三章1 異国の同胞へ
陽光注ぐ、乾燥した大地。
西側に連なる山地と、その向こうに広がる太平洋との地理的な関係によって、眼前には赤茶けた砂漠が広がっている。人が生きていくにはおおよそ困難な不毛な大地に、人竜連盟「コンサパティア」の北米東岸支部は立地していた。
かつては米空軍のエドワーズ空軍基地と呼ばれ、今も「エドワーズ」の愛称で呼ばれるこの施設は、北米本部直属の東岸支部が空中艦の整備・運用拠点として活用している。広大な地下ドッグを有するこの基地では、米陸軍と空軍の外人部隊の一環として、複数の部隊と艦が運用されている。強大な武力を有する民間組織を牽制しつつ最大限活用するには、米軍の旧基地はうってつけだ。
時に五月中旬。熱気を含み始めた乾燥した風が吹きすさぶ中、一隻の空中艦が離陸しようとしていた。
全長約四五〇メートルの巨艦は柄に似合わず静音で、しかし砂ぼこりを盛大に巻き上げながら、ゆっくりと高度を上げていく。大きく突き出した艦首とその左右に格納庫を兼ねたカタパルトデッキを有するその艦影は、大型艦の左右に中型艦を連結させたようにも見える。大型の連装精製竜力砲を四基八門装備するその威容は、弩級戦艦という表現が相応しい。
「本当にこんなものを送って大丈夫なんですか?」
基地の管制塔から離陸の様子を眺めながら、中肉中背の男が傍らの長身の男に訊ねる。二人とも米空軍の人間であるが、同時にコンサパティアの人間でもある。長身の男の肩には大佐であることを示す階級章が、中背の男の肩には中佐の階級章が縫い付けられている。
「極東支部の連中は自衛隊の管理下にあるとは言え、中身は完全に軍隊だ、問題ない。ちょっと艦のサイズはデカいがな」
「あの艦は我々が作り上げた最新鋭艦です。辺境の支部に渡すには過ぎた装備なのでは?」
中背の男の発言に、長身の男は分かってないなとでも言いたげに首を振る。
「あの国はすっぽり竜脈に覆われてるんだ。あの国に戦争で勝った我々の進駐軍が撤退するほどだぞ? あれくらいの装備は必要だ」
並列駆動する擬似竜力生成炉がうなりを上げ、巨躯を大空へと押し上げる。十分な高度に達した後、空中艦は艦尾のノズルから青白い炎を吹き、西へと艦首を向けた。
「いいか、ファイレン、俺たちは人間と立場を同等にし、真の共生を目指す。そのためには多くの同胞と手を携えなければならない。あの艦は、その証明だ。だから、過ぎた装備とか言ってくれるな」
「失礼しました、レイル大佐」
軽く頭を下げ、それから小さくなってゆく艦影を目で追う。白がベースの艦体はカリフォルニアの太陽を浴びてキラキラと輝いているが、納入先の陸上自衛隊ではきっとオリーブドラブに塗装されるのだろうと思うと、ファイレンは少しだけ悲しくなった。
あの白い色が、まるで大空を舞う白鳥のようで美しいというのに、個性も主張もないあの色に塗られてしまうのは、作った側の人間としては出来れば避けて欲しいことだったが、おそらく無理な話だろう。
「艦名は、何になるんでしょうね」
「さあな。だがあの国にも美しい自然遺産がたくさんある。きっと良い名前を付けてくれるさ」
「そうですね」
同意の言葉を口にした後、ファイレンは部下からの報告に耳を傾ける。レイルは、山の向こうに艦影が消えるまで、その後ろ姿を眺めていた。
「二ホンか、久々に行ってみたいな」
三日後、このイエローストーン級三番艦という艦種の空中艦は、ハワイを経由して陸上自衛隊新琵琶駐屯地に降り立った。




