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天才魔法オタクが追放されて辺境領主になったら、こうなりました  作者: 優木凛々
第5章 カスレ村へ

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挿話:楽しい魔法2(2/2)

 

 リットから本を借りたその日の夜。

 アリスは静まり返った部屋で、ランプの灯りの下、本を読んでいた。



「うーん、結構難しいな……」



 リットのお勧めだからと真面目に読んでいるのだが、

 突然、花のつぼみがどうこうとか、女性を月のようだと言うなど、意味がよく分からない。


 ぶつぶつ言いながらページをめくっていると、



 コンコンコン



 ノックの音がして、テオドールが入ってきた。

 難しい顔をして本を読むアリスを見て、首をかしげる。



「どうしたんですか?」



 アリスはふと思いつき、手招きした。



「ちょっと来て」



 2人で窓辺に立ち、窓を開けると、夜空には星が瞬いていた。

 アリスが星を指さす。



「 “星がきれいだね”」

「……? ええ、そうですね」


 テオドールが戸惑いながら答えると、

 アリスが「そうだよね」とうなずく。


 本によると「星がきれいだね」は「好きだ」という意味らしいが、

 普通そうは思わない。


 納得したような顔をするアリスを見て、テオドールは不思議そうな顔をした。



「一体どうしたんですか?」

「実は、こんな本を読んでて」



 アリスが本を差し出すと、テオドールはページをめくった。

 思わずと言った風に吹き出す。



「『白薔薇の君、月下にて』って、これ有名な恋愛小説じゃないですか」

「知っているの?」

「はい、演劇を見たことがあります」



 要人警護の任務ため、よく劇場に行っていたらしく、

 その際に何度も見たことがあるらしい。



「なぜこの本を?」

「花火のことを知りたいって言ったら、リットが貸してくれた」



 事情を話すと、テオドールが苦笑した。



「確かに花火の場面はありましたけど、読んで分かるものなのですか?」

「……うん、なんとなく。たぶん火魔法が打ち上がって、空でパーンって花みたいに広がる感じだよね」

「そうですね。空いっぱいに広がります」

「結構高く上がるの?」

「ええ。数キロ先からでも見えるくらいの大きさと高さです」



 なるほど、とアリスがうなずいた。



「森の中の古城から見るには、ちょっと工夫が必要そうだね」

「ええ、少し小さくて低い方が良いかもしれません」



 アリスは思わず苦笑いした。

 こんな難しい本を読むより、テオドールに聞いた方が早かったかもしれない。


 彼女はテオドールを見上げた。



「ミルフィの誕生日までに何とかしたいんだけど、手伝ってくれる?」

「ええ、もちろんです」



 テオドールが嬉しそうに微笑む。



 ――そして、それからの数日間、

 古城の夜空に、「不気味な閃光」や「中途半端な爆発音」が響いた。


 その度に「な、なんだ!?」と騒ぎになり、

 テオドールが「魔法の実験ですので問題ありません」と人々をなだめて回ることになる。




 *




 そして、その翌週の夕方。

 ミルフィと、もう1人男の子の誕生日会が開催された。


 古城の前庭には大きなテーブルと椅子が置かれ、

 テーブルの上には、腕を振るったご馳走やお酒が並べられている。


 ビクトリアが笑顔で口を開いた。



「それでは、ミルフィちゃんとハンス君の誕生日を祝って、乾杯!」

「乾杯!」



 大人たちが笑顔で乾杯をした。

 ミルフィも嬉しそうに好物を頬張る。


 オレンジ色のランプが灯った夜の庭に、楽しそうな笑い声が響き渡る。


 しばらくすると、デザートの大きなケーキが運ばれてきた。

 1年健康に過ごせるようにと作られる、生クリームとベリーのケーキだ。



「わあ!」



 目を輝かせるミルフィに、ビクトリアが笑顔で言った。



「それでは、今年の幸運を願って、ハンス君とミルフィちゃんにケーキを一口ずつ食べてもらいましょう」



 ハンスが銀のスプーンでケーキを取ると、少し恥ずかしそうに食べた。

 次にミルフィがスプーンでケーキをたっぷりと取ると、ぱくりと食べる。


 そして、みんなが拍手をした、その瞬間――。



 ヒュウウゥゥン……!



