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戦艦コロッサスの奮闘

近藤さんから貰った名簿には多くの人物の写真と名前が載っていたが、その中で現在も生き残っている人物は僅か十数名でした。その中に一人、火星上陸阻止作戦に参加していた人物がいたので、早速アポを取って取材に向かうこととなりました。私が取材の為に向かったのは彼の自宅でした。刺すような夏の直射日光にさらされ、最近ではあまり見ない戸建住宅のインターホンを押すと、しばらくして女性の声が聞こえた。そこからまた十数秒後、黒塗りのモダンなドアを開けたのは年老いた女性でした。そこから彼女に先導され、その家のリビングに向かいました。そこに一人、彼女と同じくらいの年齢の男性が大きな窓の側にある椅子に座っていました。どうやら女性は彼の妻だったようで、彼と小さな声で少し話した後、軽く礼をして部屋から出ていきました。ここで彼が私に話しかけました。

「どうもこんにちは。こうして人様が取材に来るのは久々の事で、あまり変わった話をすることはできませんが…」

そう言った後に一拍置いて、よろしくお願いしますね。と、彼はあまり感情の読み取れない声でそう言いました。その後、気まずい沈黙が訪れる前に私は彼に言葉を投げかけました。

「こちらこそ、よろしくお願いします。」

そう言って軽く礼をした後に、私は取材を始めました。

「では、改めてになりますがお名前と当時勤務していた艦を教えていただけますか」

ー江藤祐介です。当時は戦艦コロッサスで甲板長をしていました。ー

少しの間を空けて、彼はこちらを少し見ながらこう言いました。

「さっきも言いましたけど、話せることなんかありませんよ。誰の紹介で来たのか知りませんが…」

彼は少しの苛立ちを見せてそう私に言いました。私は早くも諦めそうになりました。取材と言うのは互いの同意があって成り立つものですから、こうなってしまってはよい取材はできません。それでも、せめて話は聞きたいという思いから、私は彼と会話を続けました。

