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幸田くんに救われた私

聖女視点です。


 聖女になって各地を巡っている時、何処へ行っても孤児がいる現実を突きつけられた。

 人の街を出れば野生動物や魔物が跋扈(ばっこ)する世界、その現実があるのは簡単に予想出来たはずなのに。



 全ての領に孤児院はあった。教会が支援しているとはいえ、その生活は裕福とは言えない。

 孤児院に入れない子供も多く、私には見せてもらえなかったけど、路上生活している子供がいる事も話には聞いていた。



 最初は義務感から、孤児に転生する事を肩代わりしてくれた幸田くんを探す旅だった。

 でも多くの孤児に会って、酷い生活を目の当たりにしていく内にある感情が芽生えてしまった。


 早く幸田くんに会いたい、早く幸田くんを見つけて話して笑い合って慰めてあげたい。



 この想いは1年も経つと、より大きくより強くなっていき、そして私の想いは現実となって運命の出会いを果たすのだった。



 ネルケルト王国の旅程では、最後となるはずだったロンバード領でそれは起こった。

 ここじゃ無かったらどうしようかと、焦燥感さえ感じ始めていた時だった。


「コーダ!どうしちゃったの!?」


 目の前の金髪青目の少女が、私に突っかかってきた少年の名前を呼んだ。

 私が欲しくて欲しくてたまらなかった、あの名前と同じ少年が立ち去ってしまう。


「・・・コーダ、貴方、コーダと言うのですね。私の探している人と同じ名前です。」


 つい自分の想いが出てしまった。今まで誰にも言って来なかったこの想い。

 シエラだってお母様だって知らない私の宿願。


「俺は貴女なんかと会った覚えもない。失礼、お騒がせしました。」


 少年が出て行ってしまう。でもその少年を追うのは私じゃなくて別の女の子。

 羨ましかった、今すぐ追って真相を問い詰めたかった。


 コーダと呼ばれた少年が出て行くまで、背中をジッと見ていたのがその後の悲劇を生んでしまったのかもしれない。



 ロンバード子爵は幼児性愛者として有名で、私にいやらしい目を向けて来ている事は分かっていた。

 ただ自分を囮にしてまで罪を白日の下に晒す事も出来ず、このままこの領を後にする予定だった。


 コーダという少年に会った日の夜、ロンバード子爵が屋敷を抜け出した事が分かった。

 護衛を連れて決定的瞬間を現行犯逮捕しようかと思いその後を追う事になった。


 後を追うと言っても、すぐ後ろを尾ける訳にもいかないので、目的地さえ分かればそこへ突撃するつもりでいた。



 どうやら目的地は昼間に訪問した孤児院で、誰かと会っているらしい。

 子供の姿を確認出来たようで、あの少年を見送ってしまった鬱憤を晴らすかのように、本格的に痛めつけてやろうとさえ思っていた程だった。


 

 孤児院までの道中、あくまでも尾行なので徒歩で進んでいると、孤児院の方向から光がほとばしるのが見えた。


 急いで孤児院の庭の中まで行くと、何かがガラスを割って外に出てきていた。

 何となく誰かが分かった私は、もう何処かへ行って欲しくなくてその存在に声をかけた。


「誰か・・・そこにいるのですね?貴方のやった事は重罪ですよ。今こちらへ来て頂けるのならば私からも弁護出来る事もあるでしょう。どうです?」


「・・・お前の助けなんかいらない。俺達に構わないでくれ。」


 その声が聞こえた直後、少年と思わしき何かが宙へ飛び上がるように感じた。


(振られちゃった、かな?でもまあいっか。彼のルーツを知れたんだし、そこに行けば何か分かるかも。)


 彼は私の元には来てくれなかったけど、これまでも追い続けてきた彼の痕跡を知れた事で、少し私は楽観的になっていた。



 ロンバード領を出て南下して行くと、彼の言ったように街が見えてきた。

 街とは言ってもひどく寂れていて、みすぼらしい家屋が集まっているような場所にしか見えない。


 あの街が見えてくるまでは、崩れた建物とかが目立っていて、とても人間の住む場所とはとても思えなかった。

 今、目の前に見えてきているそれ(・・)も、とても・・・私は住めない。



 この〈ヴォーガ〉を警護している自警団に話を通して、案内してもらうことになった。

 案内をしてくれるのは、ジルフィという副団長の部隊で主に周辺の警戒をしているらしい。


(ここでなら彼の事を調べられるかも知れない。とりあえずこの自警団で聞き込みねっ。)



 とりあえず私は護衛に着いてきてくれるらしい、お兄さんに話を聞いて見ることにしよう。


「すいませぇん。あの〜昔ここに金色の目をした少年がいませんでした〜?ちょうど私くらいの大きさの。」

「聖女様っ!?・・・金色っ、ですか!?・・・そ、そうだ、バーリー!・・・バーリーお前知り合いだろっ。」


 バーリーと呼ばれた人が連れて来られて私に事情を説明してくれるようだ。 


「聖女様、僕はバーリーと言います。あなたのお尋ねになっている少年の、・・・コーダ君の保護者、だった者です。」

「こ、コーダ!それです!その人です!教えてください!」


 私が聞きたかった名前、私が知りたかった事がここにあるのがはっきりした瞬間だった。

 

「ええ、僕が話せる全てをお話しますよ。ご案内しながらでもよろしいでしょうか?」


 そうして私達は〈ヴォーガ〉の状況を見せつけられる事になった。

 大通りや公園など、他の街でも見られる活気がある場所を重点的に巡っている。



 でもそれが全てだとは、とても思えない。見せたく無い物を出来るだけ隠そうとしている事が見てとれたから。


 すれ違う者達、私達をジッと窺っている者達。

 全ての人間が、痩せていて十分に栄養をとれてないのがありありと分かってしまう。


 子供に至っては、走り回る体力もないのか手遊びしている子供が多く、私が今まで手を差し伸べてきた孤児とは隔絶した貧困を目の当たりにした。


「聖女様、コーダ君は元気でしたか?しっかり食べていたでしょうか?」


 私には答えられなかった。彼に会えた事が嬉しくてそれどころでは無かった。

 でももっとちゃんと見るべきだったんだ。

 孤児として生まれる事がどう言う事か、私は想像すらしていなかったんだ。



 今までは孤児さえ救えれば良かったし、向こうも孤児さえ世話して貰えれば良かった。


 でもここは、孤児とか大人とか保護者とか関係ない。全ての人間が救いを求めて(すが)りついてくる。

 この自警団という警護がいなければ、この隔絶された土地で身ぐるみを剥がされて、路地に捨てられてしまっていたかも知れない。


 ここは興味本位で来る場所じゃなかった。もっと理解と慈しみをもって接しないと雰囲気に食べられてしまいそうになる。

 私は寒気すら感じるこんな場所に、生まれなくて良かったと心の底から思った。


「・・・少し大通りに戻りますが、最後に連れて行きたい所があります。僕が、いえ僕達がコーダ君を拾った場所へ。」

 

 私達はこの現実に食傷気味になりながらも、最後の目的地に向かうのだった。

次の話も聖女視点になります。


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