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60話 ワンコの気持ち

虎太郎くんに剥がされたソラは「弟相手に嫉妬すんなよ」と肩を竦め部屋の隅から丸椅子を持ってきてベッドの横に座る。


「ハル、具合は?」

「今は平気。ちょっと腕と足が痛くて体が重いけど特に支障ないわ」

「ありまくりじゃねぇか」

ソラがボソッと突っ込んだけど気にしない。


気合い入れると動けるから平気だもん。


「待ち合わせ場所に行ったらハルが運ばれていくところで……救急隊員の人に聞いたら車とぶつかったって言うから気が気じゃなくて……でも、良かった」

そういって虎太郎くんは私の頬を両手で包むとじっと見詰める。


本当に心配かけてしまったようです……ごめんなさい。


その手に自分の片手を重ねながら申し訳なく思う反面、またこうして虎太郎くんと話せる事を喜ぶ自分がいた。

ソラが「俺もいるんだけどー」と抗議する声も掠れるくらいに。


………ってそうだ!虎太郎くんも大事なんだけど今はそれよりも!


「アヤメさんは!?私と一緒に事故にあったはずなんだけど…」


「一命は取りとめたみたいだ。ただ……」


一命は取りとめた?

でもあの時、自称天使はアヤメさんの命を助けるには対価が重すぎるって……。


目を白黒させる私に虎太郎くんは言い掛けた言葉を続ける。


「事故のショックで記憶を全て無くしてしまったと聞いた」


「記憶が……」

もしかしてそれが生き返るための対価になったのだろうかという考えが過る。

確かめようは無いけれど。


でもあの自称天使が間違えたせいでもあるから……出血大サービスで私もアヤメさんも生きることが出来た……とか?

どちらにしろあの自称天使は神様にたくさん怒られたら良いと思う。

間違いばっかりして結果的にそれが良い方向にいっているからまだマシかもしれないけど。

私の覚悟を返せ。


そんな事を思っていると医師を連れた両親が戻ってきた。

皆の前で簡単に診察を受ける。


「骨以外はもうほとんど大丈夫だとは思いますが、暫くは安静にしていて下さいね」

医師にそう言われ私はこのまま暫く入院することになった。


これは残りの夏休み、潰れたかもしれない……。

でも命に比べたら仕方ないか。




その後、御母様とソラは私の着替え等を取りに家に戻ることになり御父様は入院の手続きがあるとかで病室には私と虎太郎くんが残された。


「ごめんね、私から誘ったのに行けなくて」


そう告げると虎太郎くんは首を横に振る。

「気にしなくて良い、また次行けば良いから……それにハルのせいじゃない」

虎太郎くんは優しく微笑むと持っていた鞄の中から見覚えのあるリボンを取り出した。虎太郎くんに買って貰ったあのリボンだ。

てっきり事故現場に落としてきたのだと思っていたけれど回収してくれていたようだ。


「拾ってくれてたの?ありがとう」

差し出されたリボンを受け取り礼を述べるとそっと頭を撫でられた。その手は私の頭の上でぴこぴこしていた猫耳へ。そっと耳を撫でられれば何とも言えないむず痒いような擽ったさを感じる


突然触れられた事に目を瞬かせていると虎太郎くんはにっこりと微笑む。


「ハル、私はもう遠慮しないことにした」


何を、と尋ねる前に虎太郎くんが私に近付いて柔らかい感触が頬に触れる。


…………今のは?


状況がわからずに首を傾げる私に虎太郎くんは目を細めるてこう告げた。


「これからは本気を出していこうと思う。だからよろしく」

「……へ?」


1拍と言わず3拍くらい遅れて私は何が起きたのか理解した。

頬にキスされたらしい。


しかもこれから本気出すって……ええぇ!?!?

今までは本気じゃなかったの!?ってそうじゃなくて!うわぁぁ、考えがまとまらない!


軽くパニックになっている私に虎太郎くんは更に追い討ちをかける。


「私はハルが好きだ、執事をしていたころからずっと。だからこれからは少しでも私を恋愛の対象として見て欲しい」


思いがけない告白に頬が熱を持つ。

私だって虎太郎くんが『好き』だ。それを言葉にしようとして詰まってしまう。言葉にしてしまっていいのか、と躊躇う自分がいた。



恋愛経験なんて欠片もない私がここで自分の思いを伝えてコタローくんとちゃんと付き合えるのだろうか。

呆れられたり、幻滅されたりするんじゃないか……仮にお付き合い出来たとしても、別れることになったら?

もしそうならこのまま何も言わないで特別になんかならないで友達のままでいた方が……。



そんな不安が沸き上がってきて言葉に出来ないのを、告白に驚いて言葉がでないと思ったのか虎太郎くんは「ゆっくりで良いから考えて」と言い残し病室を後にした。

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