表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
源平活況物語  作者: 賀田 希道
かつて天を目指したものたち
PR
36/69

玄関騒動

 その後、二時間くらいが経った頃くらいだろうか?多分、午前の七時くらい、だと思う。小豆色の衣冠に着替え、烏帽子をかぶった忠盛公が奥から姿を現した。化粧をしているのか、朝の光にあたって顔が照り輝いていていた。手には檜扇を持っていて、腰には儀礼用の木刀を差していた。他にもその木刀はとても彩色豊かだというのがあったが、全部紹介していては切りがない。とにかく、今の忠盛公の服装はまさに貴族の服の例としての服装だと言えた。


 現れると家貞さんを初め、その場にいた家人、郎党は一ミリの乱れもなくその場に膝をついて頭を下げた。その光景は圧巻の一言に尽きる。その場にいた人間が一斉に動いたのだから布切れの音が、刃が鞘の中で鳴る音が重なり合い、ひときわ大きな音となってその場に響いた。

 彼らの行動はオートマチック化され、そこには忠盛公に対する純粋な忠義、畏敬の念が感じられた。ただ現れただけで自分の意志とは無関係に人を平服させられるだけの存在感がある。ただ周りに習って膝をついただけの俺とは違う、そこには明らかな主従の絆があった。


 「大殿、お待ちしておりました。お支度の方はよろしいので?」

 沈黙を打ち破り、家貞さんが張りのある声で忠盛公に訪ねた。その問いに忠盛公はただ、「清はどこだ」とだけ口にした。家貞さんがどんな顔をしたのかは知らないが、ラグなどなく自分の主人の問いに、「まだ寝所かと」とだけ応えた。


 「あやつめ。今日は早くに経つと伝えておけ、と三条が伝えたはずだが。三条、伝え忘れたということはあるまいな?」

 そう睨まないでください。俺はちゃんと伝えましたよ。伝えました、と言ってみたら忠盛公は大きくため息をつき、「あのバカめ。三条よ、悪いがあのバカの寝所まで行って起こしてくれないか?もしものときは実力行使しても……」


 しかし、そこで忠盛公の言葉は切れた。なぜなら眠そうにあくびをしながら、ちょっと綺麗な直衣を着て清が現れたからだ。彼女はいつものように剣を担ぎ、ふてぶてしい態度で忠盛公の前で軽く頭を下げた。これにはその場にいた家人、郎党も口元が引き締まってしまう。送れてきた上に父親に対して敬意など微塵も感じさせない態度など、木刀で叩かれてもおかしくはない。


 「清。遅れたのならば詫びの一つを入れるべきではないのか?」

 「では、申し訳ございませんでした、父上。これでよろしいでしょうか?」

 なんて態度だ。謝る気などまるでない。俺はこの瞬間、手の甲と手のひらの両方で汗が吹き出していた。朝っぱらからこんな衝突、心臓と胃に悪すぎる。


 「わかった。では、家貞。悪いがまずは腹ごしらえがしたい。何か用意してもらえないか?」

 「は、かしこまりました」

 普通なら支度する前に飯を食えよ、と言いたくなるが、ここではこの人がルールだ。俺がとやかく言うことはできない。


 家貞さんは二人についていき、同時に俺や他の家人、郎党は脱力したように、あるいは安堵したように立ち上がった。皆口々に、「あれは恐れいった」、「あの場で清盛様が斬られなかったのは……」と清のさっきの行為の感想を言う。しかもその多くが清の行動を避難するものばかり。

 当然といえば当然か。清は忠盛公の長女であるが、同時に臣下の一人だ。臣下が主君に楯突くなど――少なくともこの時代では――あってはならないことだ。それは平将門、藤原純友の例を見れば明らかだ。世間はまだ、下克上に寛容ではないということだ。


 そしてしばらくして忠盛公と清、そして家貞さんがまた姿を現した。今度は膝をつくといった行動は起こらない。全員、そんなことよりもさっさと忠盛公と清の出立の準備をすることのほうが大事だと思っているからだ。


 「馬は?」

 「は。すでに外に用意しております」

 うむ、と忠盛公はうなずき、門へと歩いた。家貞がそれに続き、他の家人、郎党は道を開けた。清と俺は歩きだ。まず俺は馬に乗れないし、そもそも従者扱いの俺たちが馬に乗るというのもおかしな話だ。


 「つか、あんた茜はどうしたのよ?」

 「え?あ」

 「間抜けね。さっさと起こしてくれば?親父殿だってすぐには出ないでしょ」

 清に間抜けと言われるのも考えものだが、ここはありがとう、と言って俺は茜を目指した。


 例によって茜はまだ寝ていて、前日の俺の話など忘れているようだった。ぶっちゃけ殴り起こしたい。でもそれができないからもどかしい。

 仕方なく彼女を背中に担いで、俺は玄関へと向かった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