もふもふ編
「もふもふが足りない……」
私は生徒会室で項垂れていた。
「もふもふ?」
「ミケくん、気にしないで。ハルはもふもふ好きで定期的にもふもふしたものをもふらないとあんな風に無気力になるの」
首を傾げるミケくんにモカちゃんが説明する。
そう、今の私にはもふもふが足りない。
虎太郎くんやソラの耳はほぼ毎日のようにもふもふしている…けれどそれでは満たされなくなっている自分がいた。
「もふもふか……」
ふと書類に判子を押していたクロくんが手を止めた。
「………なるか、もふもふ」
「会長?」
首を傾げるモカちゃんにクロくんはにやりと笑い立ち上がると、生徒会室に設置されているロッカーを開ける。
最初から設置されていたロッカーだが私達は開けたことがない。きっと生徒会の備品かなにかが入っているものだとばかり思っていた。
けれどそこにはいっていたのは、なんともふもふの猫の着ぐるみと犬の着ぐるみだった。
「ほらハル、触ってみろ」
そう言われて差し出された猫の着ぐるみに触れると私は驚きのあまり言葉を失った。
なんというもふもふ!
水族館でかったもふもふアザラシぬいぐるみと同等のもふ触感…
これに全身を包まれたらまさに犬猫の毛並みに埋もれるのと同じ、いやそれ以上のもふもふ!!
なんて素晴らしいもふもふなの!こんなものが生徒会室にあったなんて知らなかった!!
是非くるまりたい、くるまってお昼寝したい!!
あ、これ内側ももふもふしてる!?着る人ももふもふを堪能できるという仕組みなの!?
指先をわきわきと動かしてもふもふを堪能する私の横からモカちゃんが着ぐるみを覗き込む。
「会長、これどうしたんですか?」
「去年の学園祭で着たんだ、僕と虎太郎で。インパクトがあった方が面白いと思って…一応クリーニングには出してあるから匂いは大丈夫だろう」
「お疲れ様で……クロ、またなんてものを出してきたんですか貴方は」
生徒会室に入ってきた虎太郎くんがクロくんの持っている着ぐるみ見て、眉間にシワを寄せる。
「何々?……着ぐるみ?」
後ろからソラも顔を覗かせ首を傾げる。
「虎太郎、ソラ着てみろ!」
にんまりと笑ったクロくんが虎太郎くんに着ぐるみを差し出す。
「何故私が……」
「コタローくん、着て!」
断ろうとした虎太郎くんに私はずいっと身を乗り出す。
「…………………………ハルが、そういうなら」
虎太郎くんは何とも言えない微妙な表情で着ぐるみを受け取った。
「俺は絶対着ないからな」
クロくんが犬の着ぐるみをソラに渡そうとしていたがソラは突っぱねる。
それを見ていたミケくんが挙手した。
「あ、それならオレ着たい!」
こうして虎太郎くんが猫の着ぐるみを、ミケくんが犬の着ぐるみを着ることになった。
逆じゃない?とか一瞬モカちゃんが呟いたけど気にしたら駄目だ。
似合っていてもふもふなら問題ない!
「うわぁ、中までしっかりもふもふしてるから意外と温いねこれ」
犬の着ぐるみを着たミケくんが楽しげに笑う。
いざ着てみるとアミューズメントのマスコットキャラのようなしっかりした着ぐるみではなく、着ぐるみパジャマのような感じで生地は薄い。けれど内側ももふもふしてる為、少し動いただけで暑くなりそうだ。
「まったく、学園祭でもないのにこんな格好…」
ため息をつきながら猫の着ぐるみをきた虎太郎くんをみて私は思わず抱きついた。
「ハル…?」
「えへへ……もふもふ……」
もふもふの前に人間は……特に私は抗えない。もふもふを目の前にして衝動を押さえることが出来ない私は欲望のままにもふもふの虎太郎くんに頬を寄せる。
そんな私に硬直する虎太郎くん。
「……よし、あれはほっといて職員室に書類出してくるわ」
「オレも行くよー」
「その格好で?ミケくん、暑くない?」
「暑いねー、だから途中で購買よろうかなって」
「……そうね、その方がいいかも」
モカちゃんがちらりとこちらを見てから書類の束を持って生徒会室を出ていく。その後をミケくんがついていった。
「虎太郎め……羨ましいぞ!僕が着れば良かった!!そしたらハルに抱きついてもらえたのに!」
「いや、俺がさせねーよ!?ほら会長、俺らも購買いきますよー」
「何でだ!用事は無いだろ…!?お、おいこら!ソラ、襟を掴むなっ!!引っ張るな!首、首絞まるからっ…ソラっ!!」
ソラに引っ張られてクロくんも生徒会室を出ていった。
残った私はさわさわと手を動かしてもふもふな虎太郎くんを堪能する。
「っ…ハル、あまり撫で回すようなことはしないで…」
「大丈夫よ、虎太郎くん。私、もふもふが損なわれないようにもふるテクニックを知ってるから!」
「どんなテクニックっ………ハル!待っ…」
「痛くしないから安心してね?コタローくん」
私はにっこりと微笑み思う存分虎太郎くんを……もとい猫の着ぐるみをきたもふもふな虎太郎くんを撫で回したのであった。
いつもは意地悪される側だったので虎太郎くんを翻弄できるのは楽しいと思ったけれど、この後意地悪を3倍返しされることになるなんてこの時の私はまだしらない。




