30. 存在証明
反逆罪に問われたジュベール公爵家はまもなく解体された。それに伴い大規模な領地再編成が行われて、我がオランジュ侯爵家も領地がだいぶ増えた。陛下たちは領地再編成の中で、私が成人後、一代限りの魔術伯爵の爵位とスクレの領地を得られるように、調整してくれた。
一方で家族たちは、リュカの求婚を保留にし、王に爵位をねだったことに怒り心頭だった。シャルル兄様を除いて。
「だから第二王子だけはやめとけ、俺の直感がそう言っている!」
一瞬この人にも巻き戻し前の記憶があるのかもしれないと思ったけれど、だったらもう少し賢く生きるだろうと、その考えを改めた。
それから私の学園生活も一変した。まず魔力検査で不正を働いたのは前代未聞だと言われて、反省文を書かされた。もちろん厳重な監視下で検査はやり直し、私は一番上のクラスに編入させられた。初め私の編入に懐疑的だったクラスメイトも、魔法実技で暗黒龍を召喚、服従させたのを見て何も言わなくなった。ルブタン教授も驚きのあまり腰を抜かし、「君に教えることは何もない」と、実技を免除してくれた。
そういえば私の馬車襲撃事件は、リュカの命を受けた憲兵らの執念深い捜査が実り、ある侯爵令嬢が逮捕された。彼女は一時リュカの婚約者候補になっていた令嬢だ。盗賊の一人が持っていた小切手が捜査の手がかりになった。彼女の自白によれば、彼女はオレリアにも嫌がらせをしていたらしい。
在学中、リュカはことあるごとに求婚してきた。彼は王位を継ぐのは兄だから、自分は自由にできると言った。私が望むなら、一緒にスクレに住み、闇魔法の研究もサポートすると。それでも私はなかなか踏ん切りがつかなかった。ただなりふり構わないリュカの牽制が効いたのか、他の令息は誰も私に声をかけてこなかった。
求婚の返事は保留のまま、学園卒業後はスクレ魔術伯爵、レナ・スクレとしてスクレに戻った。
***
「シャルル兄様!また来られたんですか?騎士団はそんなに暇なんですか?」
「お前が寂しいだろうと思って遊びに来てやっているのに、その言いぐさはないだろう。俺の愛馬・ジルなら王都から一日でスクレに辿りつく。」
「もう!」
シャルル兄様は、学園卒業後、近衛騎士になった。でも、こうしてちょくちょくスクレまで遊びに来る。もちろん未婚だ。嫡男として堅実に地盤を固めているエルネスト兄様とは対照的に私とシャルル兄様はやりたい放題。母は「教育を間違えたわ~。」と周りにこぼしているらしい。
「お、お嬢様!いえ、伯爵様!」
管理人が慌てた様子でやってきた。
「今度はどうしたの?」
「リュカ殿下からの早馬で、今日の午後、お見えになると。」
「はあ?!そんな話聞いていないわよ。」
「はあ?!俺が一発がつんと言ってやる!」
「我々が準備しますので、お二人方とも落ち着いて下さい。」
今日は何の用だろう?リュカは最近、スクレの私と王立研究所の魔術師たちの橋渡し的な役割を担ってくれている。できれば、スクレに籠っていたい私としてはとても助かっている。リュカは予告通り、午後にやってきた。早速応接室にお通しする。なぜか当然のように兄も同席した。
「レナ、それにシャルル・オランジュ卿、ごきげんよう。これ、パティスリー・カドーのチョコレート。」
「まあ!殿下、ありがとうございます!今、侍女に紅茶を淹れさせます。」
私がうれしそうに包み開けると、訝しむように兄が覗き込んだ。
「なんだそれ?うまいのか?俺がまず毒見してやる。」
「シャルル兄様!殿下の贈り物に毒なんて入っている訳はないでしょ!これ、王都で一番おいしいと言われているチョコレートですよ。」
「ふふふ。やっぱり君たち兄妹は仲がいいね。」
