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夜の訓練場

 僕やガストンさん達の定宿である”宵町亭”は迷宮都市の中央通りから少し離れた場所にある少し小さな宿屋だ。

 宵町亭はガストンさんの拳闘士仲間であるモーリスさんが奥さんのベルトーチカさんと娘さんのリリアちゃんの三人で営んでいる。

 奥さんのベルトーチカさんは金髪の美女でこの町で冒険者をしている時に知り合ったのだそうだ。娘であるリリアちゃんは十二歳でモーリスさん譲りの茶色い髪を三つ編みにして後ろで束ねている。一生懸命手伝いをする姿を僕たちみんながほほえましく見守っている。


 モーリスさんとガストンさんは拳闘士をやめ闘技場を去った後、しばらく一緒に組んで冒険者をしていたのだそうだ。モーリスさんは奥さんと結婚を期に冒険者を引退し宵町亭を営みだしたと言っていた。

 ちなみに、闘技場で準男爵の地位を貰ったおかげで宿を出すのが楽だったそうだ。


 ベルトーチカさんやリリアちゃんが忙しなく僕たちの間を行き来し料理を運んで来る。


 僕たちはその宵町亭で打ち上げをしていた。新たな階層に進み大きな怪我もなく無事生還したお祝いである。

 迷宮で新たな階層に進んだ場合、それまでの階層との違いから怪我をする冒険者は多い。怪我が大きなものだと冒険者を引退せざるを得なくなるのだ。


「最後に出たアックスビークがスキルを使う奴でなければもう少し実入りが良かったのだが……。でも皆無事で何よりだ。」


 アックスビークの素材はよっぽど惜しかったのだろう。ガストンさんは打ち上げの席で悔しそうに話した。


 今回は僕たちが相手をしたことのなかった魔物が数多くいた。

 僕はダンジョンに入る前にある程度の情報を収集し対策をする。が、対策をしても全てを問題なく実戦で対応出来るわけではない。

 中には情報になかった事が判明することがある。アックスビークの特殊スキルもその一つだ。


 ささやかな打ち上げの後は各自好きな事をする自由時間である。僕はその自由時間で魔法の訓練を行っていた。場所は宿の裏手、ガストンさん達が昼間訓練に使っている場である。

 当初は魔法陣を描き起動するたびに強烈な発光現象やガラスを引っ掻くような異音を発していたが、最近ではその音も小さくなり発光現象もあまり光らない様にできるようになった。

 その上、魔法の威力を絞れば音を極めて小さく、全く光らないようにはできる。


 その夜もいつもの様に魔法の訓練をしようと出かけると誰か先客がいるようだ。魔術師のサムだ。首をかしげながら手を振り空中に何かを描くような訓練をしていた。


「あれ?サムさん何故こんな所に?」


 僕の声にサムさんは手を止めこちらを見た。


「イザークか。ちょっと思いついた魔法の発動方法があるので訓練していたのだ。ただ、いつもの慣れが邪魔をしてね……。どうしても内側に魔術回路を作ってしまって難儀しているのだよ。」


 サムさんによると内側に魔術回路があるとその使い方に慣れている為、つい内側に魔術回路を描いてしまうとの事。


「内側に……ですか。」


「ああ、つい反射的にね。それに私の魔力は小さい。だから描こうとしている魔術回路の規模では描くことが出来ないんだ。」


 僕は少し考えた。

 内側に魔術回路を作らせない様にするには魔術回路が作れない状況でも良いのではないか?

 それならば、先に出来るだけ大きな魔術回路を作っておけば良い。内側に魔術回路が存在し、魔法が使えないなら外側に魔術回路を作るしかないはずだ。

 どうせなら内側に作る魔術回路も外側に魔術回路を各手助けになる魔法が良いだろう。


 僕は外に描くための魔術回路を内側に作ればよいとサムにアドバイスしその場を後にする。


 夜の間中、外に魔術回路が形成される異音が鳴っていた。

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