01.アリス、カスレ村移住者輸送作戦を開始する
アリスが、ビクトリアから
“カスレ村からの移住者輸送方法の考案”を依頼された、2日後。
夏らしい青空が広がるお昼過ぎ。
古城内の会議室に、5人の人物が集まっていた。
この会議の主催者である、魔法研究者のアリス。
経験豊かな鍛冶師のオヤジ、ガンツ。
木工職人であり建築士でもある、眼鏡の中年男性フィンロイ。
地図や地形のスペシャリスト、リット。
そして、身体強化が使える騎士テオドール。
ガンツ、フィンロイ、リットの3人が、
どこかワクワクした表情を浮かべている。
そんな中、アリスが珍しく真面目な顔で口を開いた。
「それでは、これから“移住者輸送作戦”を始めます」
*
2日前に、ビクトリアから
「それで……できれば安全性の高い方法がいいと思っているの。ほら、小さい子が多いから、迫力がない方がいいわね」
「できれば秋まで、目立たない方法で」
といった依頼を受け、アリスは色々と考えた。
ビクトリアが条件として出した
・安全性が高い
・目立たない
・秋まで終わらせる
という3つの条件に合う輸送方法と言えば……
(やっぱり転移魔法だよね!)
ワクワクしながら実現に向けて考えてみる。
しかし。
(うーん、ちょっと時間かかるかも……)
まだ分析しきれていないし、
作れたとしても、人を転移させて問題がないか、検証もしなければならない。
秋までに間に合わない可能性もある。
(……となると、やっぱり例の野菜箱か)
例の野菜箱とは、浮遊の魔法で野菜箱を浮かせて移動する方法だ。
カスレ村からロッテを無事に(?)運んできた実績がある。
(実績がある分、アレを使うのが一番確実で早いよね)
渋々転移魔法を諦めて、野菜箱を使うことにする。
しかし、現在の“飛ぶ野菜箱”は、
浮かぶミスリル鞄に野菜箱を縛りつけただけのものだ。
積載量が少ないので、移住には使えない。
(つまり、アレを移住向けに改造しないとダメってことだよね)
――という訳で、“例の野菜箱”を改造するべく、古城内の有識者を集めた、という次第だ。
*
アリスの会議開始を宣言した後、
フィンロイが、興奮が隠し切れないように、眼鏡がくいっと上げた。
「いやいや、話を聞いた時は、胸が高鳴りましたよ。空飛ぶ乗り物なんて、生きているうちに見れるとは夢にも思いませんでしたからね!」
「おうよ! 人間ってのは長く生きてりゃいいことがあるもんだな!」
「ホントです! 世紀の大発明に自分が関われるなんて!」
ガンツとリットが笑顔で同意する。
どうやら、みんなものすごくやる気らしい。
(こういう時って、いい物できるんだよね!)
アリスはワクワクしながらコホンと咳払いをすると、計画の説明を始めた。
「カスレ村からの移住者は、若者や家族連れを中心に、15人から30人くらいだそうです」
ガンツが、なるほどと腕を組んだ。
「てことは、少なくとも4,5人は運べるようにする必要があるんだな」
「はい」
アリスはうなずいた。
「それと、ビクトリアさんからは『安全性を重視して欲しい』と言われています」
「確かに、乗り物は安全じゃないとダメよね」
リットが、納得したようにうなずく。
――その後、まずは実物を見た方が良いということで、5人は裏庭の倉庫へ向かった。
アリスが雑然とした倉庫の中に入ると、隅に野菜箱が置いてあるのが目に入った。
箱の下には大きめの革鞄がくくりつけられている。
(こうやって改めて見ると、ちょっと不思議な外見だね)
そう思いながら、アリスが「これです」と指を差すと、
リットが首をかしげた。
「これ……本当に浮くんですか?」
(確かに、見ただけじゃ飛ぶなんて信じられないか)
「じゃあ、実際乗って飛んでみましょう」
アリスの言葉に、3人がバッと振り向いた。
目を輝かせて口を開く。
「それはいい! 賛成だ!」
「さっそく試そう!」
どうやら3人とも乗りたくてウズウズしていたらしい。
テオドールが、身体強化を使って野菜箱をひょいと持ち上げると、
5人は城壁の外にある空き地へ向かった。
テオドールが、誰もいない空き地の真ん中にズシンと降ろす。
「じゃあ、最初に誰が乗りますか?」
アリスの言葉に、3人が熱心に話し合い始めた。
じゃんけんにより、まずはフィンロイが乗ることになる。
「いやはや、楽しみだね」
フィンロイがワクワクした様子で野菜箱の中央に座った。
続いて、前方にアリス、後方にテオドールが立ち乗りをする。
この光景を見て、リットが微妙な顔をした。
「……こうして見ると、不思議な光景ですね」
「まあ、冷静に考えたら、大の大人が3人箱に乗ってる訳だからな」
ガンツが、ガハハとおかしそうに笑う。
「じゃあ、いきますよ」
アリスは、床のミスリルに手を置いて魔力を流した。
箱の底のカバンがぼうっと光り、野菜箱がふわりと浮かび上がる。
「……っ!」
フィンロイ、ガンツ、リットが大きく目を見張った。
野菜箱は1メートルくらいのところまで浮くと、ふよふよと停止する。
「す、すごい!」
リットが思わずと言った風に叫んだ。
フィンロイは感動で目を潤ませている。
ガンツが驚愕しながらも、箱の下を覗き込んだ。
「飛んでいる……とは、少し違いそうだな」
「魔力でできた柔らかい地面がある感じですね」
「これって、これ以上高くは飛ばないんですか?」
ワクワクしたようなリットに問われ、アリスは考え込んだ。
「できなくはないけど、バランスが難しいんだよね。このくらいの高さがちょうどいい感じ」
その後、実際に進んでみようという話になり、
アリスがポケットから紙を取り出した。
静かにつぶやく。
【起動・そよ風:魔法陣】
紙が輝きを帯び、背後から風が吹いてきた。
同時に、まるで氷の上を滑るように、野菜箱がすうっと前に進み始める。
「おお!!」
フィンロイが喜びの声を上げた。
リットとガンツが目を輝かせながら追い掛けてくる。
アリスは密かにドヤ顔をした。
ここまで素直に驚かれると、なんだかすごいことをしている気持ちになる。




