博多の海賊王
船はよい。
塩の匂いを運んでくる風、海鳥の鳴く声、そして喧騒盛んな港の豊かな音色をたなびかせる。中央の貴族共はこのすばらしき環境を粗野だ、野蛮だ、と言うが、それは物を知らぬ、というものだ。果たして、話に聞くだけの富士の山を見て、それを綺麗だ、と言えるか?
そんなわけねぇ。
この大海原、ワダツミ様の御加護がお守りくださる外つ国との架け橋を見ずして、感じずして、野蛮、美しくない、花がない、などと言っていいはずなどない!
この壮大な大海原に足を踏み入れず、感じずに天命をまっとうするのは地獄道に落ちて良いかもしれない罪かもしれない。
「ひっはーぁぁぁ!!、片っ端から奪っちまえー!」
だが、美しさの中には当然、悪辣な悪鬼も潜む。語り伝えられた竹取物語のように。
俺の乗る船は今、沈みかけている。
唐船を真似て造られた巨船、剛棒丸。三度の唐土(中国)、二度の南蛮への航海を共に乗り越えてきた俺らの盟友が今、その帆を燃やし船体を傾け灰燼と化そうとしていた。
四度目の唐土への航海、その帰りにまさか灰となるとは思ってもみなかった。博多の港へあとすこしで至れたというのに。
巨大な船が港近くに突如として姿を現したときに嫌な悪寒を覚えたのだ。この剛棒丸すら超えるほどの巨船は唐土でしか見たことがない。巨大な二頭の龍の船首が禍々しく牙を剥き、今にも煙火を撒き散らそうとしていた。
そして、その船から降りてきたのは無数の色黒く肌を焼いた男たち。皆体のいたるところに傷があり、錆びついた刀、銛を片手に俺の仲間をぶち殺していきやがった。俺も腹を銛で貫かれた。血がとまらねぇ。
「首領、この男まーだ息してっぜ?」
「こりゃ、死ぬな。腹ん中ぶっ潰れてんじゃ」
うるさいな。それはもうわかってんだ。クソ、見るな。見るな。
お天道様を拝めんじゃないか。
「ふん、ほっとくがよい、この阿呆共が!んな死に損ないに念仏でも唱えるか?オレはごめんだ」
聞こえてきたのはこの場ににつくぁしくない優美さを感じる、しかしはっきりと力のこもった声。なんだ?だれ、だ?
「さっさと、荷を奪うがいい!でねぇてめぇらとここらの死にゴミどもとまとめて鮫の腹ん中ほーりこむけっど?」
うぃ、とつばを飲む声がかすかに聞こえた。
いつの間にか俺を見てたやつらは消えて、海鳥の声、さざなみの声、船のきしむ音だけが、そこにはあった。
これまでの、俺の航海人生。
最後の幕引きは”最悪”、大凶だ。
*
これより一月の後、京の都へ筑前守より海賊追討の嘆願書が届けられた。
治天の君、鳥羽上皇はこれ受け、即座に中務大輔であり、備前守である平 忠盛にこの博多周辺で暴れる海賊を追討するよう院宣を下した。
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