実行へ~堅物という名の壁~
東京都千代田区、内閣府。
内閣府長官、牧永雲明は頭を悩ませていた。
南海トラフ地震が5か月以内に起こるのだ。それで頭を悩ませるのは当然のことなんだろうが、なぜこうもしっくりこない気持ちになるのだろうか。なんとも謎だ。
さらにこれはあくまでも小耳にはさんだ程度の話なのだが、インターネット上何者かが署名用のコミュニティサイトを開設し、私たち政府に反乱を起こそうと企てている者たちがいるらしい。まだ証拠がないために逮捕状を出すことはまだできないのだが、起こした時にはきっと逮捕状が出されるだろう。
あのコミュニティサイトを開設したその後、どんどん署名者数は増えていき、4月8日現在、約9200万人が署名している。コミュニティサイトを開設して1日目で一気に約7998万人が署名したあの日以来、1日当たりの署名者数が100万人を超えることはなくなったものの、それでも1日当たり10万人位が署名してくれている。
ざっとみてあと2000万人か・・・果たしてあと2か月で1億行くだろうか…気になるところだ・・・
そんな感じでこの前作ったコミュニティサイトを見ていると、とある1通のメールが届いた。埼玉の宮田さんからだった。そこにはこう書いてあった。
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政府が私たちを探し始めたようです。どうやら、私たちを政府に反乱を企てているテロ組織と捉えているみたいです。
どうしますか?
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う〜ん・・・どうするっていわれてもなぁ・・・政府が僕たちに目を付け始めたか・・・でもテロ組織て・・・過大評価しすぎだろおい・・・俺たちはそんなことする組織、もとい民間組織じゃないぞ!
ん・・・待てよ…このことを逆手にとって法律の草案を提出することができるのではないか!?これは確かにこれまでの中では願ってもないチャンスでもある。どうするか・・・?
男は熟考した!これまでにないほど、そして深く、深く熟考した!そして出した答えは・・・
自分たちが南海トラフ地震が5か月後に起こることを知っており、決して怪しい組織ではないことを伝え、冤罪を免れる。併せて、その署名を記した紙と法律の草案を政府関係者に渡し、それを3.5か月以内に認めてもらう、という算段だ。
そうすればいいかと思い、宮田さんへメールを送り、返信を待つと10分後に返信が来た。
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微妙ですね。ただ、この切迫した状況でこの判断を下すとは・・・あなたはやはりすごいですね。何かそういう力があるのかもしれません。
でもそれが必ずしもうまくいくとお思いですか?政府は南海トラフの対応で手がいっぱいだ。おそらく議会を開いて話し合う隙はほぼ無いに等しい。
私たちは南海トラフ地震がいつ起こるかわかっていますが、政府の関係者たちはそれを知らない。だからこそ、今の政府には叛逆を起こされるのではないかとか思われやすい。特に啓示を受け取った人たちは全国で47人しかいないのですから。
とにかく、できればほかの手段も考えていただきたいです。上記の方法をもってしても政府を動かせない場合のセカンドプランを考えといてください。
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さすが弁護士だ。そういうことまできちんと考えてやがる・・・でも、セカンドプランねぇ・・・この作戦が失敗するとは夢にも思わないが、確かに数パーセントの確率であり得るかもしれない。
でもなぁ・・・さすがにそんなことまで考えている暇はない。今だってコミュニティサイト用サーバー(俺のパソコン)の維持に必死だし。
う〜ん・・・これは考えてもらうとするか・・・
埼玉県の自宅。宮田はあの男とSNSを使って話をしている間に、あることで頭がいっぱいだった。
そう。あの内閣府長官のことだ。自分はもともと内閣府の職員だったが、やはり集団は苦手だという理由(建前)で内閣府をやめ、個人の弁護士に転職した。
給料はそんなに多くないが、一人で暮らして1、2万円くらい残るほどもらっている。
そんな彼が内閣府をやめた真の理由は、あの旧い考えの堅物な長官の存在だった。
そういう自分の生い立ちや、セカンドプランを考えてもらう詳しい理由は隠してしまったが、とにかく無理だ。あいつになんて勝てっこない。
あの長官の超が付くほどの自己中心性に振り回されてやめた、といってもいいほどだと思っている。あれだけ頭が旧くて固いんだ。並の人間にはあいつの腰を浮かせるなんて無理だ。ましてやニートが動かすなど・・・いわれなくても結果はわかる。見なくても想像で自己完結してしまうほどだ。
あいつに勝てるのは・・・恐らくあの人しかいないだろ・・・