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狩りから戻るとさっきの貴族が豪華なテントを立てて居座っていました。
変だなと思い大きな小屋へ入るとナジブが剣を打つための準備を始めていました。
「あんな奴の剣を作るのか?」
ナジブは私をチラリと見てすぐにまた作業を続けます。
「金は必要だからな。普通はこれくらいのランクの剣しか作れない事が多い。貴族は金払いがいいからたまに引き受けるんだ。それにこれくらいのランクといってもそこらの剣とは比べもんにならん出来にはなる。エアハルトの剣を打つための準備運動にはなるさ」
と言って最後に黒く笑いました。
確かに金は大事ということですね。
奴等の剣の完成は七日ほどかかるそうで、その間はここにいるわけです。
態度はデカイわ、私達を見下してくるわで鬱陶しいですがどうやらそこそこの貴族のらしく国の情報には明るいようでネーポムクがそれとなく話を聞き出していました。
「儂は引退した身で王都を離れて久しくての。今はどんな状況ですか?」
普段と違いヨボヨボ度をあげて貴族に尋ねると偉そうになんでも話し始めました。
「知らぬのも仕方が無いが、いま王都では優秀な剣士と魔法師を募っておる。数週間前にアスカム山脈に魔王が現れてな。人々を脅かしているのだ」
…………えぇ!!!魔王が出た!?
信じられない言葉に思わず気が遠くなりました。
「はぁ?魔王とな、何かの冗談ですか?」
ネーポムクもその話が飲み込めず首を傾げています。
イヤイヤイヤ、ワタシココニイマスケド??
「冗談ではなくこれまで相当腕が立つと言われているA級冒険者が強力な魔物にやられている。最初は通りがかりの商人共が襲われ、次の討伐にむかったB級冒険者がやられて魔王が復活したと噂が広がった。今では国を上げて討伐隊が組まれ、このナジブの剣が完成すれば私も討伐隊へ参加するつもりだ」
話を聞く限りただのウワサでは無い様です。
強い魔物が現れ魔王と呼ばれている……
これだけ聞いていれば魔王が毎度取る作戦とよく似ています。まさか私抜きで右手と両足が事を進めているのでしょうか?いやいくら何でもお知らせくらいあるでしょう。
私だって魔王なんですから。
アスカム山脈を通る通称アスカム街道は辺境と王都を繋ぐ最短ルートのです。別ルートからも王都へ向かえますがかなり迂回しなければならず、殆どの場合はアスカム街道を通ります。
前回魔王として人類と戦っていたときもアスカム街道はありましたが、山道はうねり切り立った崖が戦いの場には適せずそれほど重要視してこなかった場所だったので私の記憶にも詳しくは残っていません。
しかしそこに今、魔王が現れ人類を脅かしている。
え、誰?誰なん?
話を聞いたときから頭の中には疑問が一杯ですが確かめる為には現場に行くしか無いでしょう。
「ネーポムク、ちょっと留守にしていいか?」
夕食後、二人で話すために小屋から離れた場所へ彼を呼び出しました。
「ふんっ、まさか魔王とやらのことを確かめに行くのでは無いだろうな?」
「バレたか」
以前ネーポムクとは魔王を倒す倒さないで話をしたことがあったので察しているようです。
「まさか本当に魔王がいると思っているのか?恐らくただ強い魔物が現れ動揺して正確な情報が上がってこないだけだと思うぞ」
そうそう、いつも人類は最初そう思って油断しているんです。魔王が復活するには数十年、数百年の時間が必要ですから。
「本物だったらどうするんだよ?」
「ありえんが、新しく覚えた魔法を試すにはもってこいだの」
ま、確かにネーポムクもパウラもぎゅんぎゅん腕が上がってますけど、右手には敵いませんよ。今の時点では。
「本物かどうか確認したら戻ってくるさ」
そう言うと背後から声がかかりました。
「本物かどうかが重要ではなくお前が無事に戻って来れるかどうかが重要なんだよ」
いや気づいてましたけどね。
エアハルトとパウラが木陰から姿を現しました。
「二人で何コソコソしてるのよ?」
「それはこっちのセリフだよ。お前達こそ最近夜になったら二人でコソコソ抜け出してるよな」
