異端者の誕生日
「異端者は出て行け!!」「こっちに来るな、異端者。」「異端者、早く死んでくれねーかな。」
俺にものすごい数の暴言が飛び交ってくる。俺が生まれて8年目。最近、この黒色の髪のせいで俺は「異端者」と呼ばれている。
この世界での黒色の髪はあまり良くないらしい。まぁ、幾らか理由があるのは知っているが……。
遥か昔に、魔族と人族のハーフ、「ソルノ族」という種族がいた。ソルノ族は、かなり凶暴な種族で、かつて人族、魔族、エルフ等を見境いなしに殺しまくり、周囲からは完全に恐れられ、孤立していた。他の種族を全て敵にまわしたこのソルノ族は、人族、魔族が協力し合い殲滅されたらしい。
今になっても、ソルノ族は恐れられており、ソルノ族の特徴の一つに黒色の髪が挙げられる。
ここまで言えば分かるだろう…。つまり、ソルノ族の持つ黒色の髪のせいで、俺は今、差別されている。
ハァー。ダル。この黒色の髪のせいで、最近は出歩く事を親から禁止されてしまった。父さんも母さんも俺を心配してくれてのことだろう。心配してくれる事はありがたいんだけどなー。ソルノ族、マジ死ね。まぁ、自分の容姿のことを、とやかく言っても意味ないしな。ソルノ族、死ね。
さてさて。クソみたいな話はこれで終了。うん。今日は俺の誕生日だ。異世界転生してから丁度8年目。異端者と呼ばれたり、努力したり、天才になってたり、剣の腕を磨いたり、ソルノ族に殺意を持ったり、本当に色々な事があった。
これが、俺の異世界生活。
どうでもいいが、異世界きて8年経ったのに、友達一人もいないって、俺、相当なボッチやん。
悲しー。
(さて、そろそろ晩飯の時間だし、行くか。)
俺は自分の部屋のドアを開けて、のんびりと階段を下りていった。美味そうな匂いが、ここまで漂う。
「ハッピーバースデークロト!」俺がリビングに着くと、母さんと父さんの声が出迎えた。食事の準備は既に終わっていて、テーブルの真ん中には、とても大きな生クリームケーキが置かれていた。
……………という展開にはならなかった…。
リビングに着いても、食事はおろか、母さんも父さんもいない。テーブルには、食事やケーキの代わりに、置手紙と何が入った袋、そして、一本の黒色の剣が置かれていた。
俺は、まず置手紙の内容を確認する為に、手を伸ばした。まぁ、多分仕事が遅くなるとか、そういうやつだろう。
クロトへ
この手紙を読んでいるとき、私たちはもうこの村にはいません。勝手な事ですが、貴方にものすごい負担を掛けてしまい、本当に申し訳ない気持ちでいっぱいです。しかし、これが最善の手段だと思います。できることならずっと一緒に居たかった。支えてあげたかった。でも、天才の貴方なら大丈夫。きっと上手く生きていくと信じています。本当にごめんなさい。
母より
(えー。両親家出かよ。これは、笑えない。)
最悪のプレゼントどうも。普通に笑えないわ。手紙を読んだら、何故か目から大粒の涙が出てきた。両親がいなくなるだけで、こんなにダメージくるのか。そういえば、地球にいる両親も、俺を失って悲しんだのかな?地球の両親が悲しんでるかどうか分からないが、俺は今悲しい。
置手紙の感想を一文にまとめてから、次は袋の中を確認する。そこには大量の金と、小さなメモが入っていた。
(この金で、生きていけってか?)
メモを見ながら、脳内でこう呟いた。ほー。成る程ね。メモの内容をひとしきり確認を終えた。書かれていた内容は、ズバリ、この金使って、アルバニア学校に入学しろって言う事らしい。
アルバニア学校ってのは、ここから25キロほど西に行った所にある学校である。この学校では、主に魔王軍の兵士を目指すもが入学するらしい。入学するのに必要な事は、強さだけ。そしてこの学校は、差別というものが存在しない。いや、身分や容姿そういったものが一切関係ない。強さこそが全ての学校なのである。
まぁ、俺もこの学校行きたかったし。普通に行くわ。
最後に残ってる黒色の剣を持ってみた。剣を鞘から出して軽く一、二、と振ってみる。
(軽いな。そんでもって刃がすげー。刃に一切のブレがない。すげー剣だ。おそらくA級以上の代物だぞ。)
俺はこの剣に、「黒刀」という名前をつけた。剣なのに、名前に、刀がつくのは、今更だが、謎。
アルバニア学校の受験資格は8歳である事。強い者である事。この二つだ。何故8歳かというと、人族、魔族において学校に入学出来るのは、8歳の時だけである。これは、何故か決まってるらしい。二つ目の強い者である事に関しては、説明する事ないな。
さて、アルバニア学校の試験まで、実はあと1週間しかないんだか….。時間なさすぎ。まぁいいか。
俺は今日この村を出ていった。