「殿下、違います。兄が勝手に来るんで困っているんです。近衛騎士のシフトはどうなっているんですか?」
「お前を心配して来てやってんだろ!優しい兄様に感謝しろ。」
リュカがクスクスと笑う。
「本当に面白いね。そうだ、今日の本題。僕の兄上の結婚式の招待状を預かってきた。」
「アレクサンドル殿下の結婚式!」
「そう。カトリーヌ嬢の卒業を待って、結婚式を挙げることになったんだ。」
アレクサンドル殿下は彼の治療に当たった聖女・カトリーヌと恋に落ちた。呪いが解けた直後、アレクサンドル殿下は自分の身に起きた悲劇を理解し、だいぶ気落ちしていた。そんな彼を支えたのはカトリーヌの明るさと温かさだった。彼女の献身で、王子として政治に復帰し、今では精力的に政務に取り組んでいるという。
だが王族と聖職者の結婚は前代未聞。しかも彼女は子爵令嬢、聖魔力以外特別な魔力があるわけではない。カトリーヌは学園生活と並行して、必死に妃教育を受け、やっと王家に認められたそうだ。
「まあ、おめでとうございます。自分のことのようにうれしいです。」
「この結婚式は兄上の王太子就任式も兼ねている。だから当日僕が一人で出る訳にはいかないだろう?パートナーをお願いできないだろうか?レナ。」
「えっ、そんな大きな行事、私は……。それに殿下のパートナーになりたい令嬢なんていくらでもいらっしゃいますよ。」
これまでも卒業パーティーや王宮の舞踏会では、なんだかんだリュカに先回りされて、パートナーを務めることが多かった。ただ、いくら大切な友人の結婚式とはいえ、王太子の就任式なんて国家の一大イベント、参加するのも億劫だ。思わず貴族の笑みが崩れ、眉間にしわがよる。
「実はカトリーヌ嬢は友人代表として君にスピーチしてもらいたいと言っている。」
リュカが笑顔で告げる。
「――それは逃がさないぞということですね。」
いよいよ厳しい。ひきつった笑みを浮かべていると、隣に座っていたシャルル兄様が口を挟んできた。
「あ?妹のパートナーは俺が務めるぞ。」
「近衛騎士は総出で宮殿内の警備に当たってもらうから、それは難しい。レナ、君だって年頃の令嬢だ。社交の場に一人で出るのは嫌だろう?」
「そうやってまた外堀を埋めていくんですね。」
「君のことはいつまででも待つし、待てるけど、待っている間に何もしないとは言ってないからね。」
「それはそうですね。」
そう言って、リュカは私の右手を愛おしそうに握り、キスを落とした。
「今回の僕は絶対に間違えない。レナを全力で落としに行くから、覚悟しておいて。」
リュカの青い瞳が、まっすぐ私を見つめる。とてもきれい。窓越しに差し込んだ新緑の木漏れ日を受けてキラキラと輝いている。思わず胸の鼓動が速くなる。
「おい!俺の目の前で何やってんだ、てめえ!いくら王族でも許さねーぞ。」
ぎゃあぎゃあ騒ぐシャルル兄様は本当にうるさい。
「シャルル兄様、不敬ですよ!殿下、パートナーの件、お受けします。でも、私はそんなに簡単に絆されませんからね?」
私はニコリと貴族らしい笑みを浮かべ、彼の手を握った。信じた人に裏切られるのはやっぱり怖い。それでも、私はまた人を信じ、人と生きていきたい。これが私の存在証明――レゾンデートルだから。
ここまで『悪役令嬢ですが、呪ってません!~断罪回避のため闇魔法を隠していたら、王子に正体がバレました~』読んで頂きありがとうございました!!
もしかすると番外編など執筆するかもしれませんが、こちらで一旦、完結とさせて頂きます。
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