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源平活況物語  作者: 賀田 希道
かつて天を目指したものたち
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いつかカードを揃えるために

 夜、清は一人で屋敷に戻ってきた。門番をしていた鱸丸が清に駆け寄っていく姿を見て、俺も彼女に近づいていった。清は俺の顔など見たくもない、とでも言いたそうな雰囲気で、俺が近づいても言葉を発しようとはしなかった。俺が何を言っても、彼女は昨日の件があるし、聞こうとはしないだろう。だから鱸丸を中継して俺は清に、二日後の宴に参加しろ、ということを伝えた。


 彼女はそれを聞いて小首をかしげ動揺し、鱸丸に説明を求めた。当然鱸丸は説明などできるわけもないので、俺にお鉢が回ってきた。だけど、俺だってなんで忠盛公が清を宴に呼ぶのか、その真意がわからなかったので、とりあえず清に殿上人とはどのような存在かを見せつけるため、と応えておいた。すると彼女はますますわけがわからない、と鱸丸を通して俺に、そんなものなら平次でも連れていけばいいでしょ、と言ってきた。


 ごもっとも、と思いもしたがそれで片付いてしまっては清は来なくなってしまう。仕方なく、なにか彼女を納得させられるような魔法の言葉を模索した。しかし、そんな言葉そうそう思いつくわけがない。殿上人がどんな存在か見せつける、と言ってもこう返されては元も子もないというものだ。確かに普通なら平次を連れて行くところだとは思うんだよな。


 だってこんな反抗的で、気性の荒い女よりも、おとなしそうで理知的な平次ならば、宴の場にいるであろう貴族とも揉め事を起こさないだろうし、安心感がある。いや、それが狙いか?清は今の王家に対して、王家に従属する存在に対して反抗心をつのらせている。その清に対する荒療治みたいなものとして、清を宴に呼ぶ、ということをしたのか?


 とりあえずそんなことを言ってみたら、清はまた返してきた。今度は、どんな荒療治よ、というものだった。確かに貴族世界を見せて、だからなんだ、という話だ。王家に反抗心を持っている人が王家の宴なんぞを見ても気分が悪くなるだけだろうし、何も面白くない。結論から言って、彼女には宴で何もメリットというものがないのだ。


 お付のもの扱いだから膳が運ばれてくるわけでもなし、酒もない。基本貴族の後ろに座って舞なり能なりを見るしかないのだからな。はっきり言ってつまらないし、退屈だ。

 だから俺はもう考えることをやめ、こう言った。

 とりあえず来い、と。もう反論もクソもない。命令にいちいち反抗するなんてきっとバカバカしいだろう。親父さんの命令だ、と言われて清がおとなしく従うかどうかは不明だが、こう言えば嫌々でもついてくるはずだ。


 「『わかった、で、いつ』だそうです」

 「昼の宴らしいから、辰の刻にはもう門前にいればいいんじゃないか?一応俺と茜もついていくつもりだ。だから清が宴の席で暴れる、なんてことはないと思うから安心してよ」


 最後のは鱸丸へ向けての言葉だ。彼女は終始、清が何か粗相をしでかすのでは、とビクついていた。当然だろう。清のことを幼いころから知っている彼女なら、清の性格は当然俺以上によく知っている。そんな彼女からすれば清が院の宴に招かれるというのは気が気でないに違いない。


 かく言う俺も不安はある。口では止められるよ、と言ってもそんなもの確約できるわけがない。一応院の中には剣などの武器の類は持ち込めない、という決まりはあるけれど、それでも殴ることくらいはできるからな。


 かなりの不安要素が残るが、とりあえず清が宴についていく、というのを了承させられたのはいいことだ。あとは茜をどうにか説得して宴の席に忍ばせておけばいざってときに清を取り押さえてくれる。彼女を思いとどまらせはしよう、と努力はするけど、もしもの時は、ね。


 ああ、でも明後日のことを思うと腹が痛くなってくる。もし、清が何か憤るようなことが起きるんじゃないか?俺にそのしわ寄せがくるんじゃないか、と思うと胃に穴が空いてしまいそうだ。

 今の俺の状態ってひょっとしなくても入学式で子供がちゃんとしているかハラハラしながら見ている親と同じかもしれない。


 「あー、嫌だなぁ」

 寝泊まりしている小部屋に戻って、俺は同居人が起きているのを確認してぽろりとこぼした。ついでに大きくため息もついてみる。するとどうだろうか?茜はまるで反応しなかった。むしろ狸寝入りをしている有様だ。


 「ねぇー、あかねー。あかねさまー!ちょっと聞いてくださいよ−!」

 「え、え?ちょっと何やってんの?ねぇ、ちょっと?あんた何やってんの?」

 敬称込みで揺さぶってみると、茜は目を覚まし、ちょっと驚いた様子で俺を見た。こちとらもう幼児退行したいんだ、それくらいに今は茜にすがりたいんですよぉ!


 「部屋に戻ってくるなり何?えー、うわー、えー?ちょっとどしたの?あんたがあたしに涙ながらに様付けとか逆に怖いんだけど」

 「いやぁー、茜はいいよね。俺みたいに胃が痛くなるようなこともなくてさ。あー俺も茜のようにもっとらっっっっくううううううっくくくくk!!!!」


 「あんたさちょっと、失礼じゃない?いきなり泣きついてきたかと思えば、今度は何?けなしに来たわけ?」

 いきなり茜は俺の両のこめかみをげんこつでグリグリしてきた。痛すぎて俺の脳みそが震えてしまう。そもそも大太刀を軽く振り回すくらいの怪力で、グリグリされたら最初のグリで首がねじ切れてしまう。


 「あーぁぁぁ!すいません、すいません。ちょっとだけ弱音を吐きたくなったんです!ここ最近清とかその周りに押し付けられることがあったんで!」

 「でもだからってなんであたしに当たるのさ!誰か別のヤツに当たればいいじゃん!」


 茜は俺の拘束を解くと、体勢を崩した俺のみぞおちに蹴りを入れた。痛みを感じる暇もなく、俺は壁に打ち付けられた。

 「で?あんたはあたしに何をさせたいわけ?」

 「いつつ。二日後の宴に護衛として院に忍び込んでくれない?」


 「いいけど。でもいいの?院ってアレでしょ?この時代のーこっかいぎじどー、みたいなのでしょ?そんなとこにあたしみたいなのが忍び込んでいいわけ?」

 「いいんじゃないの?見つからなければ、ね」


 茜がどれだけ隠形ができるのかはよくわからないけれど、使えるものは使おう。今の俺にはまだカードが揃っていない、まだ俺はチュートリアルが終わってすぐの冒険者、つくられたストーリーに従うしかないのだから。



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