「それでも、お話を伺いたいのです。」

私の言葉を聞いた彼は少し驚いているようにも見えましたが、それもほんの一瞬でした。すぐに元の不機嫌にも見える顔に戻って

「そうですか」

とこちらを見ることなく言いました。そして、その場を沈黙が支配しましたが、私は早速彼に質問をしました。

「早速ですが、近藤さんとの関係をお聞きしてもよろしいでしょうか。」

私がそう言った直後、彼の様子が目に見えて変わったように思えました。彼は今までと違ってこちらに体を乗り出すようにして問いかけたのです

「近藤というのは、近藤孝治という男性ですか?」

「そうです。あなたが近藤さんの教え子であったと彼に聞きました。」

私の返答に、彼はふと、思わずといった様子で言葉をこぼし、少しの笑みを見せました。

「そうですか、近藤教官が...」

そう言った彼は始めと違って、少しばかりの柔らかさを含んだ声で私に聞きました。

「教官はなんと仰っていましたか。」

その問いに対して、私は少し言葉を選んでこう答えました。

「話を聞いてよく知るようにと。そうなるまで答えは教えないとも言われました。」

私の言葉を聞いた彼は上の方を見上げ、小さく声を出して笑っていました。そうしてひとしきり笑った後に上の方に身を向けたまま言ったのです。

「そうですか、教官らしいですね。私が彼に教えて貰っていた時もそうでした。答えに至る知識は教えて貰っても、きまって答えは教えて貰えませんでした。」

そう言った後、彼は考え込むように目を閉じました。そして、小さな声でこう言いました。

「終戦後もしばらく探した筈なのだが…どうもあの時期はきな臭かったから...」

そう言った後、彼は急に話を止めて、先程の言葉を掻き消すように少し早口で話し始めました。

ー確か火星上陸阻止作戦の事でしたか。そうですね…ご存知かと思いますが、あの戦いが始まる以前に国連軍は火星沖で2度の大規模な海戦を行いました。そして2度目の海戦で国連軍は敗北し、既に火星沖の制宙権を失っていました。火星上陸阻止作戦はそんな中で行われました。正直、誰もこの戦いに勝てるとは思っていませんでした。当然、私もです。この戦艦は開戦初期から生き延びている幸運艦でしたが、それでも今回の戦いで沈むだろうと心の奥では思っていました。というのも、立て続けに起きた海戦で国連軍は大きな犠牲を払い続けていました。数少ない勝ち戦である第一次火星沖海戦ですら投入戦力の4割を失ったのですから、負けた戦は言わずもがなでしょう。そんなわけで、この作戦に投入された戦艦は、20隻程度のコンカラー級戦艦でした。いくら新型戦艦と言えど、数と質で勝る敵艦隊に勝てるとは到底思えませんでした。その代わりにと言っては何ですが、対艦刺突刀を装備した駆逐艦は300隻ほど投入されていました。戦術はシンプルなもので、駆逐艦が敵の戦艦を撃破した後に戦艦が上陸艦を撃滅する、というものでした。艦橋でそのような説明を受けた後に、私達は火星から少し離れた宙域に展開しました。そして、丁度夕飯の時間になるかというくらいで、無線から声が響きました。

「敵艦隊ワープアウト、戦艦50、揚陸艦100以上。戦闘に入る。」

私達は目の前に出されたご馳走をみすみす取り逃がしたことに目を瞑って、速やかに出撃準備を始めました。落ち着いていた艦内は一気にざわめき始め、艦橋メンバーの動きに呼応する様にして各種機械の駆動音が一斉に響き始めました。

「主砲動作確認始め、FCS起動。主砲管制システムを第一種戦闘配備に移行」

「艦内システムグリーン」

艦橋にある様々なランプが明るく光り始め、艦内各所からの報告と艦橋からの指示が飛び交いました。

「慣性制御システム戦闘態勢に移行、総員注意…」「ただいま起動作業中、どうぞ」

「主機関、高回転域に移行中。」

「重力子機関炉内温度正常、回転数異常無し。圧力規定値内で推移。」

身体が少し軽くなり、表示器の針が動くのを見た直後、機関の駆動音が遠くから小さく聞こえました。

「DBUセットアップ始め、微動調整機動作始め」

私はマイクに身体を近づけ、周りの声に掻き消されないように声を上げました。

「艦内、戦闘態勢に移行。隔壁閉鎖作業始め。凝固液充填始め。」

直後、画面上に描かれているコロッサスの各所が、艦首から順に隔壁閉鎖を示す緑色に点灯していきました。私は矢継ぎ早に次の指示を行いました。

「小物固定確認、舷窓閉じろ。」

しばらく経った後、受信機のランプが光り、私は受話器を取りました。

「艦内各所異常無し、問題なし。どうぞ」

少し早口な担当員の報告を聞いた私は、すぐさま後ろを振り返り、一際大きな声で言いました。

「艦内各所、戦闘配備完了。」

直後、隣にいたレーダー長も戦闘準備完了、と声を上げました。そして一通りの報告が終わった後、艦橋は先ほどの喧騒が嘘のように静まり返り、機械の稼働音のみが低く響いていました。そこから数分、息の詰まりそうな緊張を打ち破るようにして通信が響きました。

「こちら火星司令部。第一次攻撃の終了を確認、作戦に変更無し。第411戦艦部隊は戦闘に参加せよ。」

直後に、艦隊旗艦より通信。

「全艦ワープ始め。我に続け」

それを皮切りにして、周りの戦艦は次々にワープを始めました。コロッサスもまた、ワープの為に速度を上げました。数秒後、轟音と共に亜空間に突入しました。

そして、次に見えた景色は、あまりにも大きい火星と右側に展開する敵艦隊でした。再び艦橋は声で溢れました。

「敵艦隊レーダーで捕捉、揚陸艦20、戦艦8、その他小型艦多数」

「右舷対艦戦闘、砲撃戦用意。目標敵揚陸艦、艦橋指示の目標、弾種そのまま、対艦徹甲光線。」

その声にあわせて、窓の外に見える主砲は、3本の砲身とその砲口を水平に保ったままに、滑らかに右へと回転しました。そして、ピタリと静止した瞬間、射撃が始まりました。全ての砲身から一斉に青いレーザーが飛び出し、周囲に展開する戦艦も一寸違わぬ様子で砲撃を始めたのです。放たれた砲撃は敵の揚陸艦に吸い込まれるようにして命中しました。そして、着弾点で爆発が起き、2斉射目が命中したとき、敵艦の甲板が浮かび上がり、爆発が敵艦を包みました。連続の砲撃が敵艦隊に注がれ、敵揚陸艦は着実にその数を減らしていました。しかし、目の前を航行していた戦艦の舷側に赤いレーザーが命中しました。着弾点を中心に戦艦の装甲が縮れるようにして陥没し、そこから金属片が飛び出ました。一瞬の後、その穴からオレンジの炎が吹き出し、姿勢を崩しながら爆炎に包まえました。

