乱痴気
今回は長めなので
今日の更新は1話だけ!!笑
人波の中を、三人で進んでいた。
いや、正確には二人と一体だ。リーゼロッテは地面で寝ている。
「リズを引きずりながら進むのか……」
「私が運ぼう」
ザカリアスがリーゼロッテを肩に担いだ。
「……頼む」
俺はふわふわしながら、切り株のステージを目指した。
人波をかき分ける。踊り狂う者たちがぶつかってくる。屋台の煙が漂う。甘い匂いが、また鼻をくすぐる。
(……まずい、また来た)
頭が、もわっとする。足元がふわふわする。なんか、まあ、いいか——
(よくない)
「しっかりしろ、トオル嬢。目的を見失うな」
ザカリアスが隣で言った。リーゼロッテを肩に担いだまま、背筋がしゃんと伸びている。
「……お前、なんで平気なんだ」
「私はゾンビだ。内臓が機能していない。酒が回りようがない」
「……ずるい」
「ずるくはない。構造の問題だ」
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切り株のステージが、だいぶ近づいてきた頃だった。
人波の中から、空気が変わった。
甘い匂いに混じって、瘴気の気配がする。
(……これは)
俺は《鑑定》を走らせた。
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【魔族:グラード】
Lv:28
HP:???
MP:???
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【魔族:ヴァルク】
Lv:27
HP:???
MP:???
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【魔族:シェイド】
Lv:26
HP:???
MP:???
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【魔族:ネロ】
Lv:25
HP:???
MP:???
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四体。人混みの中に溶け込みながら、じわじわとこちらに近づいてくる。
「ザカリアス、来るぞ」
「見えている」
ザカリアスがリーゼロッテを地面にそっと下ろした。剣を抜く。ぎしぎしとした動きが消えて、生前の剣士の気配が滲み出てくる。
四体が、人波を割って姿を現した。黒いローブを纏い、それぞれが剣と杖を手にしている。
「霊廟巡りの幽霊……ここで始末する」
「やってみろ」
俺はふわふわしながら答えた。
我ながら呑気だった。
先手を取った。
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【スキル発動:《ダークボール(Lv7)》】
【MP:115 → 112】
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グラードに向けて放つ。
——当たらなかった。
グラードが横に跳んで、弾をかわした。
(……速い)
「トオル嬢、右!」
ヴァルクが横から斬りかかってくる。
《霊体化》。
刃が、俺をすり抜けた。
(よし——《実体化》、《ダークボール》!)
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【スキル発動:《ダークボール(Lv7)》】
【MP:112 → 109】
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ヴァルクの背中に直撃する——と思った瞬間、ヴァルクが振り返りざまに剣で弾いた。
「……っ」
(弾かれた!?)
「動きが読まれている! パターンを変えろ!」
ザカリアスが叫びながら、グラードの剣を受け流す。流れるような一閃が、グラードの肩を薙いだ。
「ぐっ……!」
グラードがよろめく。
「——セイントスラッシュ……!!」
白い光が走った。グラードが吹き飛ぶ。
ぽーん。
ザカリアスの右腕が飛んだ。
「……またか」
「また!?」
「慣れている」
「慣れていい話じゃない!!」
ザカリアスが左手で戦いながら、右腕が落ちた場所を横目で確認している。全然動じていない。
残り三体。
シェイドが杖を構えた。詠唱が始まる。
(魔法が来る——!)
《影移動》。
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【スキル発動:《影移動》】
【MP:109 → 99】
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シェイドの背後に出た。
(《祟り》!)
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【スキル発動:《祟り》】
【MP:99 → 94】
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黒い霧がシェイドにまとわりつく。詠唱が、乱れた。
「ぐ……なんだ、これ……」
(効いてる!)
しかしその隙に、ネロが俺の死角から突っ込んできた。
杖の先が、青白く光っている。魔法属性の攻撃だ。
(まずい——!)
ぐわん、と衝撃が走った。
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【HP:60 → 44】
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(食らった……!)
実体のまま、魔法をもろに受けた。
(……やばい、と思ったけど)
思ったより、軽い。
霊体の時に魔法を食らった感覚と、明らかに違う。
(……実体だと、魔法ダメージが和らぐのか)
新しい発見をしている場合じゃなかった。
「トオル嬢!!」
「大丈夫——!」
大丈夫じゃなかった。HPが一気に削れた。
(落ち着け……落ち着けって)
ふわふわした頭に、喝を入れる。
ヴァルクが再び斬りかかってくる。今度は《霊体化》で回避。すり抜けて背後を取る。
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【スキル発動:《マジックアロー》】
【MP:94 → 88】
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首筋に向けて放った。青白い矢が、吸い込まれるように急所を貫く。
ヴァルクが崩れ落ちた。
残り二体。
シェイドの詠唱が、また始まっていた。
(また魔法が来る——)
(今度は霊体で受けるか、実体で和らげるか——)
一瞬の判断。
(実体だ!)
シェイドの魔法が飛んできた。実体のまま、正面から受ける。
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【HP:44 → 35】
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(……やっぱり、実体の方が軽い)
「私が止める!」
ザカリアスが左腕一本でシェイドに突っ込んでいく。
「——セイント、スラッシュ……!!」
左腕から、白い光が走った。
シェイドが吹き飛ぶ。
しかし——
ぽーん。
今度は左腕が飛んだ。
「…………」
「…………」
両腕がない。
ザカリアスが、胴体だけで静かに立っている。
「……これは困った」
「困ったじゃないんだよ!!」
そこに。
「ワァーーーー!!!」
地面から鎧が飛び起きた。
リーゼロッテだった。
ゆらゆらしながら、目が覚めたらしい。
「ズースーーー!! どこだーーー!!」
「リズ!! ここにはいない!! でも目の前に魔族がいる!!」
「どこだ!!」
「目の前!!」
リーゼロッテが、ゆらゆらしながらネロを見た。
「……あ、ほんとだ」
鎧の拳が、ネロの顔面に炸裂した。
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【スキル発動:《スタンインパクト》】
【リーゼロッテ:MP10消費】
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衝撃波が広がる。ネロが吹き飛ぶ。
どさり。
沈黙。
俺は息を吐いた。
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【執念深きトオル】
Lv:20
HP:35/60
MP:88/120
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「……なんとかなったな」
「なんとか、ね」
リーゼロッテがゆらゆらと揺れた。
「……なんか、戦ってた気がする」
「戦ってた」
「ふぅん……」
またゆらゆらしている。
俺はザカリアスを見た。
両腕がない胴体が、静かに立っている。
「……腕」
「ああ」
「どこ行った」
「右はそこ。左はあそこ」
ザカリアスが顎で示した。俺は両腕を拾って、肩口に押し当てた。ぐちゅ、ぐちゅ、と音がして、くっつく。
ザカリアスがぱたぱたと両腕を動かして確認した。
「助かった」
「……これ、毎回なのか」
「全力で戦えばそうなる」
「もう少し加減してくれ」
「善処する」
全然する気がなさそうだった。
リーゼロッテがまたゆらゆらと揺れた。
「……あ、また眠い……」
「寝るな!! まだ着いてないぞ!!」
「……ふぁ……」
「リズ!!」
ズン、ズン、ズン。
宴は、まだまだ続いていた。
──つづく──
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