12話 約束と出会いイベント?
乙女ゲームのキャラクラーを全員攻略しておまけスチルやイベントをフルコンプする頃には、ゲームを買ってもらってから2年が経過していた。一通りプレイし終えた私は最初の約束通り、ゲーム機とソフトをソラに貸して戻ってきた物をまた最初からプレイして悶える日々を送っていた。
うん、ゲームの内容は全体的に本当に最高でした。サポートキャラの友情エンドもあるし、めっちゃ癒されたし隠しキャラとかいて結果的に15人も攻略キャラがいたよ。多いわ!多すぎるわ!最高だったけどな!全身全霊の拍手を制作者に送りたい。あんなに素晴らしい良作に出会わせてくれてありがとう、全私が泣いたわ。
そんなある日、私はお父様に3度目となる改まった形での呼び出しをされた。
何かあればすぐ呼び出すのはお父様の癖なのかなと最近思う。普通に声をかけてくれれば良いのに。
もしかしてまた何か連れてきたのかと呆れながらソラと共にリビングに向かう。
挨拶をしてドアを開けると両親と虎太郎くんがいた。他には誰も見当たらない。両親の顔を伺ってみれば少し寂しそうな顔をしている。
なんだ、何があった?
「ハル、ソラ……実はね、虎太郎くんが春先に執事をやめることになったんだよ」
……コタローくんが、やめる?
お父様の言葉を私の脳が噛み砕いて理解するより早くソラが反応した。
「な、何でだよ!俺達の事、嫌いになったのか!?」
慌てて駆け寄るソラに虎太郎くんは苦笑を浮かべる。
「そうではありません、私はハル様もソラ様も大好きですよ」
「だったら、なんで!」
「学園に行く歳になったからです。学園に入学したら寮生活になりますから、このお屋敷ではもう働けないんです」
「一定の年齢になったら集団生活を学ぶために、学園に行くのは知っているだろう?虎太郎くんはその歳になったんだよ」
「じゃあ…俺達が、行くようになったらまた遊べるのか?」
ソラは虎太郎くんの袖をぎゅっと掴んで不安そうに首を傾げる。
「もちろんです。私の方がお2人より歳上なので先に行くだけです。待ってますからまた遊びましょう?」
にっこりと微笑む虎太郎くんにソラは無邪気に頷く。
ソラは本当にコタローくんに懐いたなぁ…。前に2人で話をした時に、コタローくんがお兄ちゃんみたいだって嬉しそうに話してたっけ。そりゃそんな相手がいきなり執事やめるとか言い出したらもう会えなくなっちゃうんじゃないかって不安になるよね。わかるわ。よかった…嫌われたんじゃなくて。うん、一瞬ドキッとして吃驚したよ。心臓に悪い。
私は安心して虎太郎くんに向き合うソラごと二人をぎゅっと抱き締めた。
「ちょ、ハル!苦しい!」
「ハル様?」
驚いて声を上げる2人をさらに強く抱き締める。
「また、会えるんだよね?また遊べるんだよね?」
「もちろん、約束しますよ」
顔をあげると虎太郎くんが優しく微笑む。
「うん、約束。ソラも!」
「…子供じゃあるまいし」
「いいの!」
私はそういうとソラの虎太郎くんの手をぎゅっと繋いでおまじないのように言葉にする。
「また3人で一緒に遊びましょう!」
それを聞いて虎太郎くんは嬉しそうに、ソラは少し照れ臭そうに返事をする。両親はしばらくそれを眺めていた後、私達皆をまとめてぎゅっと抱き締めてくれた。それが嬉しくて抱き締め返しながら、家族っていいなという暖かい気持ちを胸の中に感じたのは私だけの幸せな秘密だ。
◇◇
それから春先になると虎太郎くんは寮に入る準備もある為、少し早めに私達の家から出ていってしまった。虎太郎くんを乗せた車が見えなくなるまで私とソラは手を繋いで見送る。
「たった1年だから、すぐだぞ」
「そうね…でも…ちょっとだけ寂しい」
「…ん、そうだな」
迷子になった頃と比べたらソラの手は大きくなった。髪の色やもふ5つ星の耳はそのままに顔付きも男の子らしくなった。髪型はショートウルフヘアになっていて、可愛いにゃんこが何故か狼っぽく見える。猫なのになぜその髪型を選んだ…虎の威を借る狐なのか?あ、違う、狼の威を借る猫か。
くそう、ツンデレは今でも健在だけど昔は可愛い子猫だったのに!もふもふだって最近はあんまりさせてくれない、思春期か!嬉しはずかし思春期なのか!?虎太郎くんはさせてくれてたのに……!ぎぶみーもふもふ、ぷりーずもふもふ!