「取舵いっぱい、急げ。」

そう叫ぶ艦長の声が聞こえましたが、既に手遅れでした。

「総員衝撃に備え」

コロッサスは前方の爆炎に突っ込む形となったのです。破片がコロッサスの船体を叩く軽い音と、残骸に衝突する低い音と鈍い衝撃。それは1秒程の短時間でしたが、当時はとてつもなく長い時間のように感じました。そして、煙から脱出した直後、私がマイクに向かって

「各部損害知らせ」

と叫ぶのとほぼ同時に、主砲が砲撃を再開し、船体に僅かに纏わりついた煙を青く照らしました。そして、その数秒後、報告が入りました。

「前部対空機銃損傷」

「艦橋レーダー感度異常」

そうしたいくつかの報告に対して、私はモニターを操作すると同時に指示を出していると、窓の外に光が見えました。また戦艦が沈んだのでしょう。無線からは激しい声が聞こえました。

「こちら441戦艦部隊。敵戦艦の攻撃苛烈なり。駆逐艦隊の増援を求める。どうぞ」

「こちら火星司令部。駆逐艦隊は現在再攻撃準備中。再攻撃まで残り600」

「10分!?…10分と言ったか。」

「現在陸上攻撃機が急行中、到着まで残り300」

旗艦通信員の激しい声とは裏腹に、司令部は非常に落ち着いた声でそう言いました。

「10分もあればインスタント麺を作って美味しく食べれそうだな…」

投げやりにそう小さく呟いた私の言葉は、隣人を軽く笑わせたのみでした。そして、次の瞬間、味方戦艦の艦首を敵のレーザーが貫き、貫通するのが見えました。数十秒後、コロッサスの砲撃が敵揚陸艦に命中した直後、赤い光がこちらに向かってくるのを見ました。艦が激しく揺れ、続いて甲高い、爪でガラスを引っ掻いたような音が船体を包みました。そして、それが収まった直後、私は咄嗟に叫びました。

「ダメージコントロール、損傷知らせ」

そう言うが早いか、私は画面を操作しながら、指示を出し始めました。

「35隔壁から38隔壁まで閉鎖、13、14、15区画凝固液解放。同区画酸素供給遮断、慣性制御システム再設定始め。」

私の操作に合わせて、画面上の緑の点は次々と赤色になっていき、隔壁が正常に閉鎖されていることを知らせていました。直後に通信が入り始め、各所の損害が次々と報告されました。そのとき、とある通信が飛び込んできました。

「隔壁を開けてくれ、相沢がまだ外にいるんだ」

友人なのでしょう、彼の悲鳴のような声には明らかに業務上のそれではない感情がありました。だからこそ、私は彼にこう返しました。

「隔壁名と彼の階級を教えてくれ。」

「あァ、えっと…36隔壁で相沢徹二等水兵です」

私はモニターに36隔壁の文字を探しました。そして、その文字を見つけたとき、私は思わず小さく舌打ちをしていました。そこは丁度、壊滅し、画面上で黒くなっている区画と、正常であることを示す緑色で表示されている区画の境目だったのです。私は迷いました。その隔壁を開ければどうなるかは目に見えて明らかでした。

「お願いします、ほんの一瞬でいいんです。彼は私の唯一の友人なんです。お願いします…」

彼もまたその事を分かっていたのでしょう。彼の懇願するような声はどんどんと小さくなり、最後には艦内電話で拾えないほどの小さな声になりました。

「隔壁は解放できない。速やかに所定の作業に戻れ。」

私はこう答えました。それと同時に、他の場所から損害を知らせる通信が入りました。そうして私はそれらへの対応を始め、その後に彼からの連絡が届くことはありませんでした。

