挿話:アリス、 開拓の要になる(1/2)
外に探索に行ったその翌日。
アリスは地面から掘り起こした丸い金属球を持って、ガンツのところへ出かけた。
あれこれいじってみたものの、どうにも正体が分からない。
金属の専門家であるガンツに意見を聞こうと思ったのだ。
「ガンツさん、金属に詳しいしね」
期待に胸を膨らませながら鍛冶小屋へ向かうと、そこには先客がいた。
木工職人であり建築士でもある、穏やかな雰囲気の眼鏡の中年男性――フィンロイだ。
2人は何やら深刻そうな顔をして話し合っている。
アリスに気づき、ガンツが手を挙げた。
「おう、どうした?」
「ちょっと見てもらいたいものがありまして」
「もうすぐ終わるから、そこに座って待っていてくれ」
アリスはおとなしく椅子に座った。
2人はしばらく深刻そうに話し合い、
フィンロイが、アリスに穏やかに軽く手を振って、去っていく。
その後ろ姿を見送りながら、アリスは尋ねた。
「何かあったんですか?」
「ああ」
ガンツは少し困ったように頭をぽりぽりとかいた。
「開拓が始まるってことで、いろいろ話し合ってはいるんだがな。炭と薪が圧倒的に足りないって話になってな」
「炭と薪?」
ガンツによると、開拓は何かと物入りらしい。
「斧やらスコップやら、色々と道具が必要だから、躍起になって作らなきゃいけねえんだが、そうなると炭が足りないんだ」
鉄を精製するのにも炭がいるし、鉄を加工するにも炭がいる。
「薪も同じだな。家が増えりゃ、使う量も増える」
アリスは首をかしげた。
「炭も薪も木ですよね? 外は森だし、木はたくさんあるんじゃないですか」
ガンツが笑った。
「まあ、そうなんだがな。木ってのは、すぐには使えねえんだ」
ガンツによると、木は乾燥させないと煙が出過ぎて使えないらしい。
「焚き火をするときも、乾いた木を使うだろう?」
「確かに」
アリスは、ここへ来る途中でテオドールと何度か焚き火をしたことを思い出した。
乾いていない木を使ったときは、確かに煙が多かった。
ガンツによれば、木を薪や炭にするためには、半年から1年ほど乾かす必要があるという。
「そんなに時間がかかるんですか」
「ああ。木ってのは乾きにくいんだ」
その話を聞きながら、アリスは思った。
昔、濡れた服をすぐに乾かせるよう、乾燥の魔法を開発したことがある。
あれが使えないだろうか、と。
「ガンツさん、魔法で乾燥させることはできませんか」
「乾燥?」
「はい。魔法で乾燥させられないかなと思いまして」
「魔法で乾燥……」
ガンツはぽかんとした顔をした。
どうやら、魔法で乾燥させるという発想自体がなかったらしい。
「そうなんですか」
「ああ。第一、魔法ってのは貴重なもんだからな。そもそも使えるやつ自体が少ねえ。俺は仕事柄、よく会ってはいたが、普通の知り合いにはいねえぞ」
魔法が使える人間、つまり魔力を持つ者は100人に1人程度。
そのうち魔法を発動できる者は1000人に1人、攻撃魔法を使える者は5000人に1人とも言われている。
アリスは目をぱちくりさせた。
「そんなに少ないんですか」
「……知らなかったのか」
ガンツは苦笑いする。
その後、2人は鍛冶小屋の裏にある大きな倉庫へ向かった。
倉庫の奥には、たくさんの木が並べられている。
「この木、何だろうと思っていましたけど、乾かしていたんですね」
「そうだ。裏にも物置があるだろう。あそこの奥も木でいっぱいだ」
なるほど、とアリスは考え込む。
こうやって木を乾燥させていたのか。
「家具を作るときも乾かすんですか」
「ああ。家具なんかもっと大変だ。しっかり乾かさないと、反って使い物にならなくなる」
木の中の水分というのは、なかなか厄介らしい。
アリスは木々の中から、やや小さめの丸太を選んだ。
ずっしりと重いそれを床に置くと、リュックサックから魔法紙と魔法インク、羽ペンを取り出し、魔法陣を書き始める。
アリスは魔法陣を書き終えると、紙を床に置いた。
その隣に丸太を置くと、魔法陣に触れながら魔力を込める。
【起動・熱風:魔法陣】
魔法陣が光を放った。
光りの渦が丸太を包み、しばらくして消える。
アリスは丸太を持ち上げた。
ちょっと軽くなった気がする。
アリスは、ポカンとしているガンツに丸太を差し出した。
「これでどうですか?」
ガンツは我に返ると、丸太を受け取った。
乾いてひび割れた皮の部分を見て、「こいつは驚いた」とつぶやく。
「魔法ってのはすごいもんだな、こんなこともできるとはな」
しかし、試しに斧で割ってみると、中はまだ生木のままだった。
「中、まだ濡れてますね」
「ああ、木ってのは、この中が乾くのが遅いんだ」
ガンツによると、表面が乾いても、中までしっかり乾くのに時間がかかるらしい。
「なるほど……」
アリスは木の中の濡れている部分を見ながら考え込んだ。
これを乾かすとなると、また別の理論構築が必要そうだ。
考え込むアリスに、ガンツが尋ねた。
「そういえば、どうしてここに来たんだ?」
「あ、そうでした」
アリスはポケットから金属球を取り出した。
ガンツに渡すと、彼は軽く目を見開いた。
「おいおい、こりゃミスリルじゃねえか!」
「ええ、そうなんです。地面を掘ったら埋まっていて」
ガンツが苦笑した。
「……お前さん、すごいもんをシレっと見つけてくるな」
くるくると球を回しながら考え込む。
「……悪いが、ちょっと預かってもいいか? じっくり見てみたい」
「はい、お願いします。あと、この丸太借りてもいいですか?」
「おう、かまわないぞ」
そんな会話を交わしながら、2人は物置を出ていく。
――そして、その日の夜。
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興味のある方はどうぞご覧ください。
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