05.おそらく1000年前
本日2話目です。
アリスが声を潜めた。
「実は、ちょっと見てもらいたいものがあって」
「見てもらいたいもの?」
「地図です」
リットが目を軽く見開いた。
「……なんの地図ですか?」
「それが、よく分からなくて。一度見て欲しいんですけど、来てもらえませんか」
「ええ、もちろんです」
リットは興味深そうにうなずく。
*
その後、アリスとテオドールは、リットを連れて部屋に戻った。
テオドールがランプに火を点けると、テーブルの上に置いた。
「リットさん、どうぞ座ってください」
「ありがとうございます」
リットが緊張したように座ると、周囲を見回した。
「お2人はここで一緒に住んでいるんですか?」
「はい」
テオドールがうなずくと、リットが申し訳なさそうな顔をした。
「すみません、愛の巣にお邪魔してしまって」
「……っ」
テオドールが喉を詰まらせたようにゲホゲホと咳込んだ。
「だ、大丈夫ですか!?」とリットが慌てたように立ち上がる。
その間に、アリスはクローゼットの奥をゴソゴソと探した。
地図を取り出して広げると、まじまじと見る。
(うーん、やっぱり分からん……)
記号のようなものがビッシリ書き込まれており、辛うじて地図だと推測できるレベルだ。
(リットさん、分かるかな?)
アリスは地図を、リットの目の前にあるテーブルの上に前に広げた。
「これです」
「……っ!」
リットが、大きく目を見開いて固まった。
瞬きを忘れたかのように地図を凝視する。
そして、信じられないといった表情で、アリスを見た。
「これ、古代地図じゃないですか!」
「古代地図……?」
リットによると、この地図はガイゼン王国の建国よりも前――1000年ほど前に作られたものらしい。
「紙質とか雰囲気が同じなので間違いありません。もしかすると、もっと古いかもしれません」
アリスは思わず目をテオドールと顔を見合わせた。
古そうだとは思っていたが、まさかそんなに前のものとは思わなかった。
テオドールがリットに、「これが分かるんですか?」と尋ねると、
リットが残念そうに首を横に振った。
「いえ……残念ながら」
リットによると、王都にある建国前に作られたという地図には、諸説ある状態らしい。
「何かを示す地図だと言う人もいれば、芸術品だという人もいるんです。今は博物館に美術品として飾ってある感じですね」
なるほど、とアリスは腕を組んだ。
どうやら地図に見える芸術品の可能性もあるらしい。
(1000年前か……)
そして、彼女はふと思い出した。
そういえば、広範囲結界魔法を開発する時に調べた魔法書の1冊が、1000年くらい前のものだったな、と。
謎の記号だらけで読めない箇所があり、解析魔法を使ってようやく読めた記憶がある。
(……あの魔法、使ってみたらどうだろう)
アリスは、2人の顔を見た。
「ちょっと試してみたいことがあるんだけど、いいかな」
「ええ、いいですよ」
「もちろんです」
アリスは魔法紙と魔法インクを持ってくると、魔法陣を描き始めた。
魔法陣を地図の上に置くと、魔力を流し始めた。
【起動・解析:魔法陣】
魔法陣が光を帯びた。
その下にある地図がぼんやりと光り始める。
魔法陣を介して地図に魔力を流して、アリスは首をかしげた。
(なんかこの地図、魔力の通りが悪いかも)
魔力の強弱を調整しながら、少しづつ魔力の通りが悪い所を調整していく。
集中して光る魔法陣に向かうアリスを、テオドールとリットが固唾を飲んで見守る。
そして、次の瞬間――
ぐにゃり
地図がゆっくりと変化をし始めた。
描かれている記号が歪み、新しい形に変化していく。
「……っ!!!!」
リットが声にならない声を上げた。
テオドールも呆気にとられたように変化していく地図を見つめる。
アリスは集中して魔力の通りを調整した。
全て修復し終わり、最後に1回魔力を流して終了する。
そして、光が消え。
アリスが地図を取り上げた。
(うん、分かりやすくなった気がする!)
リットが信じられないといった目でアリスを見た。
「……何したんですか?」
「古代魔法書の中に、稀にこういう風にしないと読めないのがあるんです」
やったね! と思いながら、アリスがややドヤ顔で地図を渡した。
リットが「そんなシレっと……」とつぶやきながら、地図を受け取る。
そして、地図を机の上に置くと、持っていたノートを高速でめくりながら見比べ始めた。
パラパラとページをめくる音が部屋に響く。
しばらくして、彼女は興奮したように顔を上げた。
「これは間違いなくこの周辺の地図です。これがこの古城で、こっちが教会跡、そしてこっちが今日見た湖です」
アリスはリットの指の先を見つめた。
小さな四角い箱と、湖らしき図形がある。
どうやら、この街は相当大きかったらしい。
リットが腕を組んで考え込んだ。
「この街って、もしかしたら、ガイゼン王国の王都の手本だったかもしれません」
街並みなどが、王都とよく似ているらしい。
「となると、たぶんこれが王宮ですね」
リットが指さしたのは、地図中央にある大きな四角だった。
大きな湖の畔にある。
テオドールが口を開いた。
「これって、今日見た白い遺跡ですよね?」
「はい、かなりの大きさでしたし、たぶん王宮で間違いないかと」
この会話を聞きながら、アリスの脳裏に地下の壁画が浮かんだ。
湖を望む大きな建物が描かれていたことを思い出す。
彼女は思わず胸を押さえた。
懐かしいような、切ないような、不思議な気持ちが湧いてくる。
(もしかして、あの壁画、この王宮だったのかもしれない)
そんなことを考えているアリスの横で、リットが首をかしげた。
「これ、何でしょうね」
リットが指を差したのは、王宮と思しき場所に記載されている、黒い星印だった。
全体を見ると、これだけがやけに目立つように大きく太く描かれており、
横にはすでに消えて読めない走り書きのようなものもある。
アリスが首をかしげた。
「なんだろう、何かあるのかな?」
「ガイゼン王国の王城の場合、ここにあるのは塔ですね」
「もしかすると、大きな塔があったという可能性もありますね」
あれこれ言い合って見るものの結局分からず、とりあえず今は置いておくことにする。
その後、3人は話し合いをした。
リットが、
「この地図があれば、今後の地図作りがぐっと楽になります!」
と主張したことから、地図を公開することが決まる。
そして、その翌日から、
アリスたちが持ち帰った古代地図をベースに、地図作りがスタート。
開拓が大きく前進することになった。




