謀密談
翌日、それは俺にとっての約束の日だった。その日までに忠盛公がどのような武士であるかを清に証明しない限り、俺は穢多共の巣に簀巻にされて放り込まれて死ぬまでゲイバー人生を送ってしまうのだ。そしてそれが俺をどれだけ恐怖させるか、陵辱されることに苦しみを覚えさせるかは想像に難くない。考えてみろ、自分が簀巻にされて人ともおぼつかない怪物共に陵辱されてしまうんだ。例えるならアレだ。よくエロ漫画とかにあるオークに陵辱される姫騎士、とかそんな感じだ。
そして俺はそれは望まなーい!そんな最悪な結末で俺の大事な貞操を奪われてたまるか。こちとら魔法使いになるかもしれないくらいに女運ないけど、それでも男に貞操を奪われるのは、とても泥臭いの貞操を奪われるのは絶対に嫌だ−!ほんとマジで神様お願いしますよ?俺としてはささっと清と忠盛公を仲直りさせたいんだよ。
とまぁ、なんも策がないように見えるだろうが、一応考えはある。いや、正確にはとある書物に書かれている内容が実行されるこを俺は心から願っていた。それはもう、願って願って願いまくっていた。多くはフィクション、とされるあの作品だが歴史的背景を鑑みればあってもおかしくない出来事などはよく書かれている。そう考えれば、あの出来事もおそらくはあったことなのだろう。
そうと決まれば、俺がまず向かうべきは家貞さんのところだな。あの人は平家一の家人。当然財務に関しても理解があるはずだ。とすれば俺の計画における大事なピースとして揃うはずだ。たしか、家貞さんはここに住み込んでいるはずだから……あ、いた。少し探してみると馬に水を飲ませている家貞さんが目に入った。本来ならあんな雑用はしなくてもいいはずの立場にいるが、おそらくは罰ゲームみたいなものだろう。忠盛公をあんな目に合わせてしまった自分への戒めといったところか。ご苦労なことだ。
「家貞様、こちらにおいでになりましたか」
俺は敬々しい態度で水やりをしている家貞さんに近づいた。家貞さんは最初俺が近づいてくることにどこか怪訝そうな顔をしていたが、俺が何か良からぬことでも考えていることを勘かなにかで感じ取ったのか、一瞬にしてそのまとっていた気配が変わった。
「これはこれは三条殿。この私なんの御用でしょうかな?」
「はい。実は家貞様に折り入ってお頼みしたきことがあるのです」
なるべく相手を尊重している体を装いつつ、俺は家貞さんの瞳に視線を合わせた。
「頼み事、ですか。はてこの私にできることなどたかが知れていると思いますが?」
とぼける家貞さんに俺は少し強めにでてみることにした。
「実は、大殿をお救いするためなのです」
その言葉がトリガーになったのは間違いない。家貞さんは紳士的な態度を崩すと俺を掴んで厩へと引きずり込んだ。そして真剣な目つきで俺を睨んだ。
「お救い、とはどういうことだ?まさか、大殿がお隠れあそばされるとでもいいたわけか?」
「そうならないための用心です。私といたしましても主と大殿がこのまま仲違いをしたままというのは少々困るのです」
俺は精一杯迫真の演技をしてみせる。家貞さんの放つ強烈な殺気の助けもあってか、俺の顔は恐怖で歪んでいることだろう。それでいい。それこそ相手が信用してくれるファクターだ。
「一体どのようなことを考えている?」
「簡単です。大殿は刀を持てば百戦錬磨の達人、であるなら刀をもたせれば良いのです。刀を持たせて殿中へと参ればよいだけのことでございます」
直後、厩を揺さんばかりの空気を晴れるさせるような音が響いた。まさか男に壁ドンをされるとは想像もしていなかった。間近で経験した壁ドンはとても強烈で、ドキドキしてしまう。恐怖で。
「殿中に刀を持ち込むことは古来より禁じられておる。持ち込めば最後、殿は殿中を穢したとして断罪されるぞ」
「そうはなりません。なぜなら、大殿は刀を持ち込むことはないからです!」
「何ぃ?」
この発言は矛盾しているように聞こえる。しかし、これは決して矛盾していない。確かに刀を殿中には持ち込むさ。だけど、あくまで刀と呼ばれるであろうものであって刀そのものではないんだ。マジックのダミーナイフとかそんなものを想像してもらえばいい。それを例え持ち込んだところで、別に罪にはならない。だって刃物じゃないんだから。
「今から言う計画は家貞様と私だけの秘め事としてください。実は……」
俺が考えていることを家貞さんに話すと、家貞さんは少しだけ難しい顔をして思案するように口元に手をおいた。
「……可能……ではある。……しかし、そんなもので大殿が守れるのか?すぐに用意はできるだろうが、見ればすぐに……」
「大丈夫です。色合いさえ似ていればまず見間違えますし、なにより乱れさえなければ騙すことは容易でしょう。家貞様とて闇夜の中、篝火の炎だけを頼りに見極めることができますかな?」
「確かに……有用ではある。なるほど。良いな。良い策だ。実行する価値はある」
安堵した。話をすすめる限り、家貞さんはアレがこの屋敷にあることを知っている。あとは忠盛公の演技振りと度胸に期待するだけだ。
何の武力も持たない俺にできるのはここが限界。殿中に入ることは俺は許されていない。せいぜい入れるのは道や視線を遮る幕までだろう。
「頼むぜ神様。どうか平家物語のあのシーンの再現をしてくれよ?」




