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8.異世界における貨物・旅客輸送業者の生活2

 『白環(はっかん)』において、『島』の気候は高度によって大きく変わる。


 高高度は乾燥して済んだ大気と身を切るような寒さ、強い風が特徴。

 遠景や夜間の星空が見やすく、航路を外れた場合やシマヌシ一人の航行で好まれる。


 低高度は湿度の高い大気と蒸し暑さが特徴。

 農業を行っている『島』や降雨による水分補給を求めて高度を下げる場合がある。

 他の島からの視線を避けて、雲の影に隠れたりする場合もこちら。

 シマヌシ同士なら距離が近いと感知されてしまうが、十分に離れた低高度を行く『島』は、補足するのが困難である。


 そして乗客や乗員として大陸民を乗せている場合、『島』は中間高度をとる。

 温暖な気候、爽やかな風。

 人数と天候、『島』の設備を考慮して微妙な高度を調整し、快適な旅を提供する。

 その辺りになると、人員輸送を専門とする客島の領分になるらしい。

 豪華客島のシマヌシともなれば、それに加えて話術音楽立ち振る舞いなど様々な分野に精通する必要があるのだとか。


 もっとも、そんな話はどうでもいい事だ。

 今重要なのは、この『島』が高度を下げて暖かくなったから外の死体を早めに処理する必要がある、という一点だった。


「さて、ちょっと失礼しますよ」


 二体の空賊の死体に気持ち程度に手を合わせて拝み、衣類や装備を貰い受ける。

 裸になった仏さんを担ぎ、高台から廃棄孔に投げ込む。

 これが『白環(はっかん)』での死者の弔い方だった。

 ついでに小屋の壁に刺さっていた黄金の矢も投入。

 廃棄孔に投げ込まれたものは還元され、『島』の養分となるらしい。

 不思議だが、穴が埋まることは無いようだ。

 それでも消化の悪いものは入れないように、とは言われたが、感覚はさっぱり判らない。

 あの死体が腐っていたら、『島』が食あたりでも起こすのだろうか?


 ***


「おはよう」

「おはよう。……朝飯食ってる最中に悪いが、死体の始末は終わったぞ」

「ん、お疲れ様」


 時計の針は殆ど12を指していた。

 相変わらずパジャマのままレトルトのカレーを食べているアッシュに合わせて、味付けが薄く具の無いパスタの昼食を済ます。

 塩や調味料を切らしているのは結構致命的である。


「そろそろ航路の近くに戻れたと思うから、電波が入るようになったら組合に通信してみる。タイチの事も報告したいから、その時になったらよろしく」


 異世界生活3日目にして発覚した事実。

 電波あるのかこの世界。

 むしろ電気あったのか。確かに時計は存在したが。

 食堂代わりの応接室をぐるりと見渡すが、コンセントの類は一つも見当たらない。


「ああ、電波っていうのは都会の発明品で、……まあ、離れた場所と連絡がとれるようになるものよ」

「おう、説明を省いたな。……地球にもあったが、この世界のものと同じものかは分からないな」


 スマートフォンを持っていたなら、アッシュに見せてみたかったのだが。

 あいにく家で充電したまま置きっぱなしであった。

 そう考えているとピンクのパジャマの袖口が光り、黄金の流体が薄い金板を形作る。

 金板の表面の凹凸は細かく変化し、ディスプレイのような機能を持つ様子だ。

 表面に走った文字は読めないが、相手も同じことを考えていたようだ。


「そう、地球のタブレットもそんな感じ」

「ええ……? 本当ならチキュウの文化の評価を改めなくてはならないようね」


 幾つかの文字や絵が表面に走った後、金板は黄金のマグカップに変形した。

 いや、地球のタブレットには勿論そんなトンデモ変形機能は無いのだが。


 ***


「というか、客室があるのに食堂が無いのは変な気がするがどうなんだ」

「そこは仕方が無いのよ。燃費も違うし食べる量も違うんだから、食料も乗客の持ち込みにしてもらう方が面倒は無いわ」


 確かに病み上がりだというのにアッシュの食べる量は相当少ない。

 パックのレトルトカレーを使い切らない事も多く、食事回数も多くて二食である。

 あれがシマヌシの食生活なら、乗客と食事のタイミングを合わせるのは難しいだろう。


「それで乗客が餓死してちゃあ世話が無いな」

「私は荷物を運ぶことの方が多いけど、客島だと気を遣う問題らしいね。非常食を多めに積んだり、小さな畑を作ったり。家畜を飼うこともあるって聞いた」


 畑に家畜か。確かにその方が新鮮な食料が手に入るな。


「そういえばこの『島』でも木柵の破片を見つけた事はあったな」

「うん、私も何度かニワトリのつがいを買ってみたことはあるんだけどね。……数日エサやり忘れただけで弱るし、ストレス溜まると『島』から飛び降りちゃうし。ある朝様子を見たら雪に埋もれて凍ってたこともあったわ。結局一度もお客さんに振る舞う事は出来なかった」


 遠い目をして家畜(ペット)との破滅的な思い出を語るアッシュ。

 黄昏ている少女というこの絵面を見て、俺の背筋に走るのは恐怖であった。


「……ちなみにその時、乗客はどんな様子だった?」

「大人しい人達でね、鶏肉の予定が無くなりましたって謝りに行った時も、客室で毛布を被って静かにしてた」


 それ、寒くてただ震えていただけじゃないのか。

 ……ああ、シマヌシが飼うのは家畜(ペット)ではなく、家畜(カナリヤ)なのか。

 しばらくの熟考の後、地球の鉱山で黄色い鳥がどんな目的で飼育されていたかを語ると、それを聞いたアッシュは、酷い話ね、と悲しそうに呟いた。


「地面を穴だらけにして『島』から金属を取り出すなんて、なんて酷い話なのかしら」

「そこかよ」


※暇な航行生活の過ごし方=雑談

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