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自身が燃え上がりそうな勢いのネーポムクに変化が見えたのはその直後でした。
「ふんぬぅ、"えろ"ぉー!!!」
渾身の魔力を込めたのか物凄い高温を感じ視線を向けるとネーポムクが狙いを定めていた流木に目掛けて火球が放たれ、当たる勢いで爆散し周りの木々諸共吹き飛びました。これはこの前見た"燎原の火"と同等の威力です。
「キャーー!」
「なっ!?……見たかっ、我が力を!!」
パウラの悲鳴とネーポムクの驚愕と自画自賛の声が響きました。
「見た見た。もう一回出来るか?」
偶然出来ただけでは駄目ですからね。
私の冷静な返しに二人共驚いた顔をしています。
「もうちょっと一緒に驚いてよ」
「儂の力を疑うとは……見ていろ。"えろ"!」
ネーポムクが再び略式詠唱魔法を唱えると中級火魔法級の火球がまた流木を爆散させました。無駄な消費をしていた魔力が上手く火力に変換されたようで、初級火魔法だったかつての"燃えろ"は一つランクが上がって中級となったようです。
「見たか!やはり儂は優秀な魔法師なのだ!」
「キャーー!ちょっと何回もこの距離でぶっ放さないでよ!危ない!」
なんだか賑やかな初仕事になってきました。
あっ。エアハルトが離れた所で呆然とこちらを見ています。
彼の身体強化した馬鹿凄い力のお陰でこの一帯は結構片付けが済んでいますね。
「エアハルト、お疲れさま。休憩したら対岸へ移ろうか」
「……あぁ、休憩が必要だ」
やはり疲れているようですね。
ご機嫌のネーポムクが爆散させた木々の残り火から焚き火をおこし湯を沸かすと少し遅めの昼休憩となりました。勿論他の火は消しましたよ。
「俺って魔法師の事、何も知らなかったんだな」
ギルド長二クラスの所から貰ってきたサンドイッチを食べているとエアハルトがため息をつきました。手にしたサンドイッチはひと口かじっただけで進んでいません。
「なんだよ、いまさら」
そもそも剣士で、A級剣士の冒険者と少し旅しただけのエアハルトに魔法師の事がわかるわけありません。私はパウラと顔を見合わせるとお互いに首を傾げた。
「エアハルトは剣士だし、私達とも会ったばかりだもの。仕方無いと思うけど?」
パウラが慰めるようとしたのか遠慮がちにいいました。でも否定はしないんですね。
「いやだけどまさか、詠唱を縮めるなんて……しかもあの威力。あれって中級位の火力だろ?ネーポムクはやっぱりA級なんだよな?」
私達にはっきりと話してくれたわけではないですが、ネーポムクは人類の中では出来る方らしいのはわかっていました。魔力量も豊富だし経験も十分してきたでしょう。
「当然であろ」
ネーポムクはサンドイッチの中身の肉だけを慎重に引き出し、パウラに見つからないようにモグモグと食べてながらいいました。
ですよね、肉だけ食べたい気持ち。貴方ならわかってくれると思ってました。
「パウラも始めたばかりでもう少しってとこまで来てるなんて。くぅ、俺も訓練したい!」
エアハルトが私をじとっと見てきました。
「わかった、休憩後はエアハルトにつきあうよ。"鉄壁"すればいいのか?」
私は剣士では無いので直接指導とかは出来ませんから、取り敢えず彼の攻撃を受けとめてやるだけです。
「最初はそれでいいけど、その後さっきみたいに身体強化をかけてもらってそれで攻撃してみたい」
「それは嫌だ」
私の即答にエアハルトが目を見開いた。
「なんでだよ?」
「俺の魔力で作った防御を俺の魔力をまとったお前が攻撃するとお互いに力が干渉して何が起きるかわからない。恐らく無効化されるか反発が起きて、下手すれば爆発が起きる」
「「えぇー!?」」
エアハルトとパウラが声を揃えて叫びました。ネーポムクは勿論知っているので驚いているパウラの目を盗み、またサンドイッチの中の肉だけを引き出して食べています。
「そんなの聞いたこと無いよ」
「俺も」
エアハルトやパウラが知らないのも無理ありません。誰も自分で自分を攻撃しようなんて思いませんからね。
休憩を終えてさっきの約束通りエアハルトに付き合うことにしました。
川の対岸へ移り今度はネーポムクがご機嫌で略式詠唱の火魔法で流木の処理をして依頼をこなしています。まだ"えろ"しか使えてませんがその内上級魔法も習得するでしょう。
パウラもその横で"つけ"を連発し、狙った泥の表面が薄っすら氷りつつあります。
うんうん、順調です。
「クソっ、全然、壊れる、気がしない!」
私が二人の弟子達を見守っている横で見えない"鉄壁"にエアハルトがガンガン攻撃してきます。こっちでないとパウラ達を観察出来ませんからね。
エアハルトは使い慣れた剣を昨日折ってしまい、今は二番手の予備の剣を使っているようですがこれもかなり使い込まれています。
ガキィーン!
カァーン!
ガッ!
様々角度から私の"鉄壁"を攻撃してくるエアハルトに視線を移すと彼の動きをじっと見ていました。
「剣が少し軽いんじゃないか?」
彼の剣はなんだか力を載せきれていないように見えます。
「はぁ、はぁ、やっぱりそうかな?俺もそんな気はしてた。だけど今までは金が無くって新しい剣を買えなかったんだ」
折れた剣も今の剣も前に一緒だった冒険家から古いのを譲り受けた物だったようです。エアハルトは冒険者にしては見た目が細身でしなやかな筋肉をしています。しかし見かけによらず力は強いのでもう少し重めの方が攻撃力が上がるでしょう。
「剣って高いのか?」
金の話をすると途端にパウラがこちらへ目を向けてきました。
「高価な剣は素材を自分で提供すれば幾らか割り引いてくれるって聞いたことがあるわ。"つけ"!あっ、出来た」
おっ、範囲は小さいですが凍りましたね。
「剣を買うならジジルではなくもう少し先の森の中に住んでいる刀鍛冶のナジブに頼むのが良いぞ」
少し高揚したようにネーポムクが言ってきました。覚えたての略式詠唱魔法は好調なようで安定した威力を発揮し、こちら側の流木もあらかた片付いています。
「そうか、だったらもう少し金が貯まったら素材を探しながらそこへ向かうか」
「ちょっと、私の成長をもう少し讃えてよ」
「パウラ偉いぞ!」
エアハルトが慌てて褒め言葉を口にしました。流石勇者候補。
パウラも不満気ながら礼を言いました。
「だったらここの依頼を早く片付けて狩りに行かなきゃね」
「いや、俺の為に皆に稼いでもらうわけにいかないよ。おいおい貯めていくから最初の予定通り旅を続けよう」
急にエアハルトが遠慮がちに言いました。
「何言ってるの。今だって皆の食費を稼いでるのは殆どエアハルトじゃない。どうせ狩りだってあなたが一番稼ぐに決まってる。私達がそれに同行するようなものよ、細かい事気にしないで」
さらりとそれだけ言うとまた"つけ"と唱えました。
あっ、また成功ですね。
エアハルトはパウラが凍らせた泥と木屑の塊を両手で掴むとゆっくりと持ち上げキラキラした笑顔を見せました。
「凄いぞ、パウラ。しっかり固まってるし凄く冷たい」
「でしょ?ふふふ」
にっこり微笑み合う二人をネーポムクと生温く見ていました。
これって何かが始まった感じですか?