「後方に感あり、味方攻撃機です。数28」

そんな声が艦橋に響きました。直後、編隊を組んだ双発機が私達の前方を横切って敵艦隊へと向かっていきました。そして敵艦の主砲が攻撃機を捉え、交戦を始めたのです。

「取舵180度、この隙に反転する」

旗艦から通信が届いた直後、1拍を置いてコロッサスは右に傾き、スラスターの駆動音と共に旋回を始めました。

「主砲旋回始め、目標を再度捕捉せよ。左78度仰角24。」

主砲が唸りをあげて旋回しているその最中に通信が入りました。

「30秒後に地上砲台より支援砲撃を始める。斜線上にいる艦は速やかに待避せよ。」

通信が終わった正にその時、刺すようなブザー音と共に、正面に見えた主砲の砲身が突然一斉に仰角を上げました。

「砲身温度規定値を上回りました。現在第2種冷却作業中、冷却完了まで残り15秒」

その報告に対して、砲術長が冷静な声でこう答えました。

「第1種冷却に移行。交互撃ち方にて速やかに射撃を再開せよ。」

そう言い終えた直後に、主砲はその砲身を再び水平へと戻しました。そして、艦の旋回に合わせて旋回し続けている主砲と砲身から白い煙が吹き出し、その直後に中央の砲身から、レーザーが煙を貫いて撃ち出されました。そして、撃ち終えた中央の砲身が素早くその仰角を目一杯に上げた直後、左右の砲身が同様に煙を貫いてレーザーを撃ち放ったのです。

「こちら応急2班、右舷区画復旧完了。これより13区画の復旧に入ります。」

手元のスピーカーから、そのような報告が聞こえました。

「了解、無事を祈る」

私がそう言って通信を終え、凝固液の分配調整を始めようと手を動かしたその時でした。

「こちら第63航空戦隊、本艦隊は攻撃を受け壊滅。制空任務を中止し、撤退する。繰り返…」

「こちら火星アルカディアポート砲台。これより支援砲撃を開始する」

直後、地表の方に反射光のような光が見えました。そして、次の瞬間には敵の戦艦部隊に緑や青のレーザーが降り注ぎました。光の線が交差し、暗い宇宙空間を照らす光景は、皆に美しいという感情を持たせるのに十分なものでした。映画さながらの砲撃が目の前で繰り広げられていましたから、自分がその当事者だと言うことも一瞬だけ忘れていたと思います。私が正気を取り戻したきっかけは、隣にいたレーダー長の報告でした。

「艦隊上空に多数の次元振動を探知。恐らく航空機、推定数32」

その報告を聞いた艦長が

「対空戦闘用意」

と言った直後、空間を割るようにして、真上から多数の航空機が白い光と共に飛び出してきました。対空砲は即座に射撃を開始し、細いレーザーが敵を包みました。他の艦も対空砲を撃ち始めましたが、コロッサスよりもその数は少ないように思えました。銀色の敵航空機が1機、また1機と炎に包まれていきました。しかし、全てを迎撃しろと言うのは無理な話でした。私達の前を航行する戦艦にロケットが複数命中し、甲板が爆炎で埋め尽くされるのを見た直後、コロッサスにもロケットが命中し、連続した爆発音と揺れがしばらく続きました。

「ダメージコントロール始め。各所損害知らせ」

そのときのモニターは悲惨な現状を示していました。甲板上の構造物の大半に何かしらの被害がありました。

「右舷1、2、3番高角砲沈黙」

「超重力砲照準器損傷」

「左舷3番高角砲応答ありません」

「1番主砲旋回モーター損傷、予備に切り替え中」

「艦首対空機関砲大破、使用不能」

「3番弾薬室与圧低下」

次々と飛び込んでくる報告を横目に、私はモニターを操作し、なんとか被害を押さえようとしていました。その時でした、窓から強い光が見えたので、何事かと思って顔を上げると、敵艦隊の上方にワープアウトする駆逐艦隊が見えました。エンジンから炎を噴き上げて敵戦艦に肉薄する駆逐艦隊は、その構成艦を次々と失いながらも、数十秒後にはその内の数隻が蒼白い光を発して敵戦艦に突っ込んだのです。そして、敵艦が炎に包まれるのを正面に捉えながら、物凄い勢いで離脱していきました。私達は勝ちを確信しました。敵戦艦は今の攻撃で姿を消し、残ったのは主砲で処理できる揚陸艦のみ。残った戦艦はコロッサス含め7隻のみでしたが、それでも十分に勝ちを望めました。

