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天才魔法オタクが追放されて辺境領主になったら、こうなりました  作者: 優木凛々
第6章 村人輸送と転移陣のその先

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05.アリス、街の方向性について考える

 

 カスレ村からの住人移住が決まった、数日後。

 窓から入る風が涼しくなってきた、夏の終わりの夕暮れ。


 古城では、久しぶりに会議が開かれた。


 会議室に集まったのは、8名。

 アリス、テオドール、ビクトリアたち4人といった、いつもの6人に加え、

 今日は、リットとフィンロイもいる。


 柔らかいランプの光の下、ビクトリアが笑顔で口を開いた。



「それでは、はじめましょう」



 まず、アリスが移住手段である野菜箱・改について意気揚々と報告した。



「整備はとても順調です。飛ばせば3時間くらいでカスレ村に到着できそうです」



 全員が「おお!」とどよめいた。

「すごいな、3時間か」

「すごいスピードだものね、あれ」

 と言った声が出る。


 ビクトリアは引きつった笑みを浮かべた。



「あの……それは、安全なのかしら」



 フィンロイが自信満々にうなずいた。




「はい、安全です。そのへんの魔獣はまず追いつけません」

「そ、そう……」



 ビクトリアが、思わずといった風に目を泳がせた。

「安全のためにスピードを控える話が、なぜこんなことに……」

 と小さくつぶやくが、

 その声は他の「すごいな!」「やったわね!」といった声にかき消される。



 *



 その後、気を取り直したビクトリアにより、会議が進められた。

 議題は、『開拓について』。


 リットが、2枚の地図をテーブルの上に置いた。


 1枚が、アリスが地下遺跡で見つけた“1000年前にこの場所にあった古代都市の地図”

 もう1枚が、 “リット自身が作った今の周辺地図”だ。


 彼女は、自身が作った地図の一部を指差した。



「家を建てる予定の場所ですが、ようやく木の伐採が終わりました。ただ……」



 リットが暗い顔をした。



「……思った以上に遺跡が残っていまして……あれをどけるのは相当大変だと思います」



 リットの話を聞きながら、アリスは開拓地の様子を思い出した。

 確かに、あちこちに石の壁や家の基礎らしきものが点在していた。



(”森をどかしたら、街の跡地が出てきました”って感じだよね)



 リットによると、森が石の建物を風化から守っていたらしく、

 1000年前くらいの遺構にも関わらず、かなりの部分残っているらしい。


 建築士であるフィンロイが難しい顔をしながら腕を組んだ。



「石も立派な資源ですから、再利用したいところではありますが、あまりにも数が多過ぎます」

「石をどけるにはどのくらいかかると思いますか?」



 ビクトリアが尋ねると、オーウェンが考え込んだ。



「身体強化が使える者が総出で手伝うにしても、半年は見た方がいい」

「石をどけた後に建て始めて……となると、1年くらいかかるかもしれないわね」



 ビクトリアが悩ましそうに言う。

 18人も移住してくるので、なるべく早く家を建てたいと思っているらしい。


 その後、遺跡をどうするかについて議論がされた。

 フレッドから石を砕いてどければ早いという案も出るが、フィンロイにもったいないと反対される。

 決定打が出ないまま、議論がどんどん煮詰まっていく。



(ふうむ、なるほどねえ……)



 アリスは、机に頬杖をついて考え込んだ。

 確かにあの石を全部どかすのはとても大変そうだ。



(しかも、ここは1000年前の大都市なんだから、開拓すればするほど出てくるよね、石)



 たぶん、キリがないというやつだ。



(それに、もったいないよねえ……)



 探査魔法を使った際に地中に感じた魔法の気配や、謎の黒いミスリル球。

 古城に残る大結界魔法に、龍脈から魔力をくみ上げる仕組み。

 昔そこが街だったことを考えれば、何か大きな魔法的な仕組みが働いていたと思うのが自然だ。


 すごい魔法都市だったのかもしれないのに、

 それをなくしてしまうのは、古代魔法研究の観点から見て、実にもったいない。



(うーむ……)



