ミチルが強力迷子札をつけられちゃった話 後編
行きはよいよい、帰りは……問題にぶち当たったミチル達。
ミモザのドタバタ乱入を経て、とうとうエーデルワイスの心が決まる。
ピンクのコドモや、部下の坊主にミチルを♡♡♡させるくらいなら。
(注意 その場合、カエルラ=プルーマは焦土と化します)
取り出したるは、最終秘密兵器……! え、兵器?
「じいちゃん……この石、って?」
小さなエーデルワイスの小さな手のひらに、一際小さな石が乗る。
水晶のように透明だが、スワロフスキーのように虹色に光って見える、不思議な石だ。
そして、どこか懐かしい。
まるでエーデルワイスの側にいる時と同じような……
「これは、ワタシのアルターエゴだ」
「!」
ミチルはその言葉を思い出す。
確かあれは、初めてテン・イーと対峙した時だった。
法皇の聖石、アルターエゴ。
ペルスピコーズ法皇になるべき宿命を背負った赤子が握って生まれてくる存在証明である。
「でもこれ、テン・イーが持ってたはず……あ、でもテン・イーは消えちゃったから……?」
ミチルは更にあの悪役の最期を思い出していた。
大量の血を吐いて、運命に翻弄されながらも、彼は彼なりに生き抜いた。
たとえ後に何も残らなくとも、その心は誰かの中に生きていると……思ってやってもいいかもね。一ミリほど。
そんな極悪人がペルスピコーズで消滅した時、確かに何も残らなかった。
後生大事に、エーデルワイスとの因縁だけを頼りに生きていたのだから、てっきりソレも一緒に消えたと思っていた。
「うむ。実はな、アーテル皇帝が昏倒してしまった時に介護をした僧正が、その懐から見つけたそうだ」
「えっ、シャントリエリが持ってたの?」
名前を思い出すのもキモチワルイ、あのクソ皇帝。
風の噂では、まだ眠り続けているらしい。
「それをな、こっそり取り上げてワタシに持ってきたのだ」
「おお……ちゃっかりしてるなあ」
テン・イーはいないけれど、皇帝の元にあったらまた悪用されかねない。
もっとももう充分悪用され切った感もあるが。
「やっと戻ってきたのだ、ワタシの分身が」
「良かったねえ、これで一安心だ」
ミチルがほっと胸を撫で下ろすと、エーデルワイスも穏やかな顔で小さく頷いた。
イケメン達とミモザの周りにも、なんだか和やかな空気が流れている。
「だけど、まさかテン・イーが皇帝にソレを渡してるとはな」
エリオットの言葉に、チルクサンダーも同意を示す。
「うむ。あれほど固執していた法皇との縁を他人に渡すとは……」
年長者のジンは少し平等な視点を持って評する。オジサンの気持ちは一番わかるのかもしれない。
「あやつは、とうに覚悟していたのだろう。あの戦いで散ることを。次代の者に託したかったのだろうな」
「……それはつまり、シャントリエリの生命は必ず守るという誓いか?」
ぽんこつのくせに、ジェイはたまに鋭い。ジンは肯定するように頷いた。
「むむむ、敵ながら、あっぱれです、か?」
ルークが難しそうに頭をひねると、アニーが少し引いた目線でまとめた。
「まあ、敵には敵の事情があるって事かな。俺たちには関係ないけどね」
「む、むずい……っ!」
とっくにいなくなったオジサンの気持ちを、今更考えても仕方ない。
ミチルはただその事実を知っていればいいかなと、こんがらがった頭で考えた。
「ともかく、コレを使おうと思う。ワタシのアルターエゴならペルスピコーズとの縁は申し分ない。ミチルに持たせれば目印の役目は充分に果たすだろう」
エーデルワイスの説明に、その場の全員が「なるほど」と感嘆した。
だが、まだ不十分だと言う。
「ポータルとしての役目は出来そうだが、これをどうやってミチルが扱うか……だな」
「オレ、魔法とか使えないんだけど」
このままではただの魔法石。物質に過ぎない。
魔法アイテムはプレイヤーが装備して、手順を踏んで使用するのが常である。
「そうだな……アルターエゴの中にミチルの魔力を込められればいいのだが」
エーデルワイスは簡単に言うが、それはミチルには途方もない事だ。
「だからァ、魔力をこめるってどうやんのよ? てか、オレに魔力があるのかって事よ!」
ミチルのイラついた気持ちを汲みながら、エリオットは難しい顔をしていた。
「そりゃもちろん、ミチルにも魔力はあるぜ。だけどよ、お前はその使い方を全く知らない。一朝一夕には出来ねえよ」
「じゃあ、どうすんのサァ……?」
むむう、と一同はまた思考を巡らせるターンに入ってしまったかと思われた。
ピンクの小僧が、まんまるおめめをぱっちり開けて言うまでは。
「ねえねえ。お兄さまにはオトコの匂いが六種類ずーっとついてるんだけど、アニキング達もお兄さまの匂いがずっとついてるね?」
「……えっ!」
ミチルは思わずドキリと肩を震わせてしまった。
その思考を素早く察して、アニーがぐふふと笑う。
「そりゃあ、俺たちとミチルはぁ……うふ、毎晩、ぐふふふっ!」
瞬時にエーデルワイスの冷凍……どころではない、液体窒素ビームがイケメン達に降り注ぐ!
