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天才魔法オタクが追放されて辺境領主になったら、こうなりました ※第1部完  作者: 優木凛々
第2章 謎の古城

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07.アリス、テオドールを強制的に休ませる




 男性2人が、金属の大きな箱を持って入ってきた。



「ガンツ、石もらいに来たぞ」



 そう言うと、炉のふちに並べてあった大きな石を箱に入れると、重そうに運んでいく。



「あれなんですか?」

「裏門の風呂に使うんだ」



 狩に行った人々は、裏門で体や服を洗ってから中に入ることが決まりらしい。






 そして、再び作業に没頭すること、しばし――――。


 

 外から、わあっという歓声のような声が聞こえてきた。

 アリスが顔を上げると、ガンツが立ち上がった。



「帰って来たみたいだな」



 ガンツと一緒に外に出ると、若い男性が5名ほど庭に入ってきたのが目に入った。

 皆こざっぱりとした服を着ており、髪の毛が濡れている。



「お帰りなさい!」

「今日は獲物が多かったみたいだな!」



 中庭にいた人々が嬉しそうに声を掛ける。


 アリスは、その中にテオドールがいるのを見つけた。

 皆の中心におり、楽しそうに話をしている。

 周囲の雰囲気も良く、可愛がられていそうな感じだ。



(さすがはテオドール、すっかり馴染んでる)



 感心して見ていると、隣のガンツが口を開いた。



「あの真ん中の金髪の兄ちゃんが、あんたの連れかい?」

「はい」

「なかなかいい男じゃねえか。しかもありゃ、相当な手練れだな」



 どうやらガンツくらいの鍛冶職人になると、見るだけで強さが大体分かるらしい。


 アリスはため息をついた。



「確かにおかしいくらい強いんですけど、あの人、休まないんですよ」

「休まない?」

「絶対に疲れてると思うんですけど、なんか働きたがるっていうか」

「まあ、騎士にありがちのパターンだな、己の体力を過信して、ある日突然バタンといくやつだ」



(やっぱりそうだよね)



 アリスは納得しながら、うなずいた。

 これは早急に対策を取らねば。



「ガンツさん、なんか休ませる方法ないですかね」

「休ませる方法か……」



 ガンツが思案する。

 そして、ポンと手を叩いた。



「いい方法があるぞ!」

「おお! なんですか?」

「これをやれば一発! ってやつだ」



 アリスがガンツとこそこそ会話していると、テオドールがふとこちらを見た。

 アリスと目が合った瞬間、パッと顔が輝く。


 彼は仲間たちに挨拶をすると、早足で彼女のところにやってきた。

 嬉しそうな顔をする。



「アリスさん、ただいまです」

「おかえり、テオドール。こちら鍛冶師のガンツさん」

「おう、ガンツだ。よろしくな!」

「はじめまして、テオドールです」



 2人が握手を交わす。


 テオドールがアリスに微笑んだ。



「今日はアリスさんの好きなオレンジを見つけましたよ」

「そうなの?」

「はい、夕食後に出してくれるそうです」

「本当!? ありがとう!」



 アリスは目を輝かせた。

 そんな彼女を、テオドールが嬉しそうに見る。


 横に立っていたガンツが、ニヤニヤと笑った。

「おいおい、青春じゃねえか」とつぶやきながら、生暖かい目でテオドールを見る。



 その後、アリスは片づけをして、ガンツに別れを告げた。

 夕方の気配が漂う庭を、テオドールと並んで歩き始める。



「狩はどうだった?」

「上手くいきました。いつもよりも獲物が多かったそうです。――ただ、気になることもありました」



 テオドールの話では、みんなガイゼン王国の騎士団が使う合図を、普通に使っていたらしい。



「それって、みんな騎士だったってこと?」

「誰か1人が騎士で、その人が教えたという可能性もあります。でも、連携や戦い方を見る限り、複数人が元騎士と考えた方が自然かな、と」



 なるほど。とアリスが考え込んだ。

 元騎士であれば、魔剣を持っていても不思議はない。

 しかし、そうなると彼らは貴族ということになる。



(ここの人たちって、本当に何なんだろう?)





 ――その後、2人は食堂に向かった。

 並んで食事をもらい、屋上に持って行って夕方の空をながめながら、料理とオレンジに舌鼓を打つ。


 そして、薄暗い部屋に戻ると、アリスがランプをつけた。

 今日は疲れたなあと伸びをする。


 テオドールがカーテンを閉めると、アリスを振り返った。



「アリスさんは先に寝てください。俺はちょっと出かけてきます」

「どこにいくの?」

「もうひと仕事しようかと思って」



 なんでも、これから皮をなめす作業があるらしい。

 来なくても大丈夫だと言われたが、行こうと思っているという。



「さすがに休んだ方がいいんじゃない?」

「大丈夫です。疲れていませんから」



 明るく言うテオドールに、アリスはジト目になった。

 疲れてないハズがないじゃないか、と思う。



(やはり、ガンツさんに教えてもらったアレしかない)



 アリスはニコニコしながら口を開いた。



「テオドール、行く前にちょっと協力してくれない?」

「いいですけど、なんですか?」

「ガンツさんに、いいこと教えてもらったんだ」



 アリスは、不思議そうなテオドールをベッドに寝かせた。

 自分はベッドの縁に座ると、彼の手を取る。

 そして、大きな手だなあ。と思いながら膝に乗せると、両手で彼の手のひらをさすり始めた。



「……え?」



 テオドールが固まった。



「こ、これは一体……?」

「ガンツさん直伝の、スペシャルハンドマッサージ。これをやるとリラックスするらしいけど、どう?」

「……リラックスというか、緊張します」



 テオドールが横を向いてボソボソと答える。

 アリスは、ふむ。と考え込んだ。



「じゃあ、第2段階に移行しよう」

「えっ、第2段階……?」



 テオドールが不安そうな声を出す。


 アリスは袖を捲ると、彼の固い手をギュッギュッと揉み始めた。

 テオドールが「うっ」と声をあげる。



「こ、これは効きますね」

「どう? この盛り上がってるところとか効くらしいけど」

「……効きます、めちゃくちゃ気持ちがいいです」

「この指の間のあたりとか」

「うっ、そこも効きます」



 テオドールの反応が楽しくて、アリスはせっせと彼の手を揉みほぐした。

 ガンツから教わった技を駆使し、指先まで抜かりなくモミモミする。


 そして、一段落して顔を上げると、そこには幸せそうに寝息を立てるテオドールがいた。

 ほっぺたを軽くつついてみるが、全く起きない。



(よし、成功!)



 アリスはそっと立ち上がると、自分も寝る準備を始めた。

 水魔法を使って出した水で軽く手足や体を洗い、さっぱりとする。


 そして、ふっと吹いてランプを消すと、

 部屋の仕切り越しに聞こえて来る寝息を聞きながら、気持ちよく眠りに落ちていった。








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