 頬をぶにゅっとしながら、彼女は考えを巡らせ始めた。


 そんなアリスを、テオドールが黙って見つめる。


 人々が話し合う会議室で、アリスは1人物思いに沈んだ。

 ふと机の上に視線を向けると、“1000年前の古代地図”が目に入った。

 地図には街の区画などが描かれている。


 それをボンヤリとながめて、アリスは思った。

 そもそも、下手にいじる必要はないのだろうか。


 彼女はゆっくりと口を開いた。



「この石って、そもそもどける必要、あるのかな?」

「……え?」



 全員が目をぱちくりさせた。

 何を言い出したんだ? という顔をする。


 アリスがリットに尋ねた。



「前に、“ここにあった古代の街は、王都の見本になっている可能性がある”って言ってたよね」

「はい、言いましたし、区画なんか見てもたぶんそうだと思います」

「だったら、このまま使ったらいいんじゃないのかな? 街の基礎みたいなやつ」



 アリスは思った。

 街の基礎をそのまま再利用すれば、古代の魔法都市を大きく壊さずに済む。

 石をどけなくても良くなれば、街を作る時間もずっと短縮されるはずだ。



「…………なるほど」



 リットがつぶやいた。



「その発想はなかったですけど……場合によってはアリかもしれないですね……」



 フィンロイが難しい顔をした。



「古い遺構の上に家を建てるのは、建築学の基礎に反しますね。基礎の強度も怪しいものがありますし。……ただ」



 彼は考え込んだ。



「……理論的には既存の構造をベースに設計を組み直せる可能性はあると思います」



 みんなの考え込む顔をながめながら、アリスが続けた。



「それと、街の形をそのまま再利用すると、昔の魔法的な仕組みが再利用できる可能性があると思うんです」



 街をそのままの形で復活できれば、魔法の仕組みも復活できるかもしれない。



「たぶん、今の時代では見たことも聞いたこともない先進的な仕組みだと思うんです。これが復活できれば、超すごいことになるかもしれません」



 リットが興奮したように言った。



「いいですね! 古代都市の復活! ロマンがありますね!」

「古代都市の復活!」



(や、やりたい!)



 目をキラキラさせるアリスを見て、全員が苦笑する。



 その後、8人は熱心に話し合った。

 フィンロイが考えながら口を開いた。



「まずは基礎の強度を調べてみましょう」

「そうですね、私の方でも遺構の配置を調べ直してみます」



 リットも同意する。


 アリスの胸は高鳴った。



(なんかものすごくやる気出てきた!)



 これは楽しみ過ぎる! と心の中で小躍りをする。

 会議が終わり、スキップしながら部屋に戻って、テオドールに笑われる。




 ――そして、この日の夜。


 アリスは夢を見た。

 見覚えのない街を、誰かと一緒に歩いている夢だ。


 等間隔に設置されたランプが夜の街を昼のように照らし、人々がガヤガヤと楽しそうに往来している。

 道には屋台がたくさん並んでおり、活気に満ち溢れている。


 威勢の良い客引きの声に釣られ、アリスは大喜びで走り回った。

 転びそうになると、誰かが笑いながら優しく抱き上げてくれた。

 ぐんと視界が高くなり、ふわりと懐かしいお香のような匂いがする。



(誰だろう……?)



 そう思ってその人の顔を見ようとした瞬間、アリスの視界に薄暗い天井が映った。

 一瞬何が起こったか分からなくなるが、どうやら夢を見ていたらしいと思い当る。



「そっか、夢か……」



 アリスはベッドで寝返りを打った。

 とても懐かしい感じの楽しい夢だったな、と思いながら再び眠りに落ちる。



 ――そして、翌朝。

 目を覚ましたアリスは、夢を見たことすら、すっかり忘れていた。






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