「あー! 待ってじいちゃん、誤解しないで! ちゃんと毎晩一人だけで……おっふ♡」
やだもう、これ以上は言わせないでよ♡状態である!
「いい! 聞きたくはないっ!」
エーデルワイスは脳裏に浮かぶ妄想を払うのに忙しい。
が、その時。煩悩を振り払うためにあちこちに視線移動したおかげで、エーデルワイスの目にアレが入った。
「それだぁ!!」
人差し指でびっしぃと示したのは、イケメン達のやはり指先。
彼らの左手薬指には、銀の指輪がはめられている。これはミチルがイケメン達に生成した、新たなウィンクルムと言っていい。
指輪には、蒼いラインが刻印のように入り、羽の形が描かれている。
「その蒼い刻印こそ、ミチルが魔力を分け与えた証!」
エーデルワイスはいつになく興奮していた。
ミチルは少したじろいで、首をひねる。
「あー、そうかな、そうかも? あの二匹のヘビさんが、なんかやってたよねえ」
「ミチルの魔力の存在は、カリシムスの指輪が証明しているのだ!」
法皇の言葉に、イケメン達は「ふおお」と小さく叫ぶ。
「ムコ達よ、しばし動くな。そこから僅かずつミチルの魔力をもらい受ける!」
急な展開に、イケメン達は「えええ」とまた叫ぶ。
戸惑っているうちに、エーデルワイスは何かの呪文を唱えてあっという間に六つの指輪から蒼く細い光を吸い上げた。
そしてそれを、アルターエゴへと送る。
「ああっ! 蒼くなってく……!」
ミチルは目を見張って驚嘆した。
エーデルワイスの手の中の透明な宝石は、蒼く染まって輝き出した。
ちょうどブルーダイヤのような美しく蒼い光である。
「ふわあ……キレイ!」
ミチルはその石がますます身近に感じるようになった。
その様子を見て、エーデルワイスは満足げにしている。
「これで良し。誰か! 彫金師とデザイナーを呼べ! 見積書を提出させろ、コンペティションを開く!」
またそれですか、状態である!
ミチルは曽祖父が再び興奮しているのを見て、少し嬉しくなった。
じいちゃんは、なんだかんだ言って。
オレの事を一番に考えてくれるんだあ……♡
翌日。
またしてもコンペを勝ち取ったのは、稀代の新進気鋭デザイナー、緑の国ヴィリディス出身・ミラモリス。
彼は前回でエーデルワイスの好みを熟知していた。それが勝敗を分けたのである。
今回は突貫仕事だったため、徹夜でカンヅメされた挙句、魔法で手の動きを倍速にされたらしい。
注文の品が出来上がった早朝、ミラモリスは一回り小さくなっていたそうな……(合掌)
何はともあれ。
ミチルのために生まれ変わった、エーデルワイスのアルターエゴ。
金細工のフレームに収められ、ストラップにできるように革の紐が付けられた。
「それがお前の身分証・アルターワイスだ」
はっきりとオリジナル造語を口にするエーデルワイスはだいぶドヤ顔。アルターエゴ+エーデルワイスでアルターワイス。だいぶ自己主張が激しい。
ミチルはアルターワイスを受け取って、その感触を確かめる。まるで自分の一部であるかのような安心感だった。
「どう使うの? コレ」
とにもかくにも。
ミチルにとっては初めての自分専用魔法アイテムだ。期待とドキドキが止まらない。
「ペルスピコーズに帰る時、アルターワイスを軽く握って念じなさい。すぐにワタシがここに召喚してやろう」
「ほえっ、それだけ?」
なんか特別な呪文でもあるかと思った。だが、現実はこんなものかもしれない。
ごくごく側に魔法がある、それがカエルラ=プルーマだ。ミチルはそれをやっと実感する。
「アルターワイスはワタシの庇護にある身内の証。ワタシはそれを通していつもお前を見ているぞ」
またしても溺愛オジジのドヤ顔。
ミチルは否応なしにピンときた。
「えっ……」
それって。
なんか、それって。
GPS付き迷子札……ってコト?
「むきゅきゅう……」
ミチルは複雑な気分になった。
ついにこの世界で「身分証」を手に入れた。この世界の「住人」になれた気がしたのに。
実態は、過保護つよつよ迷子札だったなんて。
「ミチル」
イケメン達に名を呼ばれた。
それだけでミチルの心は晴れる。
「みんな……」
そうだよね。
これはやっぱりオレの存在証明。
エーデルワイスのマゴであること。
イケメン達の伴侶であること。
じいちゃんのアルターエゴ。
伴侶達の指輪。
オレに繋がるふたつの魔力。
そこにいつでもオレを見つける事が出来る。
蒼く輝く意思を持って。
オレが在るべき場所。
オレの存在証明。
「よおーっし! 行くよお、みんなァ!」
確かな証を身につけて。
旅立とう、故郷へ。
「凱旋だーーーーーーッ!!」
DIVE into Honey Moon Accident
Continue……!