「主砲目標変更、左舷78度仰角13、一斉射撃を行う。撃ち方用意」

主砲は僅かにその角度を変え、艦橋にブザーの音が響きました。

「撃ち方始め」

その声に合わせ、一斉に射撃が行われました。そして、砲撃が敵に命中し、揚陸艦が力無く進路を外そうとした丁度その時でした。

「敵揚陸艦部隊後方より次元振動多数。戦艦です、敵戦艦多数。100隻以上、ワープアウトしてきます。」

レーダー長の悲鳴のような、絶叫のような報告が艦橋に響き渡った直後、彼の言葉を遮るようにして大量の敵戦艦がワープアウトしてくるのが見えました。先程まで10隻もいない戦艦に苦戦し、戦力をすりつぶした私達が勝てるはずのない物量が、確かにそこにありました。直後、沈黙を切り裂いて通信が飛び込んできました。

「こちら火星司令部、宙域に展開する艦隊は直ちに撤退せよ。繰り返す、防衛線は破棄、全艦直ちに撤退せよ。」

「こちら411戦艦部隊、了解。これより離脱する。」

直後、喧騒のなかで艦長が命じました。

「戦闘中止、これより戦場から離脱する。」

その言葉を聞き、皆が現実をしっかりと受け入れられぬままに日頃の訓練通りに動き出しました。

「主機関出力向上、回転数上げ。ワープ用意、タイミング計算始め」

機関長がそう言ってから少し時間を置いて、主機関の甲高い音が僅かに聞こえるようになりました。

「機関回転数正常、炉心内圧力規定値範囲内。ワープタイミング最短1.11、適正6.13。どうぞ」

「速力、第1ワープ速度まで移行する。」

そうして、徐々にコロッサスは速度を上げていきました。その直後、赤い線が私達の前方を横切り、斜め前を航行していた戦艦が突き飛ばされるように姿勢を崩しました。そして、1番主砲の方で大きな爆発が起き、艦首は折れてへし曲がり、爆発の圧力とエンジンの推進力に挟まれた艦中央部がプレス機に押し潰されるようにして潰れながら爆炎に飲み込まれ、直後により大きな爆発を起こして沈没してしまいました。そして、その艦を横目に、私達はワープで戦場を離脱しました。その後、私達は艦の損傷を理由に地球圏に帰還することになりました。私達は地球に帰れるとばかり思っていましたが、結局月面基地で修理を受けることになりました。そこから2週間程たって、修理と近代化改修を終えてドックで最終調整をしていたときです。私はその時艦橋に居ましたが、外からけたたましいサイレンの音が聞こえました。何事かと思って丁度地上で作業していた友人に電話で聞くと、どうやら敵戦闘機がこちらに向けて飛行しているらしいのです。その知らせを聞いて5分程たった時、まず艦長が息を切らして駆け込んできたかと思えば、副長や砲術長も続いて入ってきました。そして艦長がこう言ったのです。

