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46話 姉と弟

洗面所で顔を洗ってからリビングに来てみたが誰もいない。

キッチンに行こうとして両親の部屋の前を通ると、2人の話し声が聞こえた。もしかしたらソラの事を話し合ってるのかもしれない。



キッチンに入り明かりをつけると冷蔵庫の前に人がいた。


ソラだ。


「…ハル?どうしたんだよ、その顔」

「………っ!」

ぎょっとして此方を見たソラに私は駆け寄って思いきり抱きつく。

「おっと………あー…おい、ハル?…ハルさん?……ったく」

ソラは暫く私の名前を呼んでいたが、私が動かないことを知ると諦めたように背中に腕を回してポンポンと宥めてくれる。

全く、本当にどっちが上だかわからない。


「…私は、ソラと一緒に居たいよ…ソラは大事な弟だから。ソラがいなくなるの、嫌だよ」


泣きそうになるのを堪えながら言葉にする。困らせてしまうかもしれない、それでも自分の気持ちを伝えたかった。我儘だと思われても困らせても、何も言えないまま手の届かない遠くへ行ってしまうよりずっといい。


ぴくりとソラの手が一瞬動きを止めたけれど、またすぐによしよしと頭を撫でてくる。その手に頭を擦り付けるようにすれば、背中に回された腕が少し力を込めたように感じた。



「…俺もだ。けど…兄さんの事もハルと同じくらい大事なんだ。ハルならその気持ち、分かるだろ?」

ソラが私をなだめるように耳元で優しく語りかけてくる。まるで、聞き分けの無い子供を諭す母親のように。

私は声に出さずに頷く。



わかるよ…悲しいくらいに。


誰かの気持ちがわかるなんて烏滸がましい言葉だと思う、だって人各々経験してきた物も人生も違う。完全に人の気持ちを理解できるのなんて神様くらいだろう。

でも私とソラが今、感じている気持ちは多分とても近いものだと思う。だから、今はわかるって言っても、許してもらえそうな気がした。


「…だから、俺…両方選べないかなって思ってる」

その言葉が意外でゆっくり顔をあげると、目を細めて微笑むソラの顔が目の前にあった。


「…まずは兄さんに会ってみて、それからお父様とお母様にも相談してさ…。どっちか、じゃなくてどっちも選べるように頑張ってみようと思う」


思わず目を見開くと、先程まで頭を撫でていた手が私の頬に触れる。まだ腫れの引かない目尻をソラの指がそっと撫でた。


「虎太郎にも相談したんだ、そしたら頼っても良いってさ。アイツ、本当に男前だよな」


くすくすと笑いだしたソラにつられて私も微笑むと、少し心が軽くなった気がした。


そうか、ソラは答えを見つけたんだ…


「だから…ハルも俺を助けてくれないか?」

「……え?」

「俺1人じゃどうしようもない時、助けて欲しいと思った時…頼らせて欲しい」

ソラの真っ直ぐな瞳と視線がぶつかる。


そんなの聞かれる前から答えは決まってる、私の答えはひとつしかない。


私は頬を撫でる手を両手でそっと包んでソラを見つめ返した。

「当たり前じゃない、私はソラのお姉ちゃんなんだから…何があったってソラの味方よ。だから頼りたい時は頼って?甘えたい時はたくさん甘やかしてあげるんだから」

そう言って微笑むとソラは泣きそうな顔で顔をくしゃくしゃにして笑った。



「ありがとう、大好きだ。姉さん」



後にも先にも、ソラがここまでデレたのはこれが初めてだった。











△△

「……で、ソラのお兄さんてどんな人なの?」

夕食を食べ逃した私達は、キッチンの戸棚に隠してあったカップラーメンを仲良く啜っていた。


財閥の家にインスタント食品があるなんて、と驚かれる方もいるだろう。

これはお父様の隠し食料だ。

伊集院家の料理長のご飯はとても美味しいのだけれど、お父様はチープなインスタント食品やスナック菓子も大好物なのだ。

最初のうちはお母様も少しならと許容していたようだが、何年か前の健康診断でお父様がメタボ予備軍と診断されてからお母様は食生活をなるべく管理し、改善しようとしている。


そんなお母様の愛情も知らず、お父様は料理長に頼み込んでキッチンの戸棚にカップ麺やスナック菓子を隠しているのだ。

私達は食べ損ねた夕飯の代わりにそれを食べていた。

仮にバレてもお父様は怒れない、と言うわけだ。


「兄さんは俺の6つ歳上だから成人してると思う…性格は、普通」

「普通じゃわからないわよ」

「…んー……お父様とミケを足して、ミキサーにかけて満遍なく混ぜた感じ?」


余計わからなくなった……。


「まぁ、性格が変わってたら分からねぇけどな」

「……つい最近まで記憶がなかったって聞いたけど…」

「らしいな…まぁ、まずは会ってみてだと思ってる。そこで分かんだろ」

ソラはそう言って食べ終えたカップ麺のスープを飲み干すとゴミ箱に、空いたカップをぽいっと捨てる。


「カップ麺のスープ、全部飲むと塩分の取りすぎで体によくないのよ?」

そう言うとソラは「お母様みたいなこと言うな」と顔をしかめた。


「…兎に角会わせてもらえるかお父様に聞いてみる」

「会わせてくれないわけ無いと思う、だってお父様だもの」

お人好しを絵に描いたような人だもの。

私の言いたいことを察したのかソラは「だな」と頷いた。




もふもふ要素が行方不明です…すみません

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