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この世界はなんかおかしい  作者: 16時間
戦士 ドレイク
63/78

タルタロス

「……?」

「……」


かすかに、声が聞こえる。

冷たいコンクリートの感触。

無機質な照明の光。


そして――

鉄の匂い。

血の匂いが、微かに混じっている。

エディルは、ゆっくりと目を開けた。


「……っ」

身体を動かそうとする。


だが。

両手。両足。

完全に拘束されている。

床に、転がされていた。


「……ちっ」

顔をしかめる。


その時。

「あ、やっと起きた」

横から、声。

「兄ちゃん、大丈夫か?」


視線を向ける。

そこには。

スキンヘッド。

腕には大きな刺青。

人相の悪い男。


だが、その目は――

どこか、諦めていた。

男は、両手だけ拘束されている。


「……ここは?」

エディルが、低く問う。


男は、軽く鼻で笑う。

「見りゃ分かんだろ」


一拍。

「ドレイクの収容所だよ」

「――タルタロス」


その名前が、落ちる。

周囲の空気が、わずかに重くなる。




(おっかねえ名前だな)

エディルは、内心で呟く。

刺青の男は、床に座ったまま、気の抜けた調子で続ける。


「それにしてもよ」

「兄ちゃん、見た感じ若そうなのに」

「なんでこんなとこ来たんだ?」

まるで世間話でもするように


「……外で、職員殴った」

ぶっきらぼうに答える。


「はは」

短く、笑う男。


「あーあ」

「そりゃあ……重罪だな」

どこか他人事のように。

そして続ける。


「この部屋な」


一拍。

「特別なんだよ」


視線だけが、ゆっくりとエディルへ向く。

「――即死刑待ちの部屋」


さらりと。

まるで、天気の話でもするように。

言い放つ。


「……は?」

思考が、一瞬止まる。

血の気が、引く。


「まあ、俺はよ」

刺青の男は、肩をすくめる。

「外で麻薬も殺しも強盗も、なんでもやってきたからな」

「別に、もうどうでもいいんだけどよ」

軽い口調。


「ほら」

顎で、部屋の隅を示す。

「ずーっと正座してる奴、いるだろ?」


エディルの視線が、そちらへ向く。

部屋の隅。

男が一人。

微動だにせず、座っている。


「アイツさ」

「誤認逮捕らしいぜ」

「でも、証拠隠滅のために殺されるんだってよ」

「ひでえ話だよな」


乾いた笑い。

まるで。

誰のことでもないように。


(……)

その言葉が、ゆっくりと沈んでいく。


(……俺で、即死刑待ちなら)

思考が、切り替わる。

(ユキノは――)


視線を、巡らせる。

この部屋には。

自分と、刺青の男と。

あの、隅の男。

三人だけ。


ユキノの姿は、ない。

(……どこだ)

胸の奥が、ざわつく。


(アイツは……お尋ね者だ)

嫌な想像が、浮かぶ。

(もしかして――)

喉が、ひくりと鳴る。

(もう――)

考えたくない。


だが。

止められない。

エディルの中で。

静かに、絶望が広がっていく。




その時。

部屋の外から、音がした。

――ガチャ。

一つではない。

幾重にも重なった、鍵の音。

順番に、外されていく。

重い、音。


そして。

――バンッ!!

乱暴に、扉が開かれる。

ガタイの良い職員が、五人。

無言のまま、部屋に入ってくる。

一直線に、エディルの前へ。


「……エディル、だな」

低い声。

「ドレイク様の命だ」

「お前を――別室に移す」


有無を言わせない口調。

次の瞬間。

身体が、持ち上げられる。


「っ……!」

抵抗する間もなく、担がれる。

そのまま、部屋の外へ。


連れて行かれる道中。

視界の端に、いくつもの部屋が映る。

鉄格子。

その中には。

男女も、年齢も関係なく。

人が、詰め込まれている。

誰も、騒がない。


ただ。

諦めきった目で、こちらを見ている。


(……なんだよ、ここ)

声には出さない。

だが。

(……地獄かよ)

胸の奥で、吐き捨てる。




「ここだ」

足が、止まる。

目の前。

巨大な鉄の扉。


一人が、手をかざす。

魔力が、流れる。

――ゴォン……

解除音が響く。

そして、

――ギイィ…

重く、ゆっくりと。

扉が、開く。


まるで。

地獄の口が、開いたかのように。


中は、暗い。

光は、ほとんどない。

だが。

広い。

奥行きが、見えない。


そして。

床には。

乾いた血が、こびりついている。


「入れろ」

そのまま。

エディルは、床へ放り出される。


「ぐっ……」

痛みが走る。

――ギイィ…。

扉が、閉まる。

再び、闇。


(ふざけんな……)

(ほんとに、地獄かよ)


歯を食いしばる。

だが。

その思考の奥に。


(……ユキノ)

別の感情が、浮かぶ。

(どうか……無事でいてくれ)


祈るように。

時間が、過ぎる。

どれくらいかは、分からない。

気づけば。

エディルは、浅い眠りに落ちていた。


――ギィ……

扉が、開く音。

薄く、光が差し込む。

照明が、点く。


だが。

エディルは、まだ気づかない。


「おい」



低い声。

次の瞬間。

「起きろ」

髪を、乱暴に掴まれる。


「……っ!」

強制的に、意識が引き戻される。


視界が、揺れる。

そして。

目の前に立っていたのは――



圧倒的な体躯。

無駄のない筋肉。

燃えるような赤髪。


空気が、変わる。

ただ、そこに立っているだけで。

圧が、違う。


「……」

エディルは、息を呑む。



その男は。

ドレイクだった。

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