トラブルデート編
私は浮かれていた。
虎太郎くんとのデートにそりゃもう浮かれていた。
ソラが呆れるほどるんるんしながらデートに行った。
虎太郎くんとのデートはもちろん楽しみで嬉しいのだが、今回は推し作品『蒼生の一輪華』のイベントをアニメショップでやることになっており私はその参加チケットを抽選で勝ち取ったのだ。
最初はモカちゃんを誘ってみたがその日は家族にミケくんを紹介する約束をしていたらしく断られた。
モカちゃん自身凄く残念そうだったけど仕方ない。
あとでどんな内容だったか教えてあげよう!!
そう意気込んで私達はイベントを楽しんだ。
事件が起きたのはその帰り際。
「ね、あの人ルークに似てない!?」
「ふわわ、マジもんのルーク様じゃん!」
「二次元から三次元へようこそ!」
「あのあの、写真いいですか!あとSNSとかやってたら連絡先交換しませんか!」
「ヤバイ!マジヤバイ!」
「蔑んだ視線もらえませんか!?」
忘れてた……コタローくん、ルーク様に凄く似てるんだった……
今日のイベントに参加した子達だけでなくアニメショップにやって来ていた作品ファンの子達に虎太郎くんはわらわらと囲まれてしまう。
「申し訳ありません。そう言ったことは全てお断りしているんです、私はただの一般人ですから」
笑顔でやんわりと断りながら虎太郎くんは私がファンの子達に潰されないように庇ってくれる。
人混みを抜けようとしたその時。
「私のルーク様に触らないでよ!!」
耳をつんざくような声と共に私は道路に突き飛ばされた。
「いっ、たぁ…」
咄嗟に手をついた為、アスファルトへの顔面ダイブは免れたが地味に痛い。
「ハル!」
虎太郎くんがこちらに駆け寄ろうとするが一人の少女が立ち塞がる。
少女は射殺さんばかりの視線で私を見下ろしてきた。
よく見てみれば少女はルーク様の缶バッチやぬいぐるみキーホルダーで装飾した痛バッグを持っており、一目でルーク様推しだとわかる。
「あんた、私のルーク様にべったりくっついて何様のつもり!?ルーク様は私のだから汚い手で触らないでよ!」
虎太郎くんを囲んでいたファンの子達も静まり返り少女の声がキンキンと響く。
唖然とする観衆の中、私は少女を見つめた。
うわぁ……これがSNSでよく見る現実と二次元の区別がつかない人だ!!
世界は自分中心に回ってて自分の好きなキャラクターを好きな人を許せなくて、人様に危害を加える人種……。
公式はあなた一人の金銭で回ってる訳じゃないのに、アホみたいな独占欲で公式の運営を邪魔する困ったファンだ……!
人の持ってる大事なグッズをハサミで切り落としたり引きちぎって捨てたりする幼子よりも幼稚な人種……!見た目は大人頭脳は子供!
ニュースとかネットで見て『こういったトラブルの時は警察に通報しても大丈夫です、器物破損や傷害として成立します』とか言われてるような人が今、私の目の前に!!
いざ自分が絡まれると怖くて声がでなくなる、らしいが私はドン引きしていた。
しかもゲームのルーク様と虎太郎くんを同一のものと思い込み、自分のものだと言うなんて。
次元の区別がつかないだけでなく人権無視までするのか。
これはもう手遅れだ。いろんな意味で。
「だいたい、なんであなたがルーク様のグッズ持ってるのよ!しかもレアリティ高いやつ!あんたが買ったから私が買えなかったじゃない!あんたのせいだ!」
おーっと清々しいほどの理不尽!?
推しを引けなかったのは運の無さだと思うよ!?
少女は私の鞄からルーク様のキーホルダーをむしり取ろうと手を伸ばす。
それは少し前にモカちゃんが私にくれた大事なキーホルダーだった。
慌てて鞄を胸に抱き締める。
「やめて!これは友達がくれた大事な――」
パンッ
急に渇いた音が響いた。
恐る恐る顔をあげてみると私と少女の間に虎太郎くんが割り込んでいた。
平手打ちでもしたのか、片方の頬を真っ赤にして少女は硬直している。
「いい加減にしないか!そんな歪んだ感情に人を振り回すな!人に危害を加えるだなんてもっての他だ、犯罪者になるつもりか!あなたの好きなキャラクターはそれを喜ぶのか!?」
すごい剣幕の虎太郎くんに少女だけでなく、観衆も…私も吃驚していた。
でも言ってることはごもっとも!
少女は自分が平手打ちされた事を、そして言われた事を理解したのだろう。
赤く腫れた頬を押さえてポロポロと泣き出した。
「違う……ルーク様は…、仁義を大事にする人で……大事なものを守る姿がかっこよくて…辛かった私の生活を変えてくれた人でっ……」
嗚咽を漏らす少女に虎太郎くんは声を和らげて優しく語りかける。
「あなたの好きなキャラクターはあなたが誰かを傷付けることを望み、喜ぶ人ですか?」
その問い掛けに少女は首を横に降る。
「違う……ルーク様は、ぜったいそんなこと望まない……」
「なら、どうしたらいいのかわかりますね?」
虎太郎くんに促され少女はぐすぐすと泣きながら私の前にやって来ると頭を下げた。
「……ごめん、なさい。酷いことしてごめんなさい…!」
「わかって貰えたならいいんです、もうこんなことしないで下さいね」
私がそう告げると少女は泣きながら何度も頷いた。
◇◇◇◇
「ってことがあったの」
次の日、私はモカちゃんにイベントの内容とその帰りに起きた出来事について話して聞かせた。
「うわぁ………なにそれガチ勢怖い。でも大事にならなくて良かったね」
「いや、なったよ?見てた人がヤバイと思ったらしくて通報しちゃって……その後、警察が来るわ事情聞かれるわ…結構な事に…」
「うわぁ……なんて言うか、うん、ドンマイ」
そういってモカちゃんはよしよしと頭を撫でてくれる。
出来ればもう二度と巻き込まれたくない………。
そう切に願いながら私はモカちゃんに慰められるのだった。
作者が十代のころはもっと穏やかでひっそりしてて困ったファンなんてここまでではなかったのに…何故こうなってしまったのか(。´・ω・)
『好き』を共有できる『仲間』という認識は置き忘れられているのでしょうか…。