「本艦はこれより対空戦闘に入る。機関始動。第一種戦闘配備」

その声の直後、皆は先程まで息を切らしていたのが嘘のように素早く自らの職務を果たしていました。私も鍵を差し込み、コンソールの電源を入れました。

「メモリーユニットグリーン、戦闘システム問題なし。新戦闘補助システムコネクト確認、現在正常に作動」

技術士官がそう言ったのが聞こえました。そこに少し被せるように声が響きました。

「重力子機関始動始め。補助機関始動、回転数最大に移行。待機出力まで持ち上げろ。」

「こちら機関室、補機正常作動確認。主機関始動可能域まで残り30秒。」

電話からそう聞こえた直後、艦橋の壁面にあるコンソールが待機光量から一気に明るくなり、表示器は一斉に動き始めました。

「戦術データリンク起動。月面司令部とコンタクト確認。地形データ適応完了。」

「武器システム起動。測距儀、レーダー連動確認。FCS、IFF起動、正常に動作を確認。」

直後、艦橋の上側にある、コロッサスのロゴが大きく映されていた大型モニターに周囲の地形が表示され、少し遅れて周囲の味方艦や部隊が緑色のマーカーで表示されました。

「対空砲起動、照準システムセットアップ。予測演算システム及び偏差連動装置順次起動」

「統合武器システム、目標探知システム起動。動作に異常無し、目標自動設定始めます。」

地形データが表示されたマップに敵部隊の情報とロックオン状態を示す白い円が映されました。

「重力子機関始動。機関室状態知らせ」

少し遅れて、小さな振動が伝わり、それは段々と小刻みな振動になっていくように感じました。

「DBUセットアップ始め、微動調整機動作始め」

「こちら機関室、重力子機関炉内温度正常、回転数異常無し。圧力規定値内で推移。」

「艦内、戦闘態勢に移行。小物類固定せよ、舷側閉じろ。」

「艦対艦通信接続開始、戦術データリンク更新。」

「こちら機関室、巡航回転数に到達、補機回転数落とします。」

それぞれの指示と返答に呼応するように、音が変わり、ランプが点り、モニターはその画面を忙しなく変えていきました。

「主砲動作確認始め、主砲管制システムを第一種戦闘配備に移行」

「主砲にエネルギー移送開始します。」

「装備状態チェッククリア、艦内システムオールグリーン。戦闘準備完了」

その声が聞こえた直後、艦橋は一瞬の静寂に包まれました。皆がその役割を果たし、後は敵が射程内に入るのを待つのみでした。しばらく後、空を7本の緑のレーザーが貫き、地上部隊の砲撃が始まったことを知らせました。そしてそれら砲撃は命中とともに激しい光を発し、次の瞬間には敵編隊にいくつもの穴が空いていました。それと同時に敵編隊は一斉に分散して向かってきました。続いて地上部隊が射撃を続けましたが、その殆どは命中せず、ただ砂埃を振り払っただけでした。その直後、砲術長が声を上げました。

「主砲対空戦闘用意。右21度、仰角54度。使用弾は対空拡散弾。一斉撃ち方」

その声から一拍おいて主砲が低いモーター音を響かせてゆっくりと旋回し、砲身は天を向きました。そして、ガコンという音を鳴らして完全に静止しました。その直後、近くで爆発が起きたかのような爆音が聞こえ、猛烈な爆風とともに青色のレーザーが撃ち出されました。10メートルほど離れた隣のドックでも戦艦ドレイクが爆音とともに主砲を発射し、その衝撃波でこちらまで飛ばされた道具箱が音を立てて落ちるのが見えました。私たちの砲撃は敵航空機を2機撃墜しました。そして、その他の艦や地上部隊も次々と砲撃を開始しました。

「近接対空戦闘用意、対空ミサイル順次発射初め、高角砲射撃準備。」

直後、艦首にあるVLSは一斉にその口を開き、激しい炎と煙を吹き出したと思えば、白煙とともにミサイルが垂直に打ち上がりました。白煙はしばらく垂直に伸びていった後、急速にその向きを変えて敵航空機に向かっていきました。ところが、後少しで命中しようかというときにミサイルは泥酔したかのようにふらふらと軌道を変え1発も命中することはありませんでした。

「目標、高角砲射程内。高角砲順次射撃初め」

その声に呼応して高角砲は甲高いモーター音を鳴らしながら旋回し、その動作を止めた直後に赤いレーザーを機関砲のようなスピードで連続して射撃しました。しかし、敵はすでに私たちを射程に収めていました。敵から放たれたミサイルは幸いコロッサスには命中しませんでしたが、6本ほどがドックの硬いコンクリートに突き刺さり、爆発しました。そしてコンクリートの破片と爆炎、耳をつんざくような爆音がコロッサスを包みました。隣にいたドレイクにはミサイルが命中し、直後に爆炎と腹の底に響くような爆発音を伴って船体がまっぷたつに折れました。そして、その艦首から船体中央にかけてが重力に逆らって天を向いたかと思えば、爆発の波が原型を保っていた艦首を包み、その煙が空へと伸びていきました。そして、ちょうどコロッサスの真上を通過していた敵航空機に細いレーザーが命中し、その白銀の機体を貫きました。敵機体は突き上げられるようにして進路を変えた後、爆発して墜落しました。そして、私たちの上を通り過ぎた機体のうち数機がその機首を天に向け、反射光が刺すように光ったかと思えば、そのまま鋭い風切り音のような音とともに宙返りをして私たちの真上から接近してきたのです。即座に全ての機関銃がそちらを向き、一斉に射撃を開始しました。しかし無常にも敵はミサイルを発射しました。そして何かをする暇もなく、艦長が

