感触
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スカルナイトが、湖畔をゆっくりと旋回している。
左目を兜の影に隠したまま、こちらの消耗を待っている。あいつにとっては、時間は味方だった。こちらが疲弊して隙を見せれば、また一撃で勝負がつく。
そう仕向けている。
「焦らせるか」
俺は息を吐いた。
「リズ、合図したらスタンインパクト。タイミングは任せた」
「うん」
「ニッグは骨馬。落ちた瞬間に頼む」
ニッグが剣を握り直した。長剣が、また白く光り始めている。さっきよりも強い光だ。
「行くぞ」
俺は両手を構えた。
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【スキル発動:《ダークボール(Lv7)》】
【MP:59 → 56】
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黒い球体を放った。スカルナイトが剣で受け流す。
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【スキル発動:《ダークボール(Lv7)》】
【MP:56 → 53】
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連続して、もう一発。スカルナイトが馬を後退させる。
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【スキル発動:《ダークボール(Lv7)》】
【MP:53 → 50】
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弾幕を張った。スカルナイトの周囲を、黒い球体が舞う。直撃ではダメージにならないとわかっていても、視界を奪うには十分だった。
スカルナイトが——剣を顔の前に構えた。
馬の手綱を引いて、馬の頭を上げる。突進の角度を変えて、弾幕を避けようとした。
(——今だ!)
「リズ!」
リーゼロッテが、跳んだ。
馬が体勢を崩した、その一瞬。前足が浮いて、腹側が露わになった瞬間。
「スタンインパクトッ!!」
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【スキル発動:《スタンインパクト》】
【リーゼロッテ:MP10消費】
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リーゼロッテの拳が、骨馬の胴体に炸裂した。
衝撃波が、湖畔を揺らした。
骨馬が——崩れた。前足、後ろ足、胴体、全てがバラバラに散らばるように。スカルナイトが宙に投げ出された。
巨体が、湖畔の石畳に叩きつけられる。轟音とともに、地面が砕けた。
そこに——ニッグがいた。
待ち構えていた。
剣を、もう振りかぶっていた。
「グ……セ、イン、ト……スラッシュ……ッ!!」
さっきまでの声より、強かった。
長剣から放たれる白い光が、さっきまでの倍はあった。湖畔全体が、聖なる光に包まれた。
その白い斬撃が——倒れた骨馬を、真っ二つに両断した。
骨馬が、塵になった。
撃破。
しかし、その勢いで——
ぽーん。
ぽーん。
ニッグの両腕が、揃って湖畔の空に飛んでいった。
弧を描いて、湖の上をしばらく舞ってから——遥か向こうの水面に、ぽちゃん、と落ちた。
「…………」
「……後で取りに行ってやるからな」
俺は短く言った。
ニッグはもう、その戦いでの役目を終えていた。両腕がなくなった胴体だけのニッグが、その場でぐらりと傾いて、地面に座り込んだ。
代わりに、俺が前に出た。
スカルナイトが、片膝をついていた。
馬を失った巨体は、自分の体重を支えるのも辛そうだった。それでも兜の中の左目は、こちらを見ている。残った最後の光が、こちらを睨んでいる。
ゆっくりと、立ち上がろうとした。
剣を、地面に突き立てて。それを杖にして、上体を起こそうとして。
(——遅い)
「終わりだ」
俺は地を蹴った。
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【スキル発動:《ソウルタッチ》】
【MP:50 → 30】
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右手に、白いオーラが灯った。
スカルナイトの左眼窩めがけて、一直線に突進する。
スカルナイトが——咄嗟に腕を上げた。
兜を覆うように、籠手を顔の前にかざした。最後の光を守ろうとして。
しかし。
俺は霊体だ。
物理は、効かない。
スカルナイトの籠手を、俺はそのまますり抜けた。腕を通り抜けて、兜の中まで、一直線に。
左眼窩の奥に、白い光があった。
「もらった」
その光を、握り潰した。
ぐしゃ、という、確かな感触があった。
スカルナイトが——動きを止めた。
剣を支えにしていた腕が、力を失う。崩れる。地面に倒れる。
兜が、湖畔の石畳に転がった。
その中の眼窩からは、もう光は消えていた。
静寂。
スカルナイトの巨体が——塵になり始めた。
骨が、ゆっくりと粒子になって崩れていく。鎧も、剣も、全てが細かい塵になって、湖畔の風に舞い上がっていく。
その塵が——俺の方に向かってきた。
「えっ」
風に乗ってきたのではなかった。意思があるように、まっすぐに俺の周りに集まってくる。
塵が、竜巻のように渦を巻いた。
俺の周りを、ぐるぐると回っている。
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【条件を達成しました】
【進化が可能です】
【執念深きトオル:スペクター → ファントム】
【進化を開始します】
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「えっ、ちょ——」
そう言う間もなかった。
体の中から、光が漏れた。
塵の竜巻と、俺の体の光が、混ざり合っていく。輪郭が、ゆっくりと作り替えられていく。手足の感覚が、変わっていく。
ぼんやりとした霊体が、少しずつ——濃くなっていく。
足元に、地面の感触があった。
(……地面に、立ってる?)
そんな感覚は、霊体になってからずっと忘れていた。浮いて移動するのが当たり前だった。なのに今、確かに足の裏で、湖畔の石畳を感じている。
手を、見た。
青白い光が、さっきまでより濃い。透けていない。指の先まで、しっかりと形がある。
体に、空気の流れを感じた。
肌に、月明かりの冷たさを感じた。
久しぶりだった。
久しぶりに、身体があった。
塵の竜巻が、ゆっくりと収まっていく。最後の一粒が、俺の中に溶け込んでいった。
風が、止まった。
俺は、湖畔の石畳の上に——立っていた。
──つづく──
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