 空気を切り裂くような、鋭く高い音が夜の静寂を貫いた。



「な、なんだ!?」



 誰かが声を上げ、全員が反射的に音のした城壁の方を振り仰ぐ。

 次の瞬間。



 ――ドォォンッ!



 城壁の少し上で、3メートルほどの大きさの光の花が鮮やかに弾けた。



「え……花火?」



 呆然と誰かが呟く。

 それを合図にするかのように、今度は赤、青、金と、色とりどりの光が次々に夜空へ打ち上がった。



「すごーい! すごーい!!」



 ミルフィはケーキを頬張ったまま、夢中でぴょんぴょんと跳ねた。

 他の子供たちも、口を半開きにして空を見上げている。



 *



 城壁の上。

 観客たちの様子を見ていたテオドールが、魔法陣に魔力を注ぎ続けるアリスを振り返った。



「アリスさん、大成功です! 皆さんすごく喜んでいます!」

「本当!?」



 アリスは叫び返しながら、さらに魔力を込めた。

 ヒュン、と鋭い音を立てて魔法の球が夜空へ吸い込まれ、一際大きく弾ける。


 下から拍手と歓声が湧き上がる。


 アリスは、暗がりの中で思いきりドヤ顔を決めた。

 自分の研究成果がこうもストレートに喜ばれるというのは、なかなかに気分がいい。



 そして、花火を撃ち終えて城壁を降りると、ミルフィが駆け寄ってきた。

 アリスの膝に飛びつく。



「アリスお姉ちゃん、ありがとう! すっごく、すっごく綺麗だった!」

「……うん。喜んでもらえたなら、計算した甲斐があったよ」



 アリスは頭を掻いた。

 ここまで素直に褒められると、とても照れる。


 そこへ、リットが興奮した様子でやってきた。



「アリスさん、完璧でした! 本、役に立ちました?」

「うん、ありがとう!」



 アリスが「あれ、有名な恋愛小説なんだってね」と言うと、リットが目を丸くした。



「ご存じだったんですか?」

「ううん、テオドールに教えてもらった。劇を見たことがあるんだって」

「……っ!」



 アリスの言葉に、リットがピシリと固まった。

 横に立っていたテオドールを、穴が開くほど凝視する。



「あ、あの……リットさん? どうしましたか?」



 戸惑うテオドールに、リットが信じられないという風に口を開いた。



「……あの話、劇になっているのですか?」

「え、ええ。かなり有名な演劇シリーズです」

「原作が、今……何巻まで出ているか、ご存じですか?」



 テオドールが考え込んだ。



「詳しくは分かりませんが……少なくとも、20巻くらいまで続いていたはずです」

「……テオドールさんは、その内容をご存じですか?」

「ええ、まあ、演劇になっているところくらいですが」

「……っ!」



 リットが絶句した。

 目を見開いたままテオドールの腕をむんずと掴んだ。



「テオドールさん、ちょっと話を聞かせてもらってもいいですか?」

「え……?」

「ぜひとも私たちが知らない話の続きを聞きたいと思いまして!」



 リットのただならぬ迫力に、テオドールが引き気味に、こくこくとうなずく。


 その後、アリスはテーブルに座った。

 みんなに「花火すごく良かった!」などと褒められながら、良い気分で甘いケーキを堪能する。



(こういうお祝いパーティって結構楽しんだね)



 のんびりとしたアリスの横のテーブルでは、引きつった顔のテオドールがリットをはじめとする女性陣にがっちりと囲い込まれていた。

 口々に質問をされている。




 ――そして、惜しまれつつもパーティが終了。


 アリスはミルフィと、



「アリスおねえちゃん、ありがとう!」

「うん、こちらこそありがとう」



 という会話を交わすと、半分魂が抜けかかったような顔のテオドールと一緒に、自室へと戻って行った。





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