何してんだ、お前ら
扉の先。
そこに広がっていたのは――
地下とは思えない、異様に華やかな空間だった。
壁も床も、鮮やかな赤やピンクで彩られている。
甘ったるい香りが、鼻をつく。
「……うわ、気持ち悪」
エディルが思わず吐き捨てた。
その視線の先。
床には、若い男たちが数人――無造作に座らされていた。
裸のまま。
目は虚ろで、焦点が合っていない。
誰一人、声を発しない。
ただ、そこに“置かれている”だけのようだった。
(……なに、これ)
ユキノの喉が、わずかに鳴る。
「……お前ら、何してんだ。恥ずかしくねえのか、そんな格好で」
エディルがぶっきらぼうに問いかける。
だが――反応はない。
誰一人、視線すら向けない。
ただ、無言で座り続けている。
(……なんだ、こいつら)
さすがのエディルも、わずかに息を呑んだ。
さらに奥。
天蓋付きのベッド。
そこには、一人の男が縛られ、口には猿ぐつわを付けられたまま横たわっていた。
目は、はっきりと開かれている。
――助けを求めていた。
声にならない声で、必死に。
「……なんなの、この人たち……」
ユキノが呟く。
エディルは無言のまま、ベッドの男へと歩み寄る。
手を伸ばす。
その瞬間――
鋭い音とともに、何かが巻き付いた。
「っ――!」
鞭。
エディルの腕に絡みつき、その動きを封じる。
そのまま力任せに引き戻され、入口付近まで叩き戻された。
「――どなたかしら?」
静かな声が、室内に響く。
振り返る。
そこに立っていたのは――
白のローブを纏った、一人の女。
白く整った肌。
腰まで伸びたピンクの髪は三つ編みに結われ、柔らかく揺れている。
その顔には、穏やかな微笑み。
勇者一行の一人――アイリーン。
「新入りさんが来たって聞いたから、急いで戻ってきたんだけど」
ゆっくりと歩み寄りながら、柔らかい声で続ける。
「まさか、“秘密の部屋”にいるなんて思いませんでした」
エディルの背後に回る。
そして――
そのまま、後ろから抱き寄せた。
「こんにちは、新入りさん」
耳元で囁く。
「愛について……私と語り合いましょうね」
優しい声。
だがその瞳は、獲物を値踏みするように細められていた。
「……おい」
エディルが顔をしかめる。
「俺は、こんな趣味ねえからな」
軽口を叩く。
だがその声は、わずかに鈍っていた。
――完全に、異質な空間に呑まれている。
異質な空間に、エディルとユキノは圧倒されていた。
その中で――
ふと、アイリーンが口を開く。
「そうだ……ごめんなさいね」
柔らかい声。
だが、その内容はあまりにも軽かった。
「女性は、ちょっと厳禁なの」
にこりと微笑む。
「だから――出ていくか、死んでくれない?」
次の瞬間。
躊躇なく放たれた魔法弾が、ユキノへと一直線に飛ぶ。
「っ――!」
ユキノは反射的に手をかざす。
氷の壁が瞬時に形成され、攻撃を受け止めた。
鋭い音とともに、魔力が弾ける。
「……氷?」
アイリーンの瞳が、わずかに細められる。
その時。
不意に――
ユキノの顔を覆っていた布が、ほどけて落ちた。
露わになる素顔。
それを見たアイリーンは、一瞬だけ目を見開く。
「あれ……?」
すぐに、くすりと笑う。
「もしかして……お尋ね者のユキノさん?」
その声音は、どこまでも穏やかだった。
「ごめんなさいね、急に攻撃して。びっくりしたよね?」
まるで、本当に申し訳なさそうに。
だが、その直後――
「殺そうとして、ごめんなさい」
あっさりと、そう続ける。
そして。
ゆっくりと首を傾げた。
「……代わりに」
視線が、ユキノをなぞる。
「あなたも一緒に、愛について語り合いましょうね」
にこり、と微笑む。
「――可愛い人は大好きよ」