「総員衝撃に備え」

と叫んだ直後、これまでに感じたこともないような猛烈な揺れと爆音を前にして私は意識を失いました。

暖かくもあり、同時に身体の芯から冷えていくような矛盾した感覚、歪み、ぼやける視界とそこに映る景色を赤く染める赤色灯の光。鉄の匂いと火花、誰かの小さな唸り声。

「こちら司令部、コロッサス状況知らせ。繰り返す状況知らせ」

私は司令部からの連絡で一気に目を覚ました。視界は歪み、酸欠のときに味わったことのある強烈な頭痛を感じました。しかし、私はその時周りが誰一人起きていないと確認してこう叫んだのです。

「こちらコロッサス甲板長、江藤祐介です。見る限り艦橋は壊滅。他は不明。」

「こちら司令部、そちらに艦橋以外の大きな損傷はない。戦闘続行は可能であるか」

私はそれを確認するためにモニターを見ましたが、パイプに貫かれたモニターは奇妙な色彩と火花を映し出すのみでしたから、私は艦内電話の受話器を手に持って、こう言いました。

「各所、損害知らせ。主砲は別に指示があるまで各個照準射撃」

直後、待ってましたと言わんばかりに報告が飛び込んできました。

「敵弾は艦首に1発、艦中央部に2発着弾。艦橋部分はぐちゃぐちゃです。」

「貫通弾はなし、甲板上で火災発生。現在応急4班が消火作業中」

「左舷4,6,7,8,10番機関砲大破利用不能」

直後、主砲が発射される爆発音と青白い閃光がひび割れたガラスを通して艦橋を照らしました。そして、数秒経って大きな衝突音が2回ほど響き、爆発音とオレンジの光が辺りを覆いました。

「こちら月面司令部。敵の第三次攻撃隊を探知。残存部隊は迎撃に移れ、どうぞ」

ノイズの走った声で無線がそう言うのが聞こえましたが、この船に戦闘を継続する力はありませんでした。主砲や対空砲はそれぞれが射撃を続けていましたが、命中率は極端に下がり、空を照らすのみでした。そして、主砲が5回ほど放たれた直後、力強く天に向いていた砲身はゆっくりとその仰角を落としました。

「こちら1番、2番主砲塔。機関からの動力伝達が切断されました。」

恐らく伝達回路が破断したのでしょう。機関はいまだにその駆動音を低く響かせていましたから、私は白けてきた視界でなんとか受話器を取ってこう答えました。

「主砲は予備電源に移行…可能であれば実弾で射撃せよ。……空いている人員があれば伝達回路の修理を最優先で行え。」

「こちら3応急、破断箇所は恐らく2番主砲付近。修理のために主砲を止めていただきたい。」

「……何秒止めればいいか」

「240以内で終わらせます」

「………わかった。…甲板長より主砲へ、これより…修理を開始する。主砲の動作を停止せよ……時間は240」

「主砲、了解しました」

そうして前部にある2つの主砲は動作を停止しました。そこから10秒ほどたった後、遠くにある造船工場から、目が焼かれるのではないかと思える程の激しい閃光が唐突に現れました。そこから少しして耳をつんざくような低く、重い爆発音が聞こえると同時に、重苦しい黒煙と橙色の炎が空に昇り、恐らく屋根だったであろう巨大な鉄板が天高くまで持ち上げられ、そこから木の葉のようにゆっくりと地上に落ちていくのが見えました。そして、私はこの光景を見た直後、視界が急速に白くなると同時に暗くなっていき、身体の芯が熱を失ったかのような寒さと共に失血で意識を失いました。

私が目を覚ましたとき、そこは知らない天井でしたが、鼻につく消毒液の匂いと不気味なまでに整えられた白い壁紙と大きな窓に、ここが病院の一室であると気付かされました。しばらく経って、ノックの後にスライドドアが音も立てずに開き、そこから薄桃色のナースキャップを被った看護婦が入ってきました。

「おはようございます。気分はいかがですか?」

と声をかけてきたので、問題ありません。と答え、それを示すように身体を持ち上げようとして、ふと身体の重心がおかしいように感じ、そこで自らの脚が太もも辺りで途切れていることに気付きました。私は思わず目を見開き、それを見た看護婦は、しまった、というような表情を浮かべて