私が指摘すると二人は視線をそらしました。
「お、俺達のことはいい。それより今アスカム山脈へ行くって言ってたろ。しかも一人で」
「まぁ、な」
魔王が本物かどうか確かめるだけですし、一人の方が速く行けます。身体強化と移動速度を速める魔法、確か人類では"瞬足"とかいう詠唱の魔法を使えば十日程かかる道のりも三日に短縮出来ます。だから一人が良いのですが……
「私達も行くわよ」
言われると思ってましたよ。この二人は何かと私に構いがちですから。
「エアハルトの剣はどうするんだよ?剣のための魔石も探さなきゃいけないだろ?」
「話は聞かせてもらった!!」
勿論気づいてましたよ。流石に刀鍛冶が気配を消すなんて技術は無いですからね。
「魔石ならここにある」
それ絶対に貴族が持ってきたやつですよね。
差し出された火の魔石と氷の魔石は金にものをいわせたのかかなり大きな魔石です。ですけど中身はB級の魔力ですね。
「貴族の魔石を無断で使うのか?」
ネーポムクも察したようで眉間にシワを寄せます。貴族を敵に回すのは良くないそうです。
「いや、これはどう見てもB級品だ。だからお前たちのA級の魔石と交換しようと持ちかけろ。これ二個とお前たちの魔石一個で十分に取引が成立する」
「そうなの!?ネーポムクの魔力にそんなに価値が!?」
ナジブの言葉にパウラ目を光らせました。
今後この手で稼ごうと企んでいますね。
「当たり前であろ。儂を誰だと思っておる」
自慢気に話していますが誰かは知りませんよ。でも恐らくそこそこの地位にあった魔法師だったのでしょう。聞き出しませんけどね。
「この魔石があれば魔力を入れ替えて火と氷は問題ない。もう一つ補助用は集めた小粒をまとめれば使えるだろう。相当な数だからな。それで俺がエアハルトの剣を打ってやる。剣が出来てからアスカム山脈へ向え」
私は別に魔王と呼ばれる何かと戦うつもりはなかったのですが、どうやらこいつらは行くなら倒す気で行くでしょう、って思っているようです。それも面白いかもですね。
「……はぁ、わかったよ。皆でエアハルトの剣が完成したらアスカム山脈へ行く」
ネーポムクは不満気に鼻を鳴らしましたが笑顔は隠せてません。エアハルトとパウラはホッとしたような感じです。二人は私を心配していたようです。
なんだかくすぐったいですね。
次の朝に予定通り貴族達に私達が持っていたA級の魔力が込められた魔石を見せました。
いくら馬鹿な貴族でもこの透き通った輝きを見ればA級品だとわかるはず。
「こ、これをどこで手に入れた!?いや、入手経路などどうでもよい、ぜひ私に譲ってくれ!いくらだ?言い値を払おう」
食い付きもいい。あっ、パウラの目が光った。
「言い値と言われましても困りますわ。ねぇ、エアハルト?」
さも彼の許しがないと売れないかのように視線を送っていますが、エアハルトは黙って頷いただけです。
「これ程の品を手に入れるのはとても大変だったのです。何ヶ月も魔物を追い、倒しては魔石がないことに失望するということを繰り返し何度も挫けそうになりましたわ。そして遂に手に入れた時には涙を流して喜び合いました。ねぇ、エアハルト?」
コクリと頷くエアハルト。
「ですけど喜び勇んでここへ参りましたら魔石が足りないことに気づきまして途方に暮れておりましたの。ねぇ、エアハルト」
頷き方も様になってきました。
「ですから私達は魔石が欲しいのです。これと同じ様なの魔石を二つ」
「それなら私の魔石と交換しよう。私は火と氷の二つを持っている。剣を作るには最低二つ必要だというからこれで作ると良い。いや構わん、私は一度王都へ戻りもう一つ魔石を用意して来ればいいだけの話だ。私にはその余裕があるが君達にはこれ程の魔石を用意するのは難しいだろう。だからこれは君達へ譲ろう。あぁ、ナジブ。私達はまた直ぐに戻ってくるからこれまでの準備はこの者たちへ使ってやってくれ。そうすれば一切無駄無いのだから私が料金を払う必要はあるまい」
貴族達は私達がA級品の価値に気づいてないと思ったのか一気にまくしたてるとさっさと引き上げて行きました。




