43話 助っ人はお兄さん
「西園寺様にエスコートしていただいている上にべったりとくっついて…身の程を弁えてはいかが?」
ご令嬢達の猫耳は威嚇するかのように毛が逆立っている。
なるほど、これが2次元でよく見る言いがかり!!始めてみた!
凄い、ある意味感動!!
「ちょっと、聞いていますの!?このわたくしを無視できるなんてよっぽど有名な財閥の方なのでしょうね!?」
おぉう、そこなんだ!?やっぱり家柄気にしちゃうんだ?
私の家柄がどんなものかなんて分からないけど…一応名乗っておいた方がいいのかなぁ…でも個人情報特定されて突っ掛かられても困るし…
どうしたものかと思案しているとご令嬢達と私の間に背の高い人物が割り込んできた。
「お嬢さん方、私の友人に何かご用ですか?」
あれ…?この声何処かで聞いた事が…。
声の主の背中しか見えないけれどどうやら私を助けに来てくれたらしい。
その人物を見て、驚いたのかご令嬢達は誤魔化すように「何でもありませんのよ、おほほほ」と引きつった笑顔を浮かべて撤退していった。
「大丈夫だった?」
振り返った人物の顔をみて首をかしげる。
誰だこの人……?
「あー、俺だよ俺」
「オレオレ詐欺ですか?間に合ってます」
「ちょっ、詐欺が間に合ってるって何!?俺だよ、九条ヒカル。ほら購買部のお兄さん」
あ、自分でお兄さんとか言っちゃう……ってヒカルさん!?
「えぇ!?何でここに!?」
「俺も中御門家に招待されてるんだ」
へらりと笑うその姿は購買部で見るヒカルさんより大人びて見える。
けれどオールバックにした髪からぴょこっと見える耳は確かに柴犬ヒカルさんだ!
「それより大丈夫だった?今、絡まれてたでしょ?」
「大丈夫ですよ、漫画みたいな絡み方する人って本当にいるんだなって感心しました」
「……感心………ふふっ、ハルちゃんは面白いね」
ヒカルさんは口許を抑えておかしそうに笑いだす。
今の面白いの!?ヒカルさんの笑いの沸点低すぎない!?
箸が転がっても笑いだす年頃ってやつですか?
「こういったところでは1人にならない方がいいよ?迷子になっても困るし、今みたいに絡まれても困るだろ」
「迷子にはなりませんし、絡まれた場合証拠を掴んで必要とあらば出るとこ出るので大丈夫ですよ」
「おぉっと予想外の答えが返ってきたぞ。とにかく、西園寺くんの近くにいれば自然と目立つんだからあんまり離れないように。離れる時は誰か知ってる人の傍にいるようにした方がいいよ」
私はそんなに絡まれやすく見えるんだろうか……。
絡まれるってことは隙があるってことよね、お父様にお願いして護身術とか身に付けた方がいい?
「分かりました、護身術を身に付けられるように頑張りますね」
だから安心してくださいと微笑むと、ヒカルさんはぶほっと吹き出した。ひぃひぃ言いながらお腹を抱えて笑ってる。
「いやー…本当にハルちゃんは面白いね、その頭開けて思考回路覗いてみたいよ」
「グロテスクなのはちょっと…」
「ふふっ…ま、待って…そうくるの?…ははっ…駄目だ、もう笑わせないでっ…はぁ、お腹いたい…っ」
何がそんなに可笑しいのこの人!?
笑わせないでって言うか笑わないで!笑われるようなこと何ひとつ言ってないよ!?
声が出ないほどに笑ってるヒカルさんに心の壁を作っていると、料理の乗った取り皿を持って虎太郎くんが戻ってきた。
「ハル、何かあった?」
隣で屈み込んで未だに笑ってるヒカルさんに不審な視線を向けてから、首をかしげる。
すると笑いの淵から舞い戻ったヒカルさんがスッと立ち上がり、何事も無かったかの様に微笑む。
変わり身はやっ!?
「こんにちは、西園寺くん。購買部の九条です」
「あぁ、九条さんでしたか。雰囲気が違うので誰だか分かりませんでした。こんにちは」
ヒカルさんが名乗りをあげると、虎太郎くんは数度目を瞬かせてから愛想よく挨拶を返す。するとヒカルさんは虎太郎くんの耳元に口を寄せてボソッと何か呟いた。
「君のお姫様をあまり1人にはしない方がいい。君を狙う令嬢に絡まれてしまうからね」
何を言われたのか私には聞こえなかったけれど、虎太郎くんは何かに気が付いたように顔をあげ「気を付けます」と返事をしていた。
それを聞いたヒカルさんは満足げに頷いて「じゃあね」と手を振って行ってしまった。
「ヒカルさん、何て言ってたの?」
何気無く尋ねてみると虎太郎くんは大したことじゃない、と微笑む。
私には聞かれたくないことだろうか?
うん、誰にだってあるよね、そう言うこと。
「それより、ハル。ハルが好きそうなもの取り分けたけど嫌いなものとかある?」
虎太郎くんの差し出すお皿を受け取ると、何処の高級レストランだよとツッコミを入れたくなるくらい料理が綺麗に盛り付けられていた。
サーモンのお刺身が薔薇の形になってます…コタローくんのセンスが凄すぎる!
「ありがとう、全部好き!この盛り付けも綺麗だし、さすがコタローくんだね」
「喜んでもらえて良かった」
微笑む虎太郎くんはやっぱり格好良くて少しだけ、まだこうして隣にいたいと思ってしまった。
乙女ゲームの世界に長くいたからか、モカちゃんを羨ましく思ったからなのか…私の脳はじわりじわりと乙女脳になっているようです……。
何故こうなった!?
……はっ!もふもふが足りてないせい!?
これはいけない、もふもふエネルギーをチャージしなくては乙女脳に侵食されてしまう…私はもふもふを満喫するために転生したんだから!




