18.士官学校
眠れないまま朝を迎えた。また目の下にクマを作ってしまった……。
「おはようございますアマネ様。……眠れませんでしたか?……もしやまたお声が?」
「……はい。わたしのうつわって言われました……」
打ち明けるか迷ったけれど、きっとケイティーさんには隠せない。
「それは……」
「……女神さまが再臨するってことは、つまり、わたしが」
「おやめください!」
ケイティーさんが叫ぶように遮る
「そんなこと、そんなこと……ありえないことでございます」
嘘をついているとわかる。私もそこまで察しが悪いわけじゃない。
女神の再臨とは私を器にして成される。その時私という存在はきっと、消えてしまう。
その後は二人黙ったまま、身支度を整えてもらったのだった。
このことをフォーリアさんにも打ち明けるべき?それともフォーリアさんはもう知っている?ありえない話じゃない。今までなんだかんだ200年前の巫女のことを隠されてきたのだ。
朝食のため食堂へ向かうところ、フォーリアさんとかち合う。
「アマネさん、おはようございます」
「あ、フォーリアさん……おはようございます」
フォーリアさんは目敏く私のクマに気づいたようだった。
「眠れないのですか……女神の声のせいですか……」
ギュッと眉根を寄せた辛そうな顔、そんな顔をさせたい訳じゃないのに……。
「……そうです。そのうち、お話したいことがあります」
少なくとも今話すことじゃない。そう思って言う。
「……はい、お話してくれるまで私は待ちます」
その後食堂までエスコートしてくれるのだった。
ブリランテ伯爵邸を発ち、士官学校へ向かう。
あたりはますます砂漠化の進んだ緑の少ない土地だった。
私はというと夜眠れなかった分、馬車の揺れが心地よくて眠ってしまっていた。今度は声が聞こえなくて安心した。
「アマネさん、着きましたよ」
フォーリアさんが優しい声で起こしてくれた。
「すみません、眠ってしまって」
「いいえ、眠れる時に寝てください。あまりご無理をなさらずに……」
馬車を降りた私たちを迎えたのは堅牢な石造りの建物だった。女神の神殿にも負けず劣らずの大きさだ。
「これが、士官学校……」
「はい、私の母校になりますね」
そこへ入口の方から元気な声が聞こえてくる
「おーい!兄貴ー!巫女様ー!こっちこっちー!」
ディーズさんが出迎えに来てくれているようだった
「ディーズ、言葉遣いはもう少しどうにかならないのか」
「はいはい、申し訳ありませんあ、に、う、え」
「全く……」
フォーリアさんがやれやれと肩を竦めた。
「士官学校は変わりないな」
士官学校の中の施設を私たちは見て回る。教室に、訓練場、武器庫……。私には初めて見るものばかりで新鮮でも、フォーリアさんには違うのだろう。
「懐かしいだろ〜!兄貴、久しぶりに真剣で勝負はどうだ」
ディーズさんがニヤリと挑発する。
真剣でって、本物の剣でってこと!?
「……勝てると思っているのか」
「もちろん?」
「いいだろう、剣を取れ」
吹抜けで空の見える闘技場で二人は真剣を持って向かい合う。
いつの間にか王子二人のまさに真剣勝負を見ようとギャラリーが集まってきて、闘技場は満員になり、俺は第一王子に賭ける、いや第二王子だねなどと賭博まで行われている始末だった。
「……さあ来い」
「望むところ!」
フォーリアさんは動かずディーズさんの出方を窺う。
ディーズさんが大振りな動きで切り掛ると、フォーリアさんは軽くいなした。
「チッ!」
「剣が軽い!」
その後もディーズさんの繰り出す斬撃をフォーリアさんがいなし続け、永遠に続くのではとさえ思えた。
そこでディーズさんの突きがフォーリアさんの剣を握る手に衝撃を与えたようだった。
「ぐっ!」
「もらい!」
隙をつかんとばかりにディーズさんがさらに突きを繰り出す、フォーリアさんはそれを交わし、返す刀で突きを繰り出した。その切っ先は喉元を掠めている。
勝負ありだ。歓声や怒号が闘技場を埋め尽くす。
「あっぶねー本当に死んだらどうする!」
「真剣でと言ったのはお前だろう」
ディーズさんがフォーリアさんに色々文句を言ったり、フォーリアさんが逆に型がなってないとかどうとか喧嘩のような勢いで喋っているけれど、これも仲の良さなのだろう。
「さ、巫女様、会場はあっためときましたから、雨のお恵み、一丁お願いします!」
「その言い方は不敬だぞ、ディーズ!」
ディーズさんに言われてハッとする。そうだ、私はここにも雨を降らせに来たんだった。
また女神さまの声が聞こえるのかな……不安はあるけれど、やるしかない。
闘技場の真ん中。目を閉じて、胸の前で手を組む。胸の高鳴り……思い出すのはさっきの真剣勝負に臨むフォーリアさん。いつもと違って獣のようで、ドキドキした。その鋭い瞳、肌に伝う汗、汗で濡れた髪の毛、全て私をドキドキさせる……。
ドキドキがポンプになる……、雲が集まって、ポタポタと雨が落ちてくる。
よし、雨は降らせられた。でも、段々、気が遠くなってゆく…………。
水色の髪の毛の女の人、雨の女神プルウィアさまが現れる。
(……我が巫女……わたしの……うつわ……)
私の器ってどういうことですか、プルウィアさま!
(……わたしは……再臨する……あなたの……その身に……)
……私はどうなるんですか。
(……わたしと……おなじになる……)
それって私は消えるってことですか。
(…………おなじになるの…………)
プルウィアさま!
「……さん!アマネさん!」
ハッと目が覚める。
「アマネさん、大丈夫ですか。気を失っていたのです」
なるほど私はフォーリアさんに半分抱きかかえられるようにして横になっていた。
「また女神様の声を聞いていました……わたしは女神さまの器で、女神さまとおなじになるそうです」
「…………そんな!」
フォーリアさんは驚きを見せたあと、また眉根を寄せた辛そうな顔をしている。ああ、そんな顔をしないで……。私は無意識にその眉根に指を寄せた。
「大丈夫ですから……使命はきちんと果たします」
「アマネさん……すみま」
「謝らないでください」
私は遮る。
「私はまだ雨が降らせられるだけです。まだ女神さまと同じにはなりません。だから大丈夫です、ね?」
「……っはい。……アマネさんを信じます」
眉根に寄せた手を握ってフォーリアさんは言ってくれた。
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