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思っていたより順調に川の復旧は進んでいきました。最初に話していた範囲を大きく上回る区画の片付けがあらかた終わり後は土魔法を使える魔法師に仕上げてもらうだけになりました。
「そろそろ引き上げよう。魔力も尽きそうだ」
ぐったりとしたネーポムクとパウラはさっきまで先を争うように略式詠唱魔法を使いまくり早くそれを体に馴染ませようと頑張っていました。
パウラが凍らせた塊は私とエアハルトで取り除いていきましたが彼女も見込み通り中々の魔力量の持ち主でした。
もうすぐ夕暮れとなる時間だったので、帰る為に四人で森の中を町へ向かって歩いていました。
「それにしてもパウラも凄いけどロータルも地味に凄いな」
ネーポムクはA級だから凄いだろうと認識していたようですが、彼と同じ様に魔法を使い続ける私達にエアハルトが驚いていました。
「地味ってなんだよ。普通に褒めろよ」
私が本気を出せばこの二人なんて足元にも及ばないんですよ、魔王ですから。
「本当にね、ロータルってずっとエアハルトに身体強化をかけ続けてたんでしょ?本当に凄いわね」
自分にもかけていたので二人同時に使っていましたが、コツを掴めば身体強化程度はさほど魔力を必要としません。息をするように使えますよ。
「それよりエアハルト、まだ余裕あるか?」
身体強化をかけていたとはいえ彼も長時間動きっぱなしでした。私は彼に尋ねつつ町に向かいながら当たり前のようにかけていた探索に引っかかっている獲物の強さを測っていました。
「あぁ、それほど疲れてないがどうした?」
彼は何かに気づくと腰に帯びている剣に手を添えながら言いました。
「グリーベアだ。結構デカいぞ」
この辺りでは森の王者と呼ばれると後で知ったグリーベアは獣タイプの下級魔物です。下級の中では強い方で先日食したパイアより強いです。
「グリーベアか、ちょうど良い。奴は狂暴で力は強いが頭は良くない。腕試しには最適であろう」
あまり魔力が残っていないネーポムクがニヤリとしていいました。勿論有事に備えて余力を残していたのはわかっています。
この辺りではそれほど強い魔物はいないのでそれを見越して魔力量を調整していたようです。パウラの方も彼が魔力量をみて残すように指導していましたから大丈夫でしょう。
もしエアハルトが疲れているなら避ける事も考えましたが戦っても良さそうです。
「じゃあこのまま進むぞ。すぐそこだ」
向こうもこちらへ向かって来ていますから後数十メートルです。
「ネーポムクとパウラは俺の側を離れるな。エアハルトは疲れたら下がって来い。俺はここで盾を作って待機してるから休めるぞ」
遠目でグリーベアを確認すると直ぐに見えない"鉄壁"を展開し口先だけで詠唱しました。エアハルトに身体強化、攻撃力と防御力向上の魔法をかけ頷きました。
「いいぞ、行って来い」
鉄壁は私に危害を加える気がないものは出入り自由にしておきました。戦いに疲れたら休憩を取るために戻ればいいでしょう。勿論ここから魔法攻撃が出来るようにもしました。
「来た!」
パウラの声に目を向けるとグリーベアが凄い速さでこちらへ向かって来るのが見えました。四つ足で駆ける岩のような巨体は我々の前で立ち上がると三メートルは優に超え、振り上げた毛むくじゃらの前足を勢いよく振り下ろして来ました。
「キャー!……あ?」
その迫力に悲鳴をあげたパウラでしたが、ガッという鈍い音以外になんの衝撃も受けない事に気づき間抜けな顔をしました。
「俺の剣が一度も通らないんだぞ。これくらいでロータルの盾が壊れるわけないさ」
余裕のエアハルトとネーポムクを見て少し恥じらうパウラ。
「わ、わかってたわよ。だけどグリーベアなんて初めて見たからビックリしただけよ」
「それはもう良い。そんな事より今のうちに氷魔法で攻撃してみろ。勿論略式詠唱だぞ」