ついでに私も少し成長した。子供っぽいツインテールは卒業し黒い髪をそのままストレートでおろしている。段々お母様に似て自分でもそれなりに可愛い部類だと思えるほどには良い方に成長したと思う。
お互いそれなりに成長しても、不安な時や頑張らなきゃいけなくて力が欲しい時は手を繋ぐ。
「さて、家に戻るか」
暫く手を繋いでいた後、ソラは家の中に入ろうとした。
「あ、私この後少しだけ買い物行ってくるわ」
「いいけど…あんま遅くなるなよ?」
「はーい、わかってます」
おどけて見せるとソラにぽんぽんと頭を撫でられた。どっちが上から分からない。いや、年齢は同じだけどね。
家の中に戻るソラにひらひらと手を振って私は30分ほど歩いた先にある商店街へと向かった。
因みに1人で買い物の許可が降りたのはつい最近だ。
はじめてのお使い以来、1人で買い物に行く機会は無かったのだが13歳の誕生日を迎えてからなら、それなりに自分の行動にも少しは責任が持てるだろうと両親が許可してくれた。もちろん防犯グッズ付きで。
私としてはもっと前から許可してほしかったが、うちの両親過保護だから仕方ない。うん、仕方ない。しかもうち、お金持ちだしね。
1人で出歩く許可が降りたと同時に、お小遣いも貰えるようになった。毎月5000円。13歳の小娘には大金である。
前世で13歳の時は2000円だった。一般家庭で育ったと言うのもあるし、若いうちから大金を持つのは良くないという前世の両親の教育方針だ。もちろんお小遣いを貰うという立場で不満はなかったし、お陰でそれなりに計画性が身についたと思う。
ソラの場合貰ったお小遣いは最低限しか使わず、なるべく貯金しているらしい。私も見習って貯金している、ただし半分だけ。
……いや、その、ほら。誘惑ってどうしてもあるじゃない?近所だとしてもお出かけ許可が降りたからには遊びに行ったりしたいのよ。うん。ついでに駄菓子屋さんとか露店の食べ歩きとかしたいし…食い意地貼ってるって?それは認めよう。美味しいもの食べたい。
基本的にはソラと遊びに行くことが多いけれど、こうして1人で出歩くのも好きだ。いい気分転換になる。
虎太郎くん見送りのタイミングで外に出たのは、虎太郎くんが学校に行ってしまって寂しい気持ちを紛らわせたいというのもあった。
30分ほどてこてこ歩いて商店街にたどり着く。目的は中古ゲームショップだ!買うつもりはないけれど(まだ買ってもらったゲームを改めて満喫する気満々なので)眺めるだけでも違う。
お小遣いが貯まったら安いので良いから新しいの買えたらなーくらいの気持ちで私はお店を目指す。次の角を曲がれば目的のお店!そう思って少し急ぎ足になってしまったことは認める。たけど私のせいだけじゃないと思う。
「ふぎゃ!?」
「うぁお!?」
漫画みたいに街角で誰かと思い切り正面衝突したのは。




