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58話 2度目の。

「死んでないですよ、まだ」


死んでない!?

良かった……ならば早く戻らないと!


「でも貴方が望むなら今度こそ正しく望んだ世界に生まれ変われますけど、どうします?」


自称天使の言葉に私は目を瞬かせる。


正しく望んだ世界……もふもふパラダイスに?


「はい。いやぁ、前回の失敗で神様にめっちゃ怒られちゃいまして『今度あの子がきたら無条件で望みを確実に叶えなさい』って言われました」


いや、軽いな!?


でも今度こそもふもふの世界に……!!

いや、でも待って。

私まだ青春謳歌中なんだよ!?

ってその前にコタローくんとデート予定だったのに!!


そこでふとアヤメさんも一緒だった事を思い出す。


「ねぇ、私と一緒にいた女の子は……アヤメさんは無事?」


「死にます」


……え?


自称天使の言葉に一瞬全ての思考が停止した。


「貴方が助けようとした所までは良かったんですけど、勢いのついた車に轢かれてしまったんですよ。貴方と一緒に救急車で運ばれて緊急手術中ですね。

でも彼女はこのまま生還すると嫉妬に狂ってまた誰かに害をなすのでここで死にます。いつの時代も間違った愛情は悲劇を呼ぶものですからね……地上の様子、見てみますか?」


「見せて!」


食い付くように答えると自称天使は頷くと、何もない空間からテレビとリモコンを取り出した。



だから四次元空間か!

待って、死後の世界って電化製品何でもあるわけ!?大型電化製品店か!


「ありますよ、神様が創造された場所ですから。ここは天国ではないですから何でもって訳じゃないですけど……天国では何でも思った通りのものが出せるし、何処にだっていけるんですよ。それこそ宇宙にだって一瞬で行けるんです」


「知らなかった」


「それはそうでしょう。貴方達人間は神様によって創造されたにも関わらず、人間始祖はサタンに負けて与えられた責任を放棄し、堕落したことによって神様どころか自分達に与えられた幸福すらも分からなくなってしまったんですから……っと、ほら映りましたよ」



話ながらポチポチリモコンを弄っていた自称天使は画面の映ったテレビを指差す。

映ったのは手術室の前だろうか、アヤメさんのご両親らしき二人の男女がソファに腰掛けて項垂れている。

女性の方はハンカチを口許に当てて目に涙を溜めていた。


「……貴方天使なんでしょ?助けてあげられないの?」


「無理ですよ、人の寿命を決めるのは人でも私達でもない。神様です」


「悲しむ人が居るって分かっていて神様は命を奪うっていうの?そんなの酷いじゃない!」


アヤメさんのご両親の姿を見てつい私は熱が入ってしまう。私に手をあげようとしたり、自分の我儘で虎太郎くんを縛り付けようとしたアヤメさんだけど、彼女にだって彼女を大事に思う家族がいる。それなのに神様は無情にもその命を奪うというのか。


「神様が悲しんでいないと、本当に思っているんですか?」


私の言葉に自称天使は冷えたような冷たい声で尋ねてきた。


「神様は愛し愛される為に人間を創造したのです。それなのに偽りの愛に溺れ罪を犯し神様を傷付けたのは人間ではないですか。それから何千年、何万年も互いに傷付け合う人間を見てずっとずっと神様は悲しまれているのです。それでも愛しているから助けようと、手を差しのべようとしているのです。なのに見向きもしないのは貴方達人間でしょう。火を起こす為に準備が必要なように、人間が深く祈り心を捧げれば必ず答えてくださるのです。それもすらしないで都合の良い時ばかり助けを求め、助けられなければ不平不満を述べる……酷いという前に、神様の心情を考えて発言していただきたい」


私の言葉が癪に触ったのだろう、自称天使はそう捲し立てた後じっと此方を見詰めた。

白く発光している人型なので目があるかは分からないけれどそんな気がした。


「どうしても助けたいというなら貴方が代わりに死にますか?」


先程までの勢いは何処へやら、自称天使は平淡に告げるとこてんと首をかしげた。



アヤメさんの代わりに……私が死ぬ?

嫌だ、嫌だ、嫌だ、死にたくない。

ソラとモカちゃんや皆と御父様や御母様から離れたくない、コタローくんとまだ一緒に居たい…。

そうだよ、私まだ何も言えてない。

それにもし私が死んだらアヤメさんにコタローくんをとられちゃうかもしれない。

嫌だ、そんなの嫌だ。



「でしょう?人の為に自分の命を犠牲にできるならまだしも、そんな覚悟もないのに命を救ってほしいなんて無責任な事言うべきではないですよ」



このまま生き返るのを望めば、私はまた皆のもとに戻れる。

でも、ねぇ、アヤメさんは?

アヤメさんのご両親は?


きっと泣くよね。

凄く悲しむ。

アヤメさんはけ私の中で良い人ではないけれど、それでも私と同じように家族に愛されて友達がいて、好きな人がいて。

もっと生きたいと願っているはず。



……

…………

……………。


私はゆっくり深呼吸を繰り返すと真っ直ぐに自称天使を見据える。

私の決断は間違ってるかも知れない、理解してもらえないかもしれない。


私ってアヤメさんの言うように悪女なのかも。


「ねぇ、貴方は『無条件で望みを叶えてくれる』のよね?」


「えぇ、それが神様のお達しですからね。とは言え、彼女の命を救ってほしいというのは聞き入れることは出来ませんよ。それには対価が重すぎる」


その言葉にふるふると首を横に降る。

少し期待したけれどやっぱりダメなようだ。


「私がアヤメさんの代わりになる。だから私の家族や友達、私に関わった全ての人から私の記憶を消して欲しいの。それは出来る?」


「出来ますけど……それで、良いんですか?」


予想外だと驚きの声をあげる自称天使に頷いて見せる。


「それなら私が代わりになっても……誰も悲しまないもの」


私には現世の思い出がたくさんある。

けれど私は悲しんでほしくないと言う我儘でその思い出を大事な人たちから取り上げるのだ。

悪女と言われても反論できない。

もともと転生なんてありえない経験が出来たのだ感謝するべきだろう、心残りはたくさんあるけれど。


「分かりました、では手続きをいたします」


自称天使がそういうとまた何もない空間に手を突っ込んでどでかい西洋風のドアを取り出した。


だから四次元空間かって!

どこぞのロボットを彷彿させるんだけど!?


「細かいこと気にしたらだめです」


えぇー……。


「どうぞ、貴女はこの先へ。人を助けようとしましたし、死後はそれなりに良い所へ行けるでしょう。そのドアをくぐれば直ぐにたどり着けます。後の処理はこちらでやっておきますので」


「……わかった。アヤメさんや皆こと、お願いね」


私はドアを開けると、思い切り飛び込んだ。

躊躇すれば、きっとまた生きたいと願ってしまうから。未練が生まれてしまうから。


以前転生した時のように浮遊感に身を任せる、その後ろで小さく声が聞こえた気がした。


「やっべ。また間違えた」



………はあぁぁぁ!?

自称天使ちゃんと仕事しろおおおおお!!!!



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