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瞬く間に一年が過ぎ、花純も何とかこの世界の生活に慣れてきた。
カイトと直哉も異例の速さで騎士課を無事に卒業した。
二人も花純と共に、騎士団へと入団する決意を固める。
学園側に騎士団の入団試験の願書を提出し、明日はとうとうその試験だ。その後合格した者のみ、面接があるらしい。
花純は事務課。直哉も事務課。そしてカイトは騎士としての入団を希望している。
直哉は母親であるデュボラの切なる願いで、騎士は断念したようだ。
直哉の目的はあくまで花純の近くにいることだったので、騎士団に入団さえ出来ればいい。
反対に騎士になるより、花純と共にいられる時間が多いかもしれない。その甘い期待に身を浸していると、カイトに気付かれて軽く睨まれてしまった。
騎士団入団試験の結果が解かる頃にパンダニ学園の卒業式があるので、それまでは寮にいられるようだ。入団出来なかったら最悪だけども。
それを聞いて、花純はほっと安堵の息を吐いた。
何しろ、この世界には自分の家がない。
カイトも直哉も自分の家にきてもいいとは言ってくれていたが、あんまり長い間だと気が引ける。
今後、どうしたらいいのかケニーに一度相談した方がいいのかもしれない。
「お前たちが卒業してしまうと寂しくなるな・・・」
ゴードンはもう少し文官課で学ぶことがあるようだ。未来の大臣候補だ。習うべきことは無数にあるらしい。
アルジネット、クリース、オレグは特級課に進むそうだ。
アルジネットは星に興味があるらしく、天文を専門的に学ぶらしい。本人いわく、貴族の道楽ということらしい。まだ結婚もしたくはないし、かといって家へこもるのも嫌だということだ。
クリースは鉱石の研究。オレグは環境の研究をするらしい。
翌朝、花純は少しだけ増えた服の中からでも一番上質なものを着て部屋を出た。
部屋を出ると、カイトと直哉が待っていてくれた。
「おはよう。・・・緊張するね」
「いつも通りにしていればいい」
「花純は頭がいいんだから一発で合格するよ。僕もね」
カイトと直哉にそう告げられて、花純は緊張しながらも微笑むことが出来た。
「直哉君は一番で受かるんじゃない?」
「そう言う花純だって騎士団長自らスカウトしたんだから、もしかして試験を受ける必要もないんじゃないの?」
花純の言葉に直哉も応戦する。
それにはちょっと触れて欲しくない。
騎士団は独身寮もあるというし、花純的には都合がいい就職先なのだ。
学園に通っている間に支給されたお金はそんなに使わずに蓄えてはいたが、一人で生活出来るほどではない。
騎士団でしばらく働いて、お金が貯まってきたら本格的にこの世界で何がしたいか考えようと思っている。
ヴィートが言っていた利用させていただくことにしたのだ。
学園の門の前にゴードン、クリース、オレグ。そしてアルジネットまでが立っていた。どうやら激励にきてくれたらしい。
「まあ、貴女なら大丈夫だとは思ったのだけど。・・・頑張りなさいよね」
「うん、ありがとうね。アルちゃん」
カイトの家の馬車が迎えにきてくれている。今日はこの馬車に乗って騎士団へと向かう。
「カスミ、緊張してるんじゃないか?」
ゴードンの茶化した声に、少しだけ緊張が解けた。
「さっきまでは少し手が震えてたけど、今は大丈夫だよ」
「カスミ、おまじないしてあげる」
クリースが花純の手を取って手首に何やら嵌めてくれた。
花純がその手を目の前に持ってくると、細い鎖に一つだけピンク色の玉がついていた。その玉に何か文字が彫られてある。
花純が見ていると、もう一度クリースに手を取られる。
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・」
額にその玉を当てて、何か小さな声で呟いた。
何を言っているのかまでは聞こえない。
「はい、終わり」
「・・・ありがとう」
クリースが嵌めてくれたということは、もしかしてこの玉・・・・・・高価なものだったりするのかな?
もしかして宝石?
とても可愛らしいものだけど、花純にはよく価値が解からない。
「お前っ! これ・・・・・・例の奴か?」
「うん、そうだよ」
ゴードンが驚愕したように、クリースに訊ねる。
「カスミ、これな教会で祈りを込めて貰っているまじない石だ。石はどんなものでもいいらしいが、教会に多額の寄付がいるらしいぞ」
「クリースがカスミに贈るものだから、この石だって安いものではないよな」
ゴードンがいつものように説明してくれて、その後オレグが何やら変な突っ込みをしている。
「ふふ・・・・・・」
声を出して笑いながら否定もしないクリースに、花純は背中に変な汗が浮かぶ。
(やっぱり高いものだった・・・・・・)
「あ、ありがとう・・・・・・」
「うん」
満面の笑顔で頷かれる。
アルジネットが花純の手首を覗き込み、何故だかもの凄く羨ましそうな顔をしている。
「これって、何でも一つだけ願い事が叶うという例のやつですの?」
「うん」
いいなぁ~・・・。という顔に少し笑えた。アルジネットでも欲しいものがあるようだ。
「クリース、僕たちにはないの?」
「男は実力でいかないとね」
「・・・・・・・・・」
直哉もカイトも羨ましそうな顔をこちらに向ける。
何だかすみません。一人だけもらってしまって・・・。という状態に、花純は肩身の狭い思いをした。




