狩らなきゃいけないけど、俺達なら楽勝だぜ!」
「一角ウサギか、我々なら日に十匹は狩れるな。」
「だろう。これはいい依頼だぜ。」
冒険者の一団は依頼書を手に持ちギルドのカウンターへ向かって行った。あまりにも低すぎる買い取り価格である。
市場での販売価格は大銀貨一枚、商人の取り分を価格の半分として、小銀貨五枚。ギルドの手数料を入れても小銀貨四枚の依頼のはずである。あまりにも安い価格なら依頼を受けずに今止まっている宿に卸し、宿代の交渉にするという手もあるのだが、彼らには思いつかない様だ。
とは言え、半年前の僕もそんなことは全く知らなかったので人のことは言えないのだが……。
一通りギルドの掲示板を確認した後、ギルドの受付に行き指名依頼が無いかの確認をする。
ガストンさんの名前はそれなりに有名らしく、時々、指名依頼が入ることがある。指名依頼は大抵実入りが良い。しかし今回は依頼は無い様だ。
ギルドを出た後、いつもならぶらぶらと散歩しながら宿に帰る。
だが、その日は違った。
ギルドから出てしばらく門の方角へ歩いていると貴族の馬車が僕の隣を通り過ぎた。
今の紋章は!!
馬車の扉に描かれている紋章、公爵家を表す王冠、中央に四つ葉、その脇を獅子と一角獣が描かれている。
間違いない、僕の家、オーランド公爵家の紋章だ。僕は物陰に隠れ手鏡でこっそりと様子を窺う。
馬車はギルドの前で止まると扉が開かれ細身の男が音もなく降り立った。
誰だろう?
続いてドスンと金髪の小太りの少年が飛び降りる。
セルダンだ!
「セルダン、もう少し静かに降りなさい。」
セルダンをたしなめる声がすると、細身の男に手を引かれカルミラがゆっくりと降り立った。
なぜあの二人がここに?
いや待て、不思議ではない。あれから半年、貴族院ではそろそろ夏季休暇だ。僕は帰ることが無かったがセルダンは領地に帰っていた。
王都からオーランド領へ行く道の途中から少しそれた所にルヴァンがある。ルヴァンはダンジョンで有名な都市だ。セルダンの実力を見る為にここによることは十分に考えられる。
冒険者ギルドの前で止まったという事はダンジョンを探索する為にルヴァンでの冒険者登録するのだろう。
遠くから彼ら三人の動向を覗っていると鏡越しに細身の男がこちらに視線を向けた。
(何だ!あの男はこちらに気が付いたぞ!危険だ!)
僕は咄嗟に気配を断ちその場所を後にする。
そう言えばあの細身の男、飛び降りた時に足音はしなかった。多分、相当実力のある斥候系のクラスなのだろう。
――――――――――
「ん?どうした。アルタイル。何かいたのか?」
セルダンが小指で鼻をほじりながら細身の男、アルタイルを見た。
「こちらを窺っていた者がいたのですが……上手いものです。もう移動して気配が辿れません。」
「ほう。アルタイル殿でも辿れないのか。それは結構な腕の持ち主だな。」
「機会があれば我が部隊にスカウトしたいものです。」




