19.薄暮の襲撃者
士官学校から外出許可を取ったディーズさんを新たに迎えて、隊列と馬車は動きだす。
次に向かうのはバリアシオン子爵邸だ。薄暮の中を目的地目指して進む。
「バリアシオン子爵かあー。あの人は気が弱くていけねえや」
「ディーズ、あまりそういうことを言うんじゃない」
フォーリアさんがディーズさんを咎める。
「でも悪徳商人を野放しだぜ?あれじゃ民が可哀想だ」
悪徳商人?一体何をしているんだろう。
「例のホーリックス商会だったか」
「そうそう、奴ら井戸を独占して、水を法外な値段で売ってやがる」
「確かにバリアシオン子爵には早急に解決するよう父上が命じていたはず」
「それが枯れ井戸をいくつか民に解放しただけで何も解決しちゃいないって話だ。こりゃ子爵の立場も危ういな」
雨が降らないとそういったことも起こるんだ……。
「でも、こっちには雨の巫女様がいる!もう奴らの悪徳商法も終わりだろうな!」
また、責任が重くのしかかる。それと同時に使命感が私の中に湧いてくるのだった。
馬車が急停止する。騎士団の方々が剣を抜く金属音があたりに響く。
「なんだ!」
「盗賊か!?」
ディーズさんは馬車から飛び出していってしまう。
「ディーズ!あいつ!」
ケイティーさんが私を馬車の床へと身をかがめさせてくれた。
盗賊が現れたの?私たちを狙っている?未知の恐怖に体が震える。
「アマネさん、大丈夫です」
同じように馬車の床に身をかがめたフォーリアさんが私の震える手を握ってくれた。
「ディーズもいます、我が近衛騎士団は精鋭揃いです。盗賊ごときに遅れはとりません」
「……は、はいっ」
震えた声しか出なかった。
辺りにはしばらく剣戟の音が響いていたが、やがてそれも無くなった。
「兄貴!盗賊たちは全員捕らえた!バリアシオン子爵邸まで連行するでいいか?」
「ああ、後のことは子爵にまかせよう。だが、ディーズ、王族が率先して盗賊の前に身を晒すんじゃない」
「ごめんなさいよっと。いまはただの士官学校生だからな〜」
ティーズさんがなんともないように馬車の座席に戻ってくるが、微かに香る血の匂いが模擬戦では無い戦いの証拠を残していたのだった。
「しかし妙だな、近衛騎士団が護衛する我々を狙ってくるとは……」
「確かに、普通狙われるのは隊商の積荷だよな……」
「我々王族を狙ったか、さもなくば……。アマネさん、念の為身辺には細心の注意を払ってください」
「わ、私ですか……!?」
私は驚いて声を上げた。
「ありえないことではありません、もちろん私が責任を持ってお守りしますが、アマネさんもなるべく一人になるのは控えるようにしてください」
「はい、わかりました……」
身近に迫った危機に、さらに手の震えが止まらなくなってしまった。ケイティーさんが手を握ってくれた。
「私もおそばから離れないようにいたしますね」
「ケイティーさん、ありがとうございます……」
ケイティーさんも荒事は得意ではないだろうに、私を気遣ってくれた。
その後は何事も無く、バリアシオン子爵邸へと到着した。捕らえられた盗賊たちは子爵の臣下たちが牢へと連行して行ったようだった。
「よくぞ、無事にたどり着いてくださいました。ああ、すみません……盗賊掃討が完全でないばっかりに……」
なるほどバリアシオン子爵はひょろひょろで気弱そうな方だった。
「何事も無かったのです。お気にならさず」
フォーリアさんがフォローする。
「ああ、殿下すみません、ありがとうございます。まずはお食事にいたしましょう。さ、どうぞ食堂へ……」
案内された食堂での晩餐会。フォーリアさんが切り出した。
「バリアシオン子爵、ホーリックス商会の件はどうなりましたか」
「ああ!その件でしたら、井戸の独占をやめて、民たちに解放してやったということで、解決したと存じますが……」
「いや、解放したのは枯れ井戸だけだって話だぜ。まだ法外な値段で水を売ってるって俺は聞いたぞ」
「……ディーズ」
低い声でディーズさんを窘めたフォーリアさんに、ディーズさんは肩を竦めて拗ねていた。
「ええ、そうなのですか!いやわたくし全く知りませんで……ええ」
「子爵、このことは国王陛下も憂いておいでです。どうか早急に解決なされますよう」
「は、か、かしこましましたフォーリア殿下……ええ、必ずなんとかしますとも……!」
バリアシオン子爵は可哀想なほど動揺していて気の毒だった。
晩餐会がお開きになり、客間までフォーリアさんがエスコートしてくれた。客間にはケイティーさんが先にいて、用意をしてくれていたが、フォーリアさんが念の為と部屋の中に誰かに潜んでいないかと改めてくれた。
「大丈夫のようですが、くれぐれも用心しましょう」
「はい、ありがとうございます」
「ではケイティー、アマネさんを頼みます」
「はい殿下、確かに」
フォーリアさんが出ていくと、ケイティーさんは大きなため息を漏らした。
「ああ、今日はなんて恐ろしかったでしょう!アマネ様も、こんなこと初めてでしょう?怖かったですね……」
「……はい!フォーリアさんたちがあまりに普通にしているから、私が変なのかと思いましたよ!怖かったです……!」
二人手をとって今日の出来事の恐ろしさについてしばらく共感しあっていたのだった。
ディーズは考えるより先に体が動くタイプです。
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