第8話 披露宴ではめろ!
ジェイの父親を暗殺したであろうブッドレア大臣。今もジェイを狙う所業を阻止するべく、カエルレウム魔法顧問クローバーが動く。
彼の作戦は、国を挙げてのセレモニーを催すこと。名付けて『プルケリマ・ミチル様とジェイ・アルバトロス君のご成婚歓迎パーティー』だ。
「ごっ……せい、こん!?」
突拍子もない事に、ミチルの目はまんまるクリクリ、くるりんぱ。
ジェイも多分驚いて言葉を失っている。表情筋非発達なのでよくわからないが。
「そうです。君達はすでにペルスピコーズで儀式を終え、新婚生活の真っ最中だと聞いています。なんてめでたい、その二人が晴れて祖国に凱旋したのです、国王陛下から歓迎の祝典があって当たり前でしょ」
「は、はあ……」
急に口数とテンポが早くなっているクローバー。詐欺師の常套手段である。ミチルに余計な事を考えさせずに、意のままに操ろうとしているのだ。
「ちなみにアルバトロス君にはこの度の巨大な功績を讃え、男爵位が贈られます。実家と荘園も復活してますよ、良かったですね」
「えっ、ナニ? どゆこと?」
ミチルが戸惑っていると、同じく呆然としたジェイが簡潔に答える。
「つまり、私に貴族の身分が戻った、という事だ」
「エエー! マジー? ウソー? すっごーい!!」
何という事でしょう。出会った時は麻の服、再会したら上級騎士服。さらに凱旋したら高級絹の服を着ることに。
ジェイの出世、ここに完遂す。ミチルは両手を挙げて大喜び。
ますますイケメン度が上がっちゃうよ。オレ、生きていけるかな!?
「ねえ、すごいでしょ? だからパーティーで囮になってくれますよねえ?」
「んん!?」
クローバーから急に物騒なワードが飛び出した。
ミチルは両手を挙げたまま、今度は目ん玉をひん剥いた。
「ブッドレア大臣の方は私が散々挑発しておきました。この機にきっと君達を狙うと思うんですよお」
「ハアアァ!?」
なんて事してくれたんだ、バッカじゃないのお!?
ミチルがそう叫ぶ前に、ジェイがその前に躍り出る。
「魔法顧問様、どうかお許しください。ミチルを危険な目には合わせられない!」
「ジェイいぃ……♡」
身を挺して守ってくれる。まさにナイトとオヒメサマ。
きゅんきゅん嬉しがるミチルを他所に、クローバーの意地悪な視線がジェイを貫いた。
「あれれ、いいんですかあ? これはネモフィラ将軍のご意向ですよお? まさか恩人の命令に背くなんて、騎士の君には出来ませんよねえ?」
「む……っ!」
イタイ所を突く。なんて性悪なんだ。
クローバーは胡散臭くて怪しい魔法使いだと思ったが違った。
陰険性悪・魔法顧問なんだ!!
「ほらほら、将軍に忠誠を誓いますよねえ?」
「む、むむ……ッ!」
仕事と家庭(?)、どっちを取るの。ジェイには究極の選択が突きつけられた。
ミチルは固唾を飲んで棒立ち。なんか、そんな王道な「ヨメのワガママ」論でジェイを苦しめたくなんかないのに。
「ジェ……」
そんなの答えなくていいよ、とミチルが言いかけた時。
ジェイは澄んだ瞳できっぱりと言い放つ。
「私の全てはミチルです!」
「……ぺっ?」
意表を突かれたのはミチルだけではない。
クローバーも、将軍も、それから存在を忘れていたラベンダーも。目を丸くしてジェイに注目する。
「確かに過去の私があるのは将軍のお力ゆえ。だが、今の私が在るのはミチルがいるから。ミチルが私の全て、ミチルを危険な目に合わせて失うくらいなら、どうぞ私の首をお刎ねくださいっ!」
怖いー!
言ってる事が怖すぎるー!
いくら性悪顧問でも、そこまで言ってないじゃん!
ミチルは大袈裟なジェイの言葉に全力で突っ込みたかった。
だけど、「ミチルが私の全て」が嬉しすぎて、なんかもうどうでも良くなる。
パン……パン……パンパンパンパン……ッ
ゆっくりと、それからリズミカルに拍手が鳴り響いた。
もちろんこれはネモフィラ将軍である。どうも彼は心動くと拍手をする癖があるようだ。
「素晴らしい! 感動した! よくぞ申した、それでこそカエルレウムの英雄であるッ!!」
「ははっ、ありがたき幸せ……!」
ジェイは条件反射で将軍の前に跪いた。
クローバーはなんだか白けた顔をして、ラベンダーはうっかりウルウルしている。
「顧問殿、作戦は練り直しだ」
「ええー? 僕がどんだけあの大臣と酒宴をしたと思ってるんですう?」
将軍の言葉に、クローバーはわかりやすくぶうたれた。
一人立ち尽くすミチル。
ジェイはオレにここまでしてくれた。
それならオレもジェイの気持ちに応えなきゃ。ジェイのためにならなくちゃ。
「そ、そそ、その必要はありませえぇん!」
声が震える。だって囮なんてやっぱり怖い。
だけど。
「ごせーこんパーティー、やってやろうじゃないのォオ!」
「ミチル!?」
ジェイがビックリしてる。ごめんね、ジェイの決意をひっくり返すような事言って。
「囮なんてヨユー!」
そうさ、怖くなんかない。
「だってジェイが守ってくれるもん!!」
オレは、オレのイケメンを信じてる。
「ミチル……」
ジェイを、信じてる。
「 エ ラ イ ッッ !! 」
執務室に怒号のような将軍の叫びが響く。拍手喝采はラベンダーと合わせてダブル。
「いやー、良かった良かった。これで私の痛風も報われます」
クローバーを合わせてトリプル喝采。ミチル讃頌の拍手、鳴り止まず。
「へへ、へへへ……」
ミチルは照れながらジェイの手を握った。
「ミチル。私は……」
ジェイはまだ少し不安気に瞳を揺らす。
「ジェイ、頑張ろうね」
だから笑いかける。オレはジェイと一緒に戦うよ。
だってそのために、オレはここに来たんだから。
「わかった。ミチルを全身全霊で守り抜く」
決意に輝くジェイの顔。
イケてるどころではなかった。
なんかもう、美しすぎた。




