04.限界走行
そして、いよいよ野菜箱・改の番になった。
スタートラインに機体を置き、前方にアリス、中央にフィンロイ、後方にテオドールが乗り込む。
アリスがリットを見た、
「とりあえず、何周かしてみるんで、1周ごとにタイム測ってもらっていいですか」
「はい、分かりました!」
アリスが真剣な顔で魔力を込めた。
ふわりと機体を浮く。
騎士たちが囁き合った。
「どのくらいなんだろうな」
「フレッドと同じくらい出たらすごいな」
といった声が聞こえてくる。
リットが時計を見ながら言った。
「では、よーい、スタート!」
【起動・そよ風:魔法陣】!
合図と同時に、アリスが風魔法を発動した。
後ろからヒュウと風が吹き、野菜箱が滑るように走り始める。
前方からの風に目を細めながら、アリスが振り返った。
「2人とも、どうですか?」
「大丈夫です。まだ余裕があります」
「そうだね、まだそれほど速くは感じないね」
テオドールとフィンロイが答える。
そのままの速度を維持して進むと、リットたちが見えてきた。
リットが手を振りながら何か叫んでいる横を通過する。
フィンロイが時計を見た。
「だいたい2分だね。フレッド君より少し遅いくらいか」
なるほど、とアリスは思った。
このスピードでは「打倒フレッド」が達成できないらしい。
「もう少しスピード上げてもいいですか?」
「そうだね、そうしよう」
フィンロイが賛成し、テオドールも「大丈夫です」とうなずく。
アリスは別の魔法陣を取り出すと、魔力を込めた。
【起動・風:魔法陣】!
ぐん、と速度が上がり、野菜箱・改はぐっと速度を上げた。
景色の流れる速度が一気に上がり、フィンロイが「これはなかなか……」とつぶやく。
その後、野菜箱はリットたちの横を通過した。
フィンロイが再び時計を見る。
「1分半。これでフレッド君と同じだ」
アリスは考え込んだ。
まだ余裕がある、まだいける。
彼女は振り向いた。
「もうちょっとだけスピード出してもいい?」
「もちろんです!」
「……そうだね、性能テストだしやってみよう」
即答するテオドールの後に、やや間を置いてフィンロイが同意する。
(よし、行くか)
アリスは念のため持ってきていたゴーグルをかけた。
別の魔法陣を取り出すと、魔力を込めた。
【起動・突風:魔法陣】!
ぶわっと風が吹いた。
ぐんっと野菜箱・改が一気に速度を上げた。
横を流れる景色が線のようになる。
「……っ!」
フィンロイが声にならない叫びをあげた。
テオドールがぐっと踏ん張る力を込めて制御を強める。
アリスは目を細めて前方を凝視した。
リットが見えたと思ったら、シュンッ、とあっという間に遠ざかる。
(これ、結構スピード出てるっぽい!)
その後、アリスたちはコースを周回し始めた。
シュンッ! シュンッ!
リットたちの前を目にもとまらぬ速さで通過する。
やがてテオドールが声を上げた。
「そろそろ止めましょう!」
「わかった!」
アリスは魔法陣を制御してゆっくりと逆噴射を始めた。
速度がじりじりと落ちていく。
そして、ある程度まで速度が落ちると、
テオドールが地面に飛び降りた。
ぐっと踏ん張って野菜箱を止める。
アリスはゴーグルを外すと、ふう、と息を吐いた。
(楽しかった!)
スピードが出すと何だかとてもスッキリする。
(でも、もっと行けそうな気もする)
アリスが一息ついていると、リットたちが駆け寄ってきた。
驚愕の表情で叫ぶ。
「アリスさん! 1分を切りましたよ! 時速70km以上です!」
「オオカミより早い?」
「余裕です!」
アリスはにんまり笑った。
これで安全性はばっちりだ。
彼女は満面の笑みを浮かべて振り返った。
「やりましたね! フィンロイさん!」
そしてフィンロイを見て、大きく目を見開いた。
「フィンロイさん!」
そこには白目をむいて気絶したフィンロイが座っていた。
完全に意識が飛んでいる。
「おい、しっかりしろ」
ガンツが大声を上げて揺さぶり、その場は大騒ぎとなった。
実験はここまでということになり、急いでフィンロイを古城まで運ぶ。
*
その後、幸いなことにフィンロイはすぐに気が付いた。
「いやあ、楽しすぎてつい気絶してしまいました!」
とよく分からないことを言っていたものの、
実験は成功ということで、本番機の製作が行われることとなった。
運転席と後部座席を除き、座席を4つ設けた6人乗りで、
フィンロイの強い主張により、風よけが取り付けられた。
出来上がった本番機を見て、リットとテオドール、騎士たちが、ホッとした顔をした。
「サイズが大きくなったお陰で、棺桶には見えなくなりましたね」
「ああ、本当に良かったな!」
などと囁き合う。
その後、本番機はテストを兼ねて騎士4人を乗せて旧街道を走った。
見通しが悪い場所や通れない場所の木や枝を切ったりしながら、森の出口までの整備を進める。
野菜箱に乗りながら、エマが感心したように言った。
「この乗り物のお陰で、森が一気に小さくなったように感じるわ」
その言葉を聞いてアリスは感心した。
確かにその通りだ。
*
そして、開発を始めて約1か月後。
アリスたちはカスレ村に向かい、ロッテが村人たちを説得。
翌週から、移住希望者18人が、順番に古城に移住してくることになった。