「主治医を呼んで参ります。」

とだけ言って病室から焦ったように出ていきました。そこからしばらくは、時計の秒針の音のみが響きました。私は自らの変化を受け入れようとしましたが、やはりこの短時間では無理な話だったのでしょう。そうしているうちに再びノックが響き、先程の看護婦と、白衣を着た上に吊り下げ名札を首から下げている男性が病室に入ってきました。その彼は、まず始めに

「先程は不躾なことを言ったそうで…大変申し訳ございません」

と言い、こちらに頭を下げました。その時に、「地下都市中央病院医師 江島春雄」と書かれた吊り下げ名札が丁度私の頭の前にぶら下がりました。どうやら先程の彼女は新任どころか本来は学生の身であるらしく、戦争による人員不足の為にやむを得ず病院に配属されたそうです。この後、医者が語ったところでは、私の脚は艦橋にあった機材に押し潰されて壊死していたらしく、両足ともを切り落としたらしいです。勿論、戦傷手当ては十分に振り込まれていましたから、私には高価な義足を取り付けられるとも言っていました。私は思わず、堪えきれなくなって聞いたのです。

「私はまた戦艦に乗れますか?」

その問いに対して、医者は心底気まずそうな表情で顔をうつむけ、僅かに目をそらしながら静かに言いました。

「義足という物は定期的な整備も必要ですし、精密なものですので、これまで通りに勤務されるのは大変難しいかと……」

その答えに対して、私は

「そうですか…有難うございます。」

とだけ言いました。私も、この身体ではもう軍務は出来ないだろうと薄々勘づいていましたから、そこまで取り乱すこともなくその事実を受け止めたのです。それから、例の新任の看護婦が私の担当となったようで、食事であったり少しばかりの運動だったりを文句の一つも言わずに手伝ってくれました。そして、友人の話であったり、食事の話であったりをいかにも女学生らしい、底抜けた笑顔で楽しそうに語るものですから、私の憂鬱だと思われた病院生活も随分と楽しいものになりました。そんなある日です、テレビの中で黒いスーツを着た初老の男性がなにかを話していました。私はその事に対して興味を持っていませんでしたが、その彼は確かにこう言ったのです。

「……は敗北しました。都市で生活されている市民の皆様におかれましては、決してパニックになることなく、その……」

そこから先は覚えていませんでした。国連軍が地球付近での海戦に敗北したことはニュースで知っていたので、当然のタイミングではありました。しかし、それでも私はその事実を受け止めるのに随分と時間がかかったように思えました。私が看護婦との心休まる時間を過ごしていた間に、数多くの犠牲を出して戦争が終わってしまったのです。とは言え、その後で生活が大きく変わることはありませんでした。何でも、地上は敵の攻撃で大きな被害を受けたらしく、復旧するまで地下で暮らすことになったのです。その後です、看護婦が…ー

そこでどこにあるのかも分からないスピーカーからチャイムが聞こえました。恐らく地域の時報でしょうが、私は思わずといった風に録音装置を押し込んでしまいました。そこで確かに録音終了を知らせる電子音が鳴ったので、音声は途中で切れてしまっているでしょう。そして、確かに私の時計は午後6時を指していました。

「つい話しすぎてしまいました。長いことしゃべりっぱなしで申し訳ない。」

彼は薄暗くなった空と丁度点灯を始めた街灯を映す窓を横目にそう言って、苦笑しました。

「今日は貴重なお話をありがとうございました。後日質問をメールで送りますので、答えてくださると幸いです。」

私は彼にそう言いました。すると彼は私の申し出を快く承諾し、にこやかに笑って

「教官にもよろしく伝えておいてください」

と言いましたので、私は立ち上がって言いました。

「必ずお伝えいたします」

その形式ぶった言い方がツボにはまったのか、彼は喉をならして笑いながら、

「そう気負わなくて良いよ。」

とだけ言いました。私はドアの前でもう一度彼にお辞儀をして、失礼しました。と言って部屋を出ました。そうして帰りもまた彼の奥さんに案内してもらって玄関まで行きました。そして、ふと玄関にある飾り棚を横目で見ますと、そこには薄桃色のナースキャップが飾ってありました。私は一人で納得をして、彼女にお礼を言った後にその家を出ました。そうして私は帰路に着いたのです。


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