21. 直談判
帰りはカトリーヌに見送られながら、神殿の裏口に停められた迎えの馬車に乗り込んだ。馬車の中で神殿のローブを脱いで、コートに着替える。
「今日は、君を家まで送らせてもらう。オレリア嬢に解呪の話をしたから、遅かれ早かれジュベール公爵の耳にも入るだろう。君が狙われることはないと思うが、気を付けるように。」
「ええ、いざとなったら幻影で追い払いますわ。」
「ふふ。頼もしいな。」
王家の馬車が侯爵家のタウンハウスに着くと、なぜかシャルル兄様が迎え出た。
「殿下、不敬を覚悟で申し上げます。妹は病弱で長く領地に籠っておりました。もし婚約者の候補として考えているのであれば、明らかに不適格です。」
「兄様、いきなり何をおっしゃっているんですか!?覚悟も何も、思いっきり不敬ですよ。」
「ははは、毒蛾令嬢の次は、直談判か。安心してくれ、僕は命を賭しても、魔王を倒すつもりだ。だから魔王を倒すまで、婚約者を決めるつもりはない。もちろん君の妹さんは友人の一人だ。」
「友人なら、問題ありません。行くぞ、レナ。」
「行くぞじゃないわよ、バカ兄様!殿下に謝りなさい。ああ殿下、申し訳ありません。ごきげんよう~。」
シャルル兄様に右腕を引かれながら、私は左手でリュカに手を振った。
***
「兄様、剣術の朝練はいいんですか?」
「――冬は休みだ。」
仏頂面のシャルル兄様が答える。なんだかんだ言いつつ、朝一緒に馬車通学する日が続いている。シャルル兄様の前で呪術の本を読む訳にいかない。時間を無駄にしている気がして、イライラする。
「でも、もうすぐ剣術の試験ですよね?お友達と自主練とかなさらないんですか?」
「うるせぇ。俺は天才だから、必要ねえ。」
「……そうですか。」
剣術はまだマシと母が話していたが、天才とは初耳だ……。いつも通り馬車が校門の前に着く。
「シャルル!今日も妹と登校か。そんなに王家に嫁がせるのが心配なら、俺がもらってやるぞ。」
兄の友達らしき、茶髪の男子学生が寄ってきた。かなり制服を気崩している。
「ダメだ!!お前には婚約者がいるだろ!」
「冗談だよ冗談。怒るなって。君、レナちゃんだっけ?コイツなりに君のことが心配なんだよ。不器用だけど。大目に見てやって。」
類は友を呼ぶとはこのことか。バカはバカを呼ぶ。私はこくりとお辞儀をして自分の教室に向かう。一限は歴史。現王朝の建国当初の話――広く知られている魔王伝説について講師が説明している。
私はふと窓の外、校庭に目を移した。あのバジリスクの石像は冬期休暇中に校庭から撤去された。剣術の実習だろうか。銀髪の青年が華麗に剣を振るい、相手を打ち負かした。
「……シャルル兄様だ。あ、勝った。」
いつもちゃらんぽらんな兄が、少しだけカッコよく見えた。