ネーポムクはそう言いつつ自分がさっさと魔法を唱えました。
「"えろ"」
「「プフッ」」
エアハルトとパウラが真剣な顔のネーポムクから目を逸らし何かを堪えています。
まだ油断すれば吹き出してしまうようですね。
ネーポムクの火魔法は最初に流木を吹き飛ばした火球よりも少し威力を弱めたものでした。グリーベアの肩部分に直撃し奴はグラリと体を泳がせましたが足を踏ん張り倒れませんでした。
「調整出来るようになったのか?」
「当り前だ。朝からどれほど時間が経ったと思っておる」
さもありなんという風なネーポムクの横でパウラが頬を引きつらせました。彼女はまだそこまで出来ていません。
調整された"えろ"攻撃は安定した魔力使いで連射も可能のようです。
「流石年の功だな」
「そろそろ行けエアハルト、"えろ"」
ネーポムクが攻撃してグリーベアの気をそらすと、エアハルトはその隙に盾から出て奴から距離を取りました。
「体が軽い!それに力が漲ってくる、これが補助魔法か」
身体強化ではそこまで感じなかったようですが、攻撃力向上の魔法を初めて実感したようです。
「負ける気がしない!」
言うなりグリーベアに飛びかかると袈裟懸けに剣を振り下ろしました。
ガキィーンっと、剣とグリーベアの前足の爪がぶつかる音がし、エアハルトが弾き飛ばされました。
いくら身体強化と攻撃力増々でも一撃では倒せませんね。
ザザッと足を滑らせながらもグリーベアを睨みつけ直ぐに追い打ちをかけてくる奴から距離を取るべく横っ飛びしました。
「"つけ"!あれ?"つけっ"!」
パウラがエアハルトを援護すべく氷魔法を打つ出しますが焦っているのか魔力が安定せずグリーベアの後ろ頭をヒンヤリさせているだけに見えます。
「興奮状態をさませようとしているのか?」
「うるさい!気が散るから黙って!"つけっ"!もうっ、どうして?」
焦れば焦るほど狙いも外れ威力も発揮出来ていません。見かねたのかネーポムクが隣で指導を始めました。
「先程の訓練のようにすればよい。頭に当てようと思うな、先ずは的が大きい体を狙え」
「わ、わかった」
その間もエアハルトはグリーベアへ攻撃の手を緩めず何度も斬りかかっています。
ふむ、あれは楽しんでいますね。
下級とはいえ魔物は魔物。油断をすれば命を脅かされる存在ですがそれを相手に自分の力を試すような動きをしているようです。
「これが魔法師の補助を受けるって事か!凄いなロータル!」
ともすれば自分のみの実力だと勘違いする輩もいるが、彼は大丈夫そうですね。流石勇者候補。
エアハルトは何度か斬りつけグリーベアの体毛に覆われた皮膚の硬さも測りながら徐々に奴を弱らせていくと、チラリとパウラを見ました。
「今だパウラ、魔物が弱って動きが鈍っている。先ずは……」
「"つけ"!」
パウラは教えられた通りグリーベアの大きな胴体を狙いました。こちらに背を向けていた奴の背中のど真ん中に当たったパウラの氷魔法は、矢じりのように尖った先でサクッと突き刺しました。
「当たった!」
きっと針で刺したのようなチクッとした痛み程度だったでしょうが、グリーベアを苛つかせるには十分だったようです。奴は振り返るとこちらへ向かって飛びかかって来ました。
「キャー!"つけつけつけつけーー!"」
焦って連発した氷魔法は今回はそれでも上手く放たれ、グリーベアの肩や胸に次々と刺さっていきます。
「"えろ"」
パウラの針攻撃では埒が明かずネーポムクが少し強めの"えろ"を撃ちました。顔面に当たった火魔法はグリーベアの動きを鈍らせましたがそれでも奴は突っ込ん出来ました。
「わぁーー、"つけー!"」
「"えろ"」
盾の間近まで迫って来たグリーベアに再度二人が同時に攻撃しましたが、奴の勢いは止まらず。仕方無く私は拘束魔法をかけ、同時に昏倒魔法をかけました。
ガシッと盾にもたれるようにグリーベアが張り付いたと同時に奴の首が宙に舞